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 初めて目覚めたときは夢の中だった。

 辺りは一面真っ白け。白が無を抱いて存在する、始まりの夢界。


自分が何で、どうしなければならないか、まったく覚えていなかった。


ただうとうとと、ぽかぽかと。心地よい浮遊感に心をあずけているばかり。


どれくらいそうしていたのだろう。

どこからともなく声が聞こえてくる。


「さあ、行こう。新しい場所で、新しい名前をやろう。古きは消え、新しい世界に夢見よう。」


白いモヤに紛れて遠いところで映像が見える。

ものすごいスピードで誰かの視点の世界(まいにち)が流れてゆく。


誰かの……?


いや、自分のだ。自分が生きた世界だ。他の誰でもない、紛れもない自分自身。


なのにどうして?

どうして何も思わない?


ああ、最期の時が来た。


それは世界戦争の最中。争いを止めようと出掛けた●が殺されて──


「── エスティンジオンッッッ!!!!」


それはすべてを恨んだ自分の声。消滅を意味する白の超魔法。


白い魔法陣は急速にありとあらゆる世界中に広がり、皆等しく零に還る。

無意識にかけていたリミッターなんてものは当にぶっ壊れていた。

思うがまま、叫ぶがままに力をこめる。


そう、そして最期。


「ごめんなさい、かむいさん……」


そう言って泣くかんなの声だけ耳に残って、気を失ったんだ。


全てを壊したのは自分自身。

それを知って尚、俺は何も思わなかった。


────────────────


ようやく意識がはっきりとして、ここはグランディアの中であることを知った。

いつの間にか今までの一面真っ白とはうって代わり、見覚えのある屋敷の景色。


手始めに魔法で仮の体を生成し、屋敷のなかを探索する。


やけに気分がスッキリとしている。

過去に何があったかを全て覚えているはずなのに、負の感情一つ胸に無かった。


「かんなー?」


その姿を探しながらその名を呼ぶ。


耳をすませても、声どころか足音一つ聞こえなかった。


「おーい、かんな、いないのか?」


そう言って入ったのはピアノの部屋。


黒い楽器の上に見慣れぬ紙の束があることに気がついた。


「『A-0からの記録』……?」


タイトルと思われるそれは紛れもないかんなの字で綴られていた。


無言でページを開いてく。

書いてあるのはかんなの施した再構築とその後について。

仮の世界とその寿命について。

四人の赤瞳について。

炉の精製とブルーハイヒールについて。

俺が不死者になっていることについて。

ゲンゲルについて。


事実の海とかんなの苦労、悲しみ、涙……


読み終えて尚、負の感情一つ浮かぶことはなかった。


ただ一つの変化。

頬に涙がつたってく。


何で泣いてるかわからない。


ただ泣いていることに気づくともう涙が止まらなくなった。


あれ、あれ……?


ああ、そうだ。

確かこう書いてあったな。


『魔法を使ったあと、体から精神と魔力コアがそれぞれ分離した。さらに精神は負の感情ばかりが膨らんでゆき、そのまま放置すればおそらく修復不可能になっていただろう。応急処置として精神を正と負に分裂させ正の精神を魔力コアと融合。魔力コアは激しく抵抗し、さらに十数個に分裂。肝心なコアと正の精神は融合に成功したがそれ以外の魔力と負の精神はいくつかは行方不明になってしまった。』


『ようやく負の精神と思われるものを発見。だが既に手遅れだった。純度の高い魔緘石と結合し、新な人格を得ている。彼は姿形こそはかむいさんに似ていたが戦闘の様子はまるで違った。高い魔力を有していながら、使うのは彼のもつ特殊な剣。その剣はおそらく、はぐれた魔力と魔緘石からできたものだろう。魔法攻撃すら切り裂かれてしまう。私ではまるで歯が立たず放置するしか他になかった』


『グランディアに閉じ込めたかむいさんは、おそらく目覚めても元のかむいさんとは別の存在になっているだろう』


……つまり。

今の自分は元のかむいの一要素でしかない、というわけか。


─────────────────


どれくらい日がたっただろう。


どうやら自分が死ねないと言うのは本当らしい。何も飲まず食わずなのに一向に死ぬ気配がない。

魔力も昔のように延々と精製され続ける。

ただ一度に使える量は昔ほどではないようだが。


ここにいる自分は何者なのだろう。


そんな問いを千を越えるほど繰り返してきた。


世界を滅ぼし、好きな人を泣かせた、そんな人間の一要素。


これから何をすればいいのだろう。

何をしてもいいのだろう。


纏まらないまま外に出た。

昔とほとんど変わらないルワーユの街。

でも知っている人なんて誰もいない。


いつしか正の精神から生まれたはずの自分の心は負の感情で埋め尽くされていた。


何を考えても辛いばかり。


路地を右に曲がったところでふと、足を止めた。


♪~


軽やかなピアノの音。

それは目の前の家の中から聞こえてきた。


「では、私はこれで」


出てきたのはおそらく20代の若い男。

道具箱を手に持って、ドアの向こうの人に笑顔で会釈している。


そのままこちらに向かってきた。


俺は特に悪いことをしていたわけではないのに、立ち止まっていたことがなぜかよくない気がしてまごまごしていると、彼はそのまま通りすぎてしまった。


それが調律師トロイとのファーストコンタクトだった。


そのあとグランディアに帰って真っ先にピアノを弾いた。


ところどころ変な音がする。


調律……


そういえば、目覚めてピアノを弾くのはこれがはじめだった。


何も確かめず、全てに目と耳を塞ぎ部屋の隅でうずくまる。


そんな毎日がバカらしくなった。バカらしくてバカらしくてたまらない。


気がついたら笑い出していた。


そして決めたんだ。


旅に出よう。

旅に出て、全部全部を確かめるんだ。


──────────────


そのあと自分が旅にでるまではトロイの話の通りである。


月明かりの中、Fはまだ熱心にかんなの書いたレポートを読んでいた。


もう引き返せない。


タイムリミットはもう少し。


ごめんね、F、リンナ。


俺は少しだけ微笑んでFの隣に明かりを灯した。




こんにちは。ななるです。


十月ももう終わりますねー!

ハロウィンの準備はできましたか?


では、次回があれば、またお会いしましょう!

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