D-90:Who am I ?
D-90:Who am I ?
ドッぺルはもったいぶるようにもう一度お茶をすすって、ゆっくりと答えた。
「今は白の世。── そして、俺こそがその世界監督。白色の魔法使いなんだ」
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「「あっそ。それで?」」
「ええっ!?なんか反応薄くない?」
いや、今までも魔力尽きないとか、体縮むとか、死なないとか色々あったし、『実は神様的存在でしたー』とか何を今更……となるわけで。
「もう少しリアクションが欲しい」とかぶつぶつ言ってるそこの白髪に向かって俺は一つだけ気になったので聞いてみた。
「じゃあ、俺のドッぺルゲンガーって話は嘘だったのか?」
そう、よくよく考えれば変なことばかりだ。ドッぺルゲンガーなら、出会ってすぐに俺死んでるはずだし。俺の使えない魔法使いまくるし。どうやら大昔からいるみたいだし。……いや、よくよく考えなくても変だったな。
ドッぺルは顎に手を当てて「うーん」と唸りながら何かを考えている。
やがてリンナが大きくあくびのと同時に口を開いた。
「嘘、というわけではない、かな」
「どういうことだ」
「ええと……口で説明するより実際にやってみた方が早いよね── それっ!」
ドッぺルがそう言って指をパチンとならすと、奴の体が白く発光しだした。
と、そうしてるうちにドッぺルの体は輪郭を失いまるで煙のようにうねうねしだして……
「えっ、えっ?えっ……」
俺の口の中に入り込んできた。
「あがっ!お、ふぉいっ!?」
「ちょっと!あんたFに何してんの、ていうかどうなってんのそれ?!」
リンナが俺から距離をとりながら叫ぶ。
目の前にいたドッぺルが完全に姿を消し、部屋の中は静かになった。
「あれ、何ともない……」
俺は自分の手をいろいろと動かしながら異常がないか確かめる。
距離をとっていたリンナもゆっくりと俺に近づいて「大丈夫?」と声をかけた。
「ああ、特に何ともない。……そんなことよりリンナ、ちょっとデコを出してみろ」
あ、あれ?
「えっ?いきなり何?」
「いいから」
あれ?あれれ?なんだこれ?
「こ、こう?」
リンナは自分の前髪を上げて上目遣いで俺を見る。ちょっと恥ずかしいのか頬が少し赤かった。
「そうそう。じゃあ、目をつむって…… 」
「…ん」
ゆっくりと目を閉じフリーズ。
俺の口から「クスッ」というくすぐったい音がもれる。
……ちょっと待て。
直後──
パンっっ!!という激しい音ともにリンナの「痛ったあああっっ!!」という絶叫。すかさずリンナは俺の襟元をつかみ
「いきなり何すんのよ!!」
とガンをとばす。
「いや、俺は、何も……というか体が勝手に動いて……」
というか声だって勝手に出て……
「そんなニヤニヤしながら言われて誰が信じるのよっ!」
ええ、俺笑ってんの!?
何がなんだかわからず混乱してきたところで、自分の体がまた勝手に動き始めたことに気づく。動いて、というより震えている?
「……ふふ……あっはっ……あっはははは!」
あれ、なんで面白くもないのに俺笑って?
「いやはや、成功して良かった。乗っ取られる気分はどうだい、F?」
乗っ取られ……ええ?
「リンナもだまくらかせるとは、モノマネなんてはじめてだけど良くできて良かった」
「あんたまさか……」
リンナがおでこを片手でおさえながら、こっちを指さす。
「あっはは。そう!Fの体を奪ってみました!」
な、なにぃ!?
