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D-9:虚心に虚景に


D-9:虚心に虚景に


 いつも通りの昼下がり。町は騒がしく、森は静かで、空は青い。鳥はのびのびと歌い、リスは忙しなく踊って、人は退屈そうにあくびをする。

 きっとそうだ。


 久しぶりの昼下がり。黒色だらけのこの町の赤色が久しぶりにこの屋敷にやって来た。興奮気味で話す私を、呆れた目で見てくる。

 少し前までは考えられないことだった。Fがやっと前に進んだ。とても嬉しい。呆れられたって構わない。嬉しいかった。

 きっとそうだ。


きっとそう、なのだ。きっとそうなのに、何故?


「おいリンナ、お前何泣いてんだよ」


初めて見たはずの青い瞳。なのに何故?何故こんなにも嬉しいの?


────────────


 もうきっとお気づきだろうが、フラッタの人間は基本的に瞳が黒い。もともとフラッタに住んでいた民族がそうだったというのもあるが、それだけではない。どういうわけか皆、()()()()のだ。

 

 フラッタ以外の地域では、もちろん皆瞳が黒いなんてことはないから、色々な色の瞳の人がやって来る。そして黒以外の瞳の人間がこの町で生活すると、日に日に、その瞳は色彩を失い、約一ヶ月で真っ黒になる。老若男女関係なく、だ。

 そういった人間が再びフラッタを出ていくと、ゆっくりだが、またもとの色に戻るという。


 『フラッタの黒被り』。そう呼ばれているこの現象は、フラッタの町では『祝福』として親しまれている。


 まぁ、色以外なにも変わらないから、そこまで気にする人など他の地方では滅多にいないが。


 今日は、少女の視点から物語は展開する。


─────────────


「かん………な………?」


瞬間、リンナは胸の奥に何か鈍い振動を感じた。


何?


「ドッペル、こいつは『カンナ』じゃなくて『リンナ』だ。さっきも説明しただろ?」


Fの声がむなしく響く。少年に反応はない。


リンナはその少年から目がはなせなかった。胸の奥の鈍い振動はだんだん大きくなっていく。


「ったく。忘れたのか?そもそも俺のドッペルゲンガーなら知っていてもおかしくないというのに……仕方ない。あいつはリンナだ。リンナ・C・フラッタ、この町の領主の娘で、俺の幼馴染みだ。」


反応はない。少年はずっと私を見つめている──まるで、幽霊でも見たかのような顔で。


「おい、聞いているのか?どうしたんだ。リンナ、何かお前も言って──」


あ。


「おい、リンナ。お前何泣いてんだよ」


胸の奥で何かが弾けて、そこから私じゃない『誰か』の感情が流れてくる。心が温かい光で包まれる。これは、きっと『歓喜』だろう。


「ったく、一体全体どうしたってんだよ。」


Fは二人を交互に見ながら、頭を掻いた。


すると、ずっと無反応だった少年はクスッと笑って、


「ごめんごめん。俺の知り合いにとてもよく似ていたから、間違っちゃったよ。」


と言った。確かに容姿は似ているが、しゃべり方や動作は全く似ていない。


「俺はドッペル。Fのドッペルゲンガーのドッペルだ。よろしく、リンナ。」


「ドッペルゲンガー?」


「そう。」


「会うと死ぬんじゃ?」


「まだ殺してないだけさ。」


ふーむ。()()、ね。


「──そう。私はリンナ。よろしくね。」


まだ引っ掛かることは他にもあったが取り敢えずリンナは話を進めることにした。


「で、今日は何しに来たの?紹介だけ?」


「いや、お前の様子を見に来たんだ。ここんとこ、こっちに来なかっただろ?心配してたんだ。」


Fがドッペルに座るようにジェスチャーする。


『心配してたんだ』──リンナは胸が熱くなるのを感じた。

髪をいじりながら言う。


「心配?そうね、私がいないと食べ物も調達できないもんね。ふん、別に嬉しくないんだから!」


あぁーっ!違う違う。何で素直になれないの、私!


「いや、食い物くらい森で採れるから問題ない。シンプルに心配してたんだ。体調悪いって聞いたが大丈夫なのか?」


顔が一気に赤くなる。


「全然全然。大丈夫よ。もうピンピンしてるわ。ただの風邪よ。だから大丈夫。」


「風邪だと?お前が風邪をひいたのか?そんな、何かの間違いだろ?」


「どーいう意味よっ!」


違う意味で全身が熱くなる。全く、こいつは。


「あっはは。君たち本当に面白いや!夫婦漫才でも始めれば良いのに。」


「夫婦、て……」

再び顔が赤くなる。


「おいドッペル、ふざけるなよ。俺とこいつはそんな関係じゃねーし、そもそも漫才なんて柄じゃねえ。」


Fは勢いよく立ち上がり、こう宣言した。


「どう見たって、俺は俳優顔だろーが!」


「顔に関しては俺も同じ顔だから何とも言えないけど、」


呆れた顔でFを見たあと、ドッペルはすぐに切り替えてリンナの方を見た。


「リンナに聞きたいことがあるんだ。町にFそっくりの人が現れていたって話。」


「え、あぁ。あなたじゃないの?」


「俺は町に行ったことは、さっき此処にくる途中通った以外無いんだ。そこで、君に出来るだけ詳しくその話をして欲しい。」


「わかったわ。と言っても、私が見たのは一度だけで、それ以外は聞いた話だけど。」


リンナはFにした話に、数日前に町を歩いていたときの話を付け足して話した。


「──そのとき見たのは確か、赤い瞳の人だったわ。少し離れてたから良くは見えなかったけど。それで私、追いかけてみたんだけど、途中で見失って。さらには雨が振りだしてもう散々。おかげで私は風邪をひいて数日間寝てた、て話よ。」


「わかった。確認だけど、リンナが見たのは『赤い瞳』の姿だったんだね?」


「ええ。その通りよ。」


「赤でも青でも、ありえねえよ。俺もドッペルも家から出てないんだから。」


首をかしげるF。ドッペルは腕を組んで深く考え込んでいるようだ。


「そう言えばドッペル、お前心当たりありそうだったじゃねえか。何か知っているじゃねえのか?」


一同の視線がドッペルに集中するなか、ドッペルはうーん、と深い声を出した。何を考えているんだろう?


「お前、確か『敵』とか言っていたよな?リンナが見たのはそいつなんじゃ──」


「よしっ。」


Fの言葉を遮るように、ドッペルは勢いよく立ち上がった。


「俺の結論からすると──」


ごくり。


「きっとリンナの見間違いだよ。そうに違いない。そんなドッペルゲンガーを差し置いてそっくりなやつなんているわけないじゃん!」


がくり。


「何言ってんだ。お前が『敵』って言ってただろ?」


「そうよ、見間違いなはずないわ。」


「いいや、見間違いだ!絶対に見間違いだ。それ以外は断じて認めないよ!」


一体どうしたんだ。次回に続く……

こんにちは。ななるです。

先日、ついにポイント評価を頂きました!もう嬉しくて嬉しくて‼どうな評価でも、たとえ批判でも、評価されることが何より嬉しいです。ありがとうございます!

単純な作者です。是非評価していただけると嬉しいです。


先日『フラッタの剣士』を投稿しました。あれは、いつか本編に関与していくのでいつ読んでいただいても結構です。よろしくお願いいたします。


さて、次回。「字数的に切れちゃったけど、今回で許して下さい回」。

次回があれば、またお会いしましょう!

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