D-88:ナイスタイミング
D-88:ナイスタイミング
バリンッと大きな破壊音。王室の壁が崩れたことを目にいれたその瞬間、バラスマディアの剣先がドッペルの左胸を真っ直ぐに貫いた。──筈だった。
半壊した王室に赤の華が散る。
砂埃などで視界のぼやけた王室の中、王は剣先に刺さったそれをよく確認せずに呟いた。
「逃げられたか……」
バラスマディアの剣先に刺さった白狼騎士団の制服を纏ったその男は、第三部隊隊長ギャレック・オー。周りでは何が起こったか理解できていない、他の白狼たちが混乱している。
半壊した王室でただ一人全てを理解した王は深く深くため息をつくと「もうよい。片付けよ」と静かに命じた。伸ばした糸を消し、窓の外のそれを見つめる。遠く遠くに微かに見える、時の止まっていた屋敷を。
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「── ようこそ。時の止まった屋敷“グランディア”へ」
ドッぺルがわざとらしく大袈裟にまるで使用人のようにお辞儀をすると、何にもしていないのに立派な屋敷門が音をたてて開いた。
「いろいろと聞きたいだろうけど、取り敢えず中に入って。Fもそれでいい?」
するとドッぺルの後ろからFがひょこっと顔を出して「ああ……」と一言。
リンナはそんなことお構いなしでFに駆け寄った。
「大丈夫?何があったの?」
「わからん。お前こそ無事か?鍵は?」
「── ハイハイ。説明は後で。とにかく早く入るよ!」
ドッぺルが二人の背中を押して門へと誘導する。三人が屋敷の敷地内に入るとすぐに門は閉まった。
広い庭園を三人ならんで歩く。
最初に口を開いたのはFだった。
「俺はリンナを先に行かしてから白狼騎士団のやつと戦っていた。すると急に視界が白く光って……気がついたら屋敷の前にいた」
「私は屋敷前で囲まれたんだけど、なんとか鍵を郵便桶に入れて、そしたら周りが光って……こいつがいたわ」
そう言って、真っ白少年を指差す。
二人はそれ以上お互いからは状況が把握できないことを悟ると説明を求めるようにドッぺルを見つめる。ドッぺルもそれに気づいて、少しだけ二人の前を歩いて話始めた。
「取り敢えず、リンナ。鍵を届けてくれてありがとう。ここ、グランディアは元々俺の家だった。トロイの話の通り旅に出ることに決めた俺は屋敷と鍵に魔法をかけた。屋敷には知っての通り時止めの魔法を。鍵にはそれを解く魔法と俺に知らせる魔法を。」
その時点ですでにいくつか疑問が浮かんだが、Fもリンナも敢えてそれを口にしなかった。二人はドッぺルの次の言葉を待った。
「この鍵にかけた二つ目の魔法。これがリンナが鍵を郵便桶に入れたときに発動して、屋敷周囲の情報をまとめて城にいた俺に瞬時に伝えたんだ。……あと一歩遅ければ串刺しされてた……」
ブルルとドッぺルが青ざめた顔で身震いした。一体城で何があったのか。
「屋敷周囲の状況を知った俺は取り敢えず白狼騎士団を全員城へテレポートさせ俺と入れ換えた。だから誰か一人は可哀想だけど串刺しに……まぁ、それはおいといて……全部なんやかんやでナイスタイミングだったってわけさ!」
……うーん、微妙によくわからない。
「つまりあれか?俺たちは逃げ切ったのか?」
「まあそうだね。ここにいれば結界のおかげで誰も手出しできないし。」
なるほどなるほど……
「「ふぅ……助かったあ……」」
Fとリンナは大きく息を吐くとその場にくずれるように座った。
よっぽど安心したのかすぐにでも眠りそうな勢いで半目である。
「もう、本当死ぬかと思ったわ」
「ろくでもないな、ルワーユは」
そんな二人をみてドッぺルは目をぱちくり。
「ん、どうした、ドッぺル?」
「いや……二人とも、もういいの?俺に何か聞いたり、もしくは怒ってきてもいいような状況だったのに」
ろくに説明もないまま命も狙われ、挙げ句の果てに利用されたのだ。
確かに怒ってもいいかもしれない。
けれど……
Fとリンナはお互いに顔を見合わせると、クスッとくすぐったく笑って答えた。
「バーカ。何を今更気にしてんだよ」
「どうせここで終わりじゃないでしょ?気持ち悪い」
楽しげに明るく笑う二人を、最初は複雑な顔で見ていたドッぺルだが、すぐに二人に混ざって笑い出した。
「あっはは。なにさ、こっちはいろいろと気にしていたのに」
「取り敢えず今が安全ならそれでいいんだよ。めんどくさい話は明日だ!今日はパーっともてなしてくれよ!」
「いいわね、それ!!トロイの話に出てきた料理の出てくる魔法のテーブルとやらを見せてちょうだい!!」
楽しげに並ぶ、黒髪と茶髪とそして白髪。
三人はゆっくりと屋敷のなかへと吸い込まれて消えた。
こんにちは。ななるです。
夏も終わり秋ですね。
暑いけど秋ですね。
蝉がまだいるけど秋ですね。
……秋ですね。
取り敢えずいったん戦闘終了です。
これから物語はどう進むのか……そもそも進むのか……
次回があればまたお会いしましょう!




