D-86:キョウソウ
D-86:キョウソウ
段々と辺りが明るくなってきた。もうすぐ大通りだ。
光の中へ、その一歩を踏み込んだそのとき。
目の前に立っていたその男はニタァと笑ってこう言った。
機械音のようなノイズ混じりのかろうじて人の声に聞こえる、そんな音で。
「白狼騎士団第三部隊隊長ギャレック・オー。任務を遂行する」
─────────────────
クソッ、追手は糸だけじゃなかったか。
ギャレックと名乗ったその大柄な男。全身をすっぽりと黒いローブで隠し、顔など肌の見える部分は全て包帯のようなもので覆われている。気味が悪いったらありゃしない。
しかし、立ち止まるわけにはいかない。
少しでも止まれば、さっきの得たいの知れない糸がリンナに刺さる。
「しっかりつかまっとけ」
リンナに向かってそう囁くと返事など待たずに真っ直ぐ突撃。
あまりにも無謀なその行動にギャレックは少し驚いたようだが、すぐにまたニタァと気味悪く笑って受け身をとる。
接触するその瞬間、
「んぅ……おんりゃぁぁあああっっつ!!!」
ギャレックのさらに後ろめがけて抱えていたリンナをぶん投げる。
「いやぁぁあああっっ!!」
大通り中に響き渡るはしたないリンナの絶叫。
誰もが宙をとぶリンナに注目する中、Fはギャレックの股下を通って前方へ滑り込む。すぐに体勢を整えてリンナをキャッチすると、再び後ろを振り返らず走り出した。
今度はちゃんとお姫様抱っこ。リンナはFの首もとに手を回してしっかりと捕まりながら、半泣きの青い目でFを睨んだ。
「あんたバッカじゃないの!?バカよっ、このバカポンタン!!普通人投げるる?何が『しっかりつかまっとけ』よっ!!」
「落ち着け。通り抜けれただけ感謝しろ。── で、屋敷はどこだ?」
Fが速度を緩めずに駆けながらリンナに問う。
回りを見渡しても、あるのは民家か店ばかり。
耳をすませば後ろから追っ手の足音が聞こえてくる。
「やつらの狙いはきっと鍵だ。だったら先に依頼を完遂しちまえばいい。郵便桶に入れさえすれば俺達は何も関係なくなる、そうだろ?」
「なるほどね……でも、こっちは逆方向よ?」
ああううああああっっ!!
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再び細い暗い路地。
追っ手が見えなくなったためFはリンナをおろして自力で走らせることに。
「ええ~、もうちょっと!もうちょっとお姫様抱っこしてよぉ」
「この非常事態に何バカ言ってんだ」
今度もまた先回りされている可能性がある。もう同じ手は通用しないだろう。
幸い、もうあの変な糸は追ってきていない。ギャレックだけならなんとかなるか?
「! ── 避けろ、リンナ!!」
上からの猛烈な殺気。いち早くそれを感じ取ったFは咄嗟に空に向かって剣を構える。
ぎいぃ、と鈍く軋む鉄の音。
ギャレック・オーが上から剣を振り下ろしながら落ちてきた。
「鍵を寄越せ。そうすれば命までは取らない」
相変わらずのノイズ声。口許まで包帯で巻かれているため、その声の仕組みがよくわからない。
Fはギャレックを振り払うとリンナに向かって叫んだ。
「お前だけで先に行け!!俺はこいつを足止めする!!」
「で、でも──」
「行けっつってんだろうがっっ!!」
その剣幕に二三歩後退り、リンナは固く拳を握って走り出す。
ギャレックはリンナを追おうとするも、Fに遮られた。
「おっと、てめえの相手は俺だぜ?」
「ふふ……馬鹿なことを」
ニタァと再び目を酷く醜く歪ませてギャレックは笑う。
「まさか第三部隊の構成員が私とエレーナだけと思っているのか?とんだ阿呆だ。既に他の者に追わせている」
ぎぃ、ぎぃ、と何度もぶつかる二つの剣。狭い路地の中、地面を蹴り、壁を駆けて、宙を舞って剣舞する。その鈍い金属音はまるで忘れ去られた古代のワルツ。所々にノイズが混じる。
ギャレックの言葉を聞いてもFは顔色ひとつ変えなかった。
「構わねぇよ。俺はアイツを信じてる」
たとえリンナが捕まっても、俺はアイツを信じてる。
うざったらしくヘラヘラ笑う、あのドッぺルゲンガー擬きを信じてる。
こんにちは。ななるです。
夏がもうすぐ終わる。
そろそろ自分にも夏の思い出的な夏の思い出があってもいいと思うのに、誰も誘ってくれません。
え?餓えてませんよ?ただ受け身なだけですからね?
ぜんぜん全くこれっぽっちも餓えてなんか──
次回があればまたお会いしましょう!




