DEBUG・ROOM
ようやく着いたらしい。
タイム・トラベル特有の振動が収まった。時間にして五分ほどの航海だったが、それよりも長く感じられたのは、気のせいではないだろう。
ちょっと前までは、タイムトンネルの光が不気味に瞼を透過していた。だが今は、それさえ治まっている。
私の動悸は、依然早いままである。目を開ければ、そこは元居た時間ではなく、1649年の9月である……はずなのだから。
一つ深い溜息を吐いて……それから、私は目を開いた……
するとどうだろう!……
そこに……そこにあったのは、ただの真っ黒い部屋だった!……
フラグON
都市伝説の片鱗を見た
可能性のクラウドに
フラグOFF
バシアゴの嘘を暴いた
不可解の産物で
幕は上がる黒い部屋の
冷蔵庫のリンゴはもう芯だけ
フラグON
可逆の道しるべを
男に聞いた
フラグOFF
不退転のヴィジョンを
テレビで見た
幕は上がる黒い部屋の
ティーポットはからで鼠が眠る
DEBUG・ROOMはがらんどう
何もない場所でした
DEBUG・ROOMはがらんどう
僕を見る場所でした
DEBUG・ROOMはがらんどう
何もない場所でした
DEBUG・ROOMはがらんどう
君を見る場所でした
カツ……カツ……
背後で杖の音がするのに気が付いた。
もしやすれば、ここの主であるのかもしれない。
くるり。と振り返ってみると、そこには顔面に大きな時計をつけたような、黒づくめの男が立っていた。
男>「おめでとう、科学者くん。」
「なにが……なにがおめでたいというのです?
私はタイムマシーンを作った。そして江戸時代へ逆行しようとしたのです、決してこんな所へ来るために、努力してきたわけじゃない。」
男>「うむ、だからおめでとうと言っているのだ、科学者くん。君は確かにタイム・トラベルを実行できたのだ。
ただし……ここは五分前の世界……DEBUG・ROOMと言うのだがね……」
「五分前……?五分前と言うのなら……私の研究室に飛ばない道理がありますか?」
男>「それがね、あるのだよ。ついてきてごらん、いいものを見せてあげよう。」
そして男は、一つのドアを開いた。