D-91:レポート
D-91:レポート
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── 全ては想定外の結晶だった。
なんとかたもてた空間を時計の中に閉じ込めるまではよかった。屋敷に閉じ込めた彼の魔力コアと心の一部は時間さえたてば意識を取り戻すだろう。
あとは体。
空っぽになったこの入れ物をどう保存するか。
飛び出た心が体に馴染むまで待っていては、きっと先に朽ちてしまう。
しばらく考えた結果、やはり他に方法を浮かばなかった。
……ごめんなさい。どうか許してください。
横たわった白い体に優しく手を当てる。
出来るだけアタタカクなるように。
出来るだけヤサシクなるように。
人形のように静かだった体は呼吸をはじめ、みるみるうちに命の色を取り戻して行く。
あとは目を覚ますのを待つだけ。
そう思ったときに異変は起きた。
その体はゆっくりと輪郭を失い、ただの光の塊へと変貌した。
やがてそれは私のもとを離れ、瞬く間にどこか遠くへと翔んでゆく。
全ては一瞬のこと。
いそいで追いかけ追い付いたときにはもう遅い。
赤い瞳をした少年がすやすやと穏やかな寝息をたてて、見知らぬ女性の腕に抱かれて眠っていた。
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「……なんだよ、これ」
ドッぺルに手渡されたそれは手書きのレポートの束だった。
紙の質は脆く、気を付けていなければ破れてしまいそう。
表紙には『A-0からの記録』と書かれている。
「世界の再構築後からしばらくのことが記録されているレポート、というよりは日記かな。さっき話した虹色の魔女が書いたものだよ」
ドッぺルは窓の外を眺めながら言う。
髪や瞳の色はいつの間にかいつも通りに戻っていた。
リンナは別の部屋で一人休んでいる。
あのあと、パニック状態になったリンナをドッぺルが魔法で眠らせて連れていったのだ。
ここは本日の俺の寝室。
俺たちは先ほどの話の続きをしていた。
「……なあ、その髪とか瞳ってさ……」
「ああ、言ってなかった。本来は先程の通り白なんだ。これは魔法で変えているんだよ」
さっきからやけに窓の外ばかり見ているドッぺルはまったくこちらに顔を向けない。一体何を見ているのだろう。
窓に写った青い瞳と目があった。
「俺のことよりさ、そのレポートを見た方がいいんじゃない?知りたいことのほとんどが書いてあるよ」
そういわれて再びそのレポートに目を落とす。
知りたいこと、か。
なにかモヤモヤしながら文字の世界に身を沈めた。
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実に驚いた。
まさか存在ごと書き換えてしまうことになるとは。
黒髪、赤瞳、本来の彼とはまったく異質のものになったそれはなかなか目覚めることはない。
例の道場当主Cに彼を預けることにしてから数日。
何の変化もない。
引き続き観察を続けよう。
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計算では彼はあと100年は目覚めないだろうということが発覚。
そのことをCに伝えても彼女は相変わらず豪快な笑い声をあげて、
「それなら私の息子に頼めばいい。もっというならいつか生まれる孫にも頼もう。なあに、私の一族は義理堅いんだ。そうそう約束をほっぽり出すようなバカは生まれないさ」
などと言う。
……彼女にはまったくかなわない。
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今日はフラッタを離れルワーユの視察にきた。
いくら再構築を繰り返そうと変わらないこの町は相変わらず美しい。
今日は次期国王の少年にあった。名をグレイスピアというらしい。
とても聡明な彼はどこか……いや、なんでもない。
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思っていたよりもこの仮世界のエネルギー消費が激しい。
このままではもう数年ももたないだろう。
まだグランディアに封じたのコアも復活していない。
体の方もまだ……
もしもの時のため『炉』の精製に取りかかることとした。
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グレイスピアには本当に酷なことをしてしまった。
喜んでいた彼の顔を思い出せば出すほどに胸が苦しい。
世界の保存を次期ルワーユ王の彼に命じた。
力を与えたあとの彼は瞳が赤色となった。
どうやら、私が手を加えるとそのようになるらしい。
『炉』もほぼ完成。
あと数日と迫った崩壊にも間に合うだろう。
あとは私の体をどうするかだが……
願わくばフラッタの町に飛ばされるよう……
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数ページずつ飛ばしながら、文字を追う。
抽象的で、呟きのようにかかれていて、まったくわからないはずなのに……
……どうしてだろう。
どうして、涙が止まらない?
いつもふざけてヘラヘラしているくせに、こんなときこそおどけて欲しい。
Fがそうどんなに思っても、ドッぺルは相変わらず窓の外ばかりを眺めているのだった。
こんにちは、ななるです。
台風は過ぎ去ったでしょうか。
被害が出ないよう祈るばかり。
さて、次回があれば、またお会いしましょう!




