D-82:マイネームイズ……
D-82:マイネームイズ……
次元のずれたミラージュの中。誰もいない蜃気楼の中。
一人、城の中を駆け抜ける。
「ここもあまり変わらないなぁ」
壁の細部までに施された装飾を見て、クスッと笑う。
階段に従ってプカプカと浮きながら目的の階へ。着けばまた真っ直ぐ進み、駆け抜ける。
「もう少しシンプルな構造にしてくれればいいのに」
と愚痴を吐きながら、行き止まりを突き進む。壁だろうが何だろうが、邪魔なものは都合よくすり抜ける。──そして、目的の扉の前へと辿り着くのだ。
世界時計、またの名を悠久の扉──を模した城内の扉。とはいえ真似してあるのはデザインだけで、その気になれば誰でも壊せるし、誰でも開ける。上の方に時刻表記もない。
「……よっと」
扉に手をかけゆっくりと押す。頑丈そうな見た目とは裏腹に音もたたずにスムーズに開く。そこで、ミラージュのズレは解消された。
中にいるものからすれば驚くのは当然だろう。急に扉が開き、どう見ても部外者が“その部屋”に現れるのだから。
だが中に居たたった一人の彼は全く驚くことなく、いつも通りの椅子にどっしりと座って、顔色ひとつ変えずに侵入者に挨拶をした。
「久しいな、かむい」
『かむい』そう呼ばれた黒髪に青い目の少年は、クスッとくすぐったく笑うと、冠をかぶった目の前の老人に小さく手を振った。
「やぁ、久しぶり、ルワーユの国王サマ!」
少年が手を離したとたん、扉は音もなく閉まった。そう、王室の扉が。
「あっはは、本当に久しぶりだね。君、この前300歳越えたんだって?いやはや、なかなかに長生きだねー」
「ふん、ヌシにとっては300年など一瞬にも満たないだろうに」
国王は赤い瞳に目の前の若い姿の少年を映して、静かに溜め息をつく。
「……人の体に300という時間は長すぎた。死ぬことはなくとも体は老いる。なんと辛いことか」
「その割には結構、人生を謳歌してるじゃないか。世界溝調査に、魔緘石の採集。おまけに軍力増加まで、最近のルワーユの動きは活発だねー」
やれやれ、と少年はやや大袈裟に首を振る。そのままゆっくりと歩いて玉座に近づく。
「……ゲンゲルから話は聞いているだろう。私はもう決断した。あとはお前次第だ、かむい」
「あっはは、ゲンゲルねぇ……あれは一体どうしちゃったんだ。すっかり丸くなっちゃってさ。まるっきり別人みたいだ。……俺も決めたよ、グレイスピア・ルワーユ──」
少年は一瞬で部屋中に白色の魔法陣を大量に展開すると、いつの間にか色の変わったその白い瞳を大きく見開いて高らかに宣言した。
「この瞳に映る全てを、再び“白”に染めてみせよう!かつて生まれたこの偽りを、真実の終焉へと導いてみせよう!針が13を示すとき、我が手によってイモルタリテは開かれる──!!」
展開された魔法陣は爛々と輝き、それぞれが拡張して城中にめぐりめぐる。やがて少年の「おっ、あった」という声と共にそれらは一瞬青く煌めき、また次の一瞬で消滅した。少年の瞳はいつの間にかまた元の青にもどり、その手には青色のつららのようなものを握っていた。
「今日ここに来たのはいろいろと理由があったけど、その一つはこれ。ブルーハイヒール、これを返してもらいたくてね。もう解析は終わっただろうし良いだろう?」
少年はその青の塊を王に見せながらニカッと笑う。王はそれには反応せず「他の理由は?」と彼の言葉を待った。
「ゲンゲルに言われたってのもあるけど、そろそろどっちにせよタイムリミットだからね。お互いの立場ははっきりとさせないとな、と思ったのさ。それとあとは……」
少年はクスッと笑うと、今日一番の明るい笑顔でそれを言う。
「新しい名前を伝えに来たんだ。半身を失ってるわけだし、もともと『かむい』と名乗るのは違和感があった。今の俺は『ドッペル』。フラッタの、とある剣士のドッペルゲンガーのドッペルだ。改めてよろしくを言おう、グレイスピア!」
国王はドッペルの様子を見て僅かに微笑むと、パチンっと指をならした。
その男はどこからともなく現れると、ドッペルに真っ直ぐに剣を向けた。
「改めてよろしく、とは、たわけめ。世界を、私の国を滅ぼそうとするものをそうぬけぬけと逃がすか。やれ、バラスマディア・ヤグオルタ。白狼最優の騎士よ、その力を示せ」
バラスマディアは「御意」と答えるとそのまま剣をドッペルにふるいながら言う。
「白狼騎士団第一部隊隊長、バラスマディア・ヤグオルタ。参るッ」
こんにちは。ななるです。
はい、また次回から戦闘。あるいはFリンナパートに入ってまた戦闘……く、平和なフラッタに帰りたい!
そろそろ七夕ですねー!というか今ry……笹買ってこなくちゃ。
さて、次回があれば、またお会いしましょう!




