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D-83:時計の天気と塩日和



D-83:時計の天気と塩日和




ドッペルが王室にいる同時刻──。


「── もう、そんなキョロキョロして、大丈夫よ。こんなに人がいるなかで下手に動くことなんて出来ないはずよ!」


街中、大通りを歩くリンナとF。ずらりと並んだ店からは活気ある店主たちの声が競うように響き、縦横無尽に歩く人々は、皆、綺麗な服に身を包み、迷いない足取りで進んで行く。


空気はどこかツンとしていて、風も余裕がないと言うように忙しく吹き抜ける。


そんな中、Fはキョロキョロと、というより、チラチラと上を何度も見上げ、目を丸くしていた。


「いや、確かに怪しい人がいないかも気になるが……上、上!」


何でお前は気にならないんだ、と思いつつ、指をさして自分の驚きを共有させる。が、一度上を見上げたリンナは、「ああ、」と言って驚きもせず、やれやれと首を振った。


「言いたいことはわかったわ。ひとまず簡単に言うなら、このルワーユの天気はね、『晴れ時々曇り、ところにより時計』なの!」


ところにより、時計?


Fはもう一度空を見上げる。


今日の天気は快晴、とまではいかないが、澄んだ青空が見える、気持ちのよい晴れ。だというのに、自分たちのいる大通りはすっぽりと日陰の中。その陰は色濃く、まるで日傘の中のよう。太陽を覆う、というよりも遮るという表現が正しいか。Fたちの真上には巨大な橋が、ゆっくりと雲と同じような速度で移動していた。


「まあ、雨が降ることもあるけど、それは置いといて── 見てわかる通り、ルワーユのどこかは必ず、今私たちと同じように日陰に入る。それは、ほら、通ってきたでしょ?ホウハンドのせいよ」


ルワーユと12の街を繋ぐ世界を回る橋、ホウハンド。なるほど、確かこのルワーユを中心に回っているから、常に何処かは日陰になるのか。


「世界時計の時に説明した通り、ホウハンドとミンハンドはまるで時計の針のように世界を回る。──そうそう、向こうの方では今、ミンハンドが日陰を作っているでしょうね。── で、人々はこの現象、というか天気を『時計』と呼んでいるの」


そうか、言われてみればなんの不思議もない。当たり前の光景だ。自分ばかり驚いてなんだか恥ずかしいな。


「さて、F。あそこのお店、入ってみましょっ!」


おっとっと。

リンナがFの腕を掴んで走る。


外から見るに雑貨屋だろうか。リンナに引っ張られて店に入ると、「ああ、お客様」と店主とおぼしきエプロン姿の女性に話しかけられ──


「── なっ!」


とっさに目をつむる。その女性に何かをふりかけられたのだ。少し唇についたものを反射的に嘗める……しょっぱい。塩か?


「な、何しやがるっ!?」


とキッとFが睨めつけると、女性は「ああ……」と憐れみに満ちた顔でFを見て、


「お客様は本日入店された方の中で13番目でございました。なんと邪悪でお可哀想な方……!商品を見られる前に先にお清めさせていただきます」


と言いながら、エプロンのポケットから更に塩を取り出してFにかける。


「ちょっ── なっ、り、リンナ!助けっ──痛って、目に入った!」


リンナは「あーあ」と言いながらクスッと笑う。


「どうしようもないわ。この街でその数字(13)に関わるってことはそういうことよ」


どういうことだよっ!