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再びドッぺルが俺から分離して席につく。俺とリンナは取り敢えず奴を睨み付けて説明を促した。
「あっはは。そんな目で見ないでよ。一応謝ったでしょ?」
謝られた覚えはない。
「ええと……どこから話すかな。まぁ今見てもらった通り、俺はFの体を奪うことが出来る。正確に言えば取り戻す、の方が近いけど」
「俺は奪った覚えはないぞ」
「まぁそれはそうだけと……さっき俺が世界監督の白色の魔法使いって話をしただろ?」
こくり、とうなずく。
「世界監督には一番最初に一番大切なお仕事があるんだ。それは『再構築』。要するに魔法使い一世代分続いて古くなった世界をリニューアルする、そんな作業」
そんなデパートの改装みたいに言われても。
「もちろんその時生きていたものたちを消滅させたりとか、そんな物騒なことはしないよ?誰にも気づかれないようにバッバッと、一瞬で。」
うん、わからん。
「それで、俺もその時が来たのでそれをやることになったんだけど……訳あって失敗しちゃって。」
おい。
「そのせいで俺の体や心、その他もろもろが十数個に分裂しちゃったんだ。いやはや、そのせいで全部まとめて始末しないと死ねないし、散々だよね」
その他もろもろって何!?怖い、笑顔でさらっとそんなこと言われても怖いよコイツ。
「今いる俺は心の一部と元々持っていた魔力の合わさった、いわばコアのような存在。この体は魔法で作ったかりそめのもの。本当の体は今Fが使っているものだね」
そこまで話すとドッぺルはまたお茶をすすってふぅ、と一息ついた。
ふぅ、て。なんでそんな落ち着いてるんだよ。
「ちょっと待て。じゃあ俺は一体何なんだ?お前の話だと俺はただの体だけみたいじゃねえか。じゃあここにいる俺は、一体何なんだよっ!?」
リンナは先程から何も言わずにうつむいている。
ドッぺルもまた、俺の言葉に少し顔を曇らせた。
「……リニューアルに失敗した直後の俺は当然ながら意識なんてなかった。全てアイツに無意識に押し付けて、眠ってた。目覚めたのはおよそ300年前。その頃にはもう全てが手遅れだった」
「なんの話をしている……」
「白と黒が巡る中、時々、同時に虹色が現れることがある。俺には相方に虹色の魔女がいた。全てを失敗した俺の代わりに、彼女は自らを犠牲に俺の復活のための時間稼ぎをした。そのために作られたのがここ、時計の世界。復活に最低限必要な心、魔力、体を保存するための場所」
ドッぺルは酷く遠い目をしていた。きっと、その目に映るは暗き過去。
「しかし、そこには問題があった。心と魔力はほっといても問題ないが体は違う。心亡き体は通常ならすぐに朽ち果て壊れてしまう。そこで彼女は考えた。いっそのこと心を宿させてしまってはどうかと」
……。
「F、君は母親を知っているかい?」
……。首を横にふった。
「……心を芽吹かせるには相当な時間がかかる。ようやく完成したその心は体に対して酷く幼かった。心と体には密接な関係がある。やがて、体は宿った心にあわせて幼体化し、魔女によってある男のもとへ引き渡された」
「それが……父、さん……」
はは、ははは……そっか。
だから瞳の色が違うのか。
だからあんまり似てなかったのか。
だから母親について教えてくれなかったのか。
だから、だから……。血が繋がってなかったから……
「嫌っ!!」
突然、リンナが大きな声で叫んだ。
「嫌っ、嫌っ!!そんなの、もう聞きたくないっ!!」
「リンナ?」
「── だって、それってつまり、私も……っ!!」
リンナは頭を抱えて泣き出した。
私も……?
どういうことだ。
ドッぺルは一瞬驚いたようだったが、いつになく悲しそうな顔でリンナに声をかけた。
「やっぱり。君には見えてるんだね?」
リンナは何も言わず、ただ涙を流し、声を漏らす。
ドッぺルはまたお茶をすすった。
きっともうさめてしまってるだろうに。
こんにちは。ななるです。
もう10月になりますね!いろいろと進展していく時期ですね!
さて、次回があればまたお会いしましょう!




