D-84:最優の騎士
D-84:最優の騎士
華やかな王室の中、激しく繰り広げられる剣と魔法の乱舞。
一人は思い甲冑をもろともせず光速の斬激を、もう一人はそれをひらりひらと宙を舞う花弁のように軽々とかわす。
時折二人の間に歪む、白き閃光。何度か試した後、ドッペルはクスッと笑い傍観に徹している怠惰なる王に聞こえるように大きな声で独り言を呟いた。
「いやはや、まさか鎧まで魔緘石で造るなんてね。ちっとも魔法攻撃が通用しない」
ドッペルの放つ閃光を全く気にせずに最短距離で突っ込むその騎士、バラスマディア。彼の瞳には生気がなかった。
洗練された剣技、高められた殺気。しかしそれ以外はまるで感じられない。
「……へぇ。既にプログラミングされてるってわけか。残念」
不意にピタッと動きを止めるドッペル。バラスマディアはそれすらも全く気にせずに目の前の目標に剣を通す。首から真っ直ぐに下ろされた剣は動かぬドッペルの体を間違いなく真っ二つに斬った── 筈だった。
「…… 本当に残念だ。もしかしたら死ねるかもって期待してたのにな」
剣の通った場所に隙間ができる。確かにドッペルの体は上と下で真っ二つ。だが、すぐにそれらはくっついて元に戻った。血の一滴すら溢れていない。
「体を魔力に変換し物理攻撃を受け流すことのできる俺に、攻撃を当てるには同じように魔法で攻撃するか魔緘石を用いるかのみ。魔緘石の剣で切りかかってくるまではよかったけど、その性質を全くいかせてないね」
ドッペルは微笑を崩さずその場で右手を指鉄砲の形にすると、「バーンっ」と言いながら光を放った。バラスマディアの動きが止まる。
「魔緘石は魔力を吸うのと同時に人の意志を纏う。意志が石の力を増幅させより発展的な効果を産み出すんだ。今回の場合、意志を持たぬ彼の剣は俺に触れた部分だけの魔力を吸い、俺を斬った。故に俺はすぐに近くの魔力でなくなった部分を補いほぼ無傷の状態を保てるってわけ。もし彼が意志を持っていた場合剣は触れた部分のみならず半径10センチほどは魔法効果を無効化し、俺を通常の肉体として切ることが出来ただろうね」
剣を振り下ろしたままの姿で動かなくなったバラスマディアには目もくれず、ドッペルは真っ直ぐに王の方へゆっくりと足を進める。
王は特に驚いた様子もなくただただドッペルの話に耳を傾け、そして答えた。
「そんなことは百も承知。でなければゲンゲルを引き入れたりせぬ。…… だが、まさかヌシの攻撃が鎧を通すとはな、それだけが失策」
表情ひとつ変えずにそう話す王を見て、ドッペルは呆れ顔でやれやれと首をふった。
「“白狼最優”なんていうから、てっきりゲンゲルより強いのかと思ったけれど全くじゃないか。それに、別に俺の魔法が鎧を貫通したわけじゃない。鎧の隙間を縫ったのさ。間接ごとの微妙な隙間。そこに針に糸を通すような感覚でバインド魔法をちょちょいっとね」
そこでようやくハッと顔をこわばらせた王。
精錬された魔法調節技術。その正確さに驚愕したのだ。
だが、すぐにまた元の無表情に戻り一人静かに納得する。
── 自分の『糸』を通す隙間があるのだから当然のことか、と。
「……『音亡くして吼えろ、それが命令なれば、我等白狼はそれに応えるのみ』」
バラスマディアのその消え入るような棒読みのその声に、王の指が秒なくして反応する。王の指から真っ直ぐに伸びたその糸は、鎧の隙間を通り抜けて彼の首もとにスッと抵抗なく刺さった。まるで今まで何度もあったかのように自然に。
ドッペルがとっさに身構えるももう遅い。
バラスマディアの剣がドッペルの左肩を浅く抉る。
装飾の施された華美な床に数滴の赤がしたたれた。
「なっ──」
「最優の騎士、とは何も剣技だけで決まるわけではない。主君への忠誠心、それがゲンゲルには足りん。バラスマディアは300年のうちの最高傑作!糸で操らなくとも私の望み通り動くよう仕込んであるが、糸を通せば更に素晴らしい。高められた忠誠心は体までも私に委ねられる。故に今のそやつは私そのもの。意志なきマリオネットとは全くの別物」
饒舌に語るルワーユ王の言葉を聞き流し、目の前の敵に集中するドッペル。ステータスは先程の何倍にも膨れ、その動きはもはや人のそれではない。何より厄介なのは、甲冑の奥のその瞳に、先程まではなかった光が灯っていることだ。
なるほど、操者の意志の一部が憑依しているのか。
鈍く痛む左肩を庇いながら、必死に剣先から逃げる。
何か打開策はないか、と先程のように魔法を放つも敵に隙がない。
魔緘石の対策は数えきれないほど考えてきたが、このような状況は予期していなかった。
こうなったら先に糸を切るか……
しかしそちらも全く隙をみせず、その動きは人離れしながらも無駄がなかった。
── 一か八か……
「《トランジ・ガリア》!!」
それは空間ごと切り取り、移動させる魔法。龍を橋町から出すときに使った魔法だ。いくら鎧が魔緘石でできていようと、周りの空間ごと移動させれば関係あるまい。
結果、予想通り目の前からバラスマディアは消え、王室に一瞬の静寂が訪れた。
が、しかし──
バリンッと大きな破壊音。王室の壁が崩れたことを目にいれたその瞬間、バラスマディアの剣先がドッペルの左胸を真っ直ぐに貫いた。
半壊した王室に赤の華が散る。
ドッペルは思いもしなかっただろう。
ルワーユ王がもう片方の手で別の誰かを操っていることを。
街の中でFとリンナが白狼に追われていることを。
こんにちは。ななるです。
さてさて、前回とは一変。バリバリの戦闘回。
橋で戦い、城で戦い、街で戦い……そんな感じの今回のシリーズ。何度も思う、平和なフラッタに帰りたい……
次回があれば、またお会いしましょう!