その後、Fはさらに5分間に渡って塩をかけられ続け、ようやく解放された。


「……もういい、早くこの店から出よう……」


今度はFがリンナを引っ張る番だった。


─────────────


だが、その先の店でも──


「お客様!お客様はその商品を買った13番目のお客様ですぅ!」

と言いながら塩をかけられ、


また他の店でも、

「お客様!お釣りが13ルワンとなってしまいましたぁ!」

と言いながら塩をかけられ、


そのまた他の店でも、

「お客様!お客様は本日、私の目に留まった13番目のお客様ですぅ!」

と言いながら塩の樽の中に放り込まれた。


身体中塩だらけのFを引っ張ってリンナが一言。


「ねぇ、次はあのお店に──」


「──もうこんな街出ていってやる!」


体を犬のようにブルブルと震わせて全身の塩を落とすと、Fは「あー!あー!」と叫びながら暴れだした。 


「お、落ち着いて!気持ちは分かるけど、落ち着いて!」


「いいや、わかってねぇ!一体全体、何で俺ばっかり塩をかけられるんだ!?最後のなんて理不尽すぎるだろ!目潰したろか!?」


フシュー、フシュー……ともはや獣じみた呼吸のF。そんなFをリンナはドードーとなだめながら言った。


「ま、まぁ、ここじゃいつもの光景だから……毎日誰かは同じ目に遭ってるはずだから……たまにはそんな風に連続でかかる人も……たぶん、きっと……いるかしら?」


「いねえよ、絶対!あークソ、なんか身体中ヒリヒリする……」


「そ、そうだわ!気分転換に今度はカフェに行きましょう?美味しいもの食べて飲んでリフレッシュよ!」


「え、やだよ。絶対塩かけられ──」


「レッツゴー!」


Fに拒否権はない。


──────────────


人の多い、繁盛しているカフェ。店内はお菓子の家をイメージされていて、チョコレートやキャンディーを模した装飾が特徴的だ。


警戒しながら店内に入ったが、特に何も起こらない。

そしてFは慎重に席につき周りを見渡すが、やはり特に何も起こらない。


「今度こそ大丈夫よ。ほら、こんなに人がいるんだから何かの『13番目』になることなんてきっとないわ!」


むぅ、それもそうか。Fは少し肩の力を抜いた。


Fとリンナはそれぞれ、人気のパンケーキやホットチョコレートを注文し、待つ。店内の装飾について話していると、隣のテーブルの客が、妙な話をしているのに気づいた。


「……で、どうだった?やっぱり噂は本当なのか?」


「いやいや、それ以上だ。石を投げ入れてみたが、中に入る前に弾けて粉々だ!」


「マジかよ……じゃあ、街の不良が腕を無くしたって話も……」


「本当だろうな。門を壊そうとして殴って、バーンだろうよ」


一体全体何の話だ?

Fとリンナは耳を潜める。


「しっかし、何で今頃になって見つかったんだろうな。ずっと都市伝説だと思われてたんだろ?」


「なんでも、認識阻害の魔法がかけられてたって話だ。それが時間がたって効果が弱くなったんだとか。それでも屋敷全体の結界は破られねぇんだから、本当どうなってんだろうな、“時の止まった屋敷”ってのは」


そこでリンナとFは顔を見合わせた。


小さな声でひそひそ話。


「時の止まった屋敷!」


「それって──!」


「お待たせしました!ご注文されたメープルクリームパンケーキとホットチョコレートです!以上でよろしかったでしょうか?」


元気のよいウェイトレスの声にビクッと背筋を伸ばす二人。


Fはひきつった笑顔でウェイトレスの方を向いた。


「ああ、そうだ。ありがとう」


瞬間、何か白いものがFにふりかかる。


「ああ、お客様!」


……しょっぱい。


「お客様は本日私に『ありがとう』と言った13番目のお客様ですぅ!」


そういいながらウェイトレスは、Fと彼の注文したホットチョコレートにブンブンと塩をふりかけ、「お清めいたします」と嘆く。


ああ、ああ……ああああ……!!


もうこれは仕方のないことだ。

Fはゆらりと立ち上がり天に向かって叫ぶ。


「もうこんな街滅びてしまえぇぇえええええ!!」




こんにちは。ななるです。


今回は戦闘なし!久々に楽しい(?)ゆっくり回でした。

ちなみにルワーユと12の街では共通で『ルワン』という単位のお金が使われています。語源はルワーユですが、まあ、そんなことはさておき。日本円1円と1ルワンが同じくらいの価値。お釣りの計算には気を付けましょうね!


次回があれば、またお会いしましょう!

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