D-81:世界時計
D-81:世界時計
ゴンドラを降りると目の前に現れるは華やかな街──などということはなく、緑一色、すなわち森が広がるばかりであった。申し訳程度に道が一本まっすぐにのびている。
「ルワーユ中心部のここらへんはルワーユ城の敷地内なんだ。ほら、目の前に一本道がのびているだろう?ここを進めば街に出られる。そして道を一歩でも外れようものならルワーユ城内に無断で侵入したも同義。もれなく兵隊に捕まって国王様に罰せられちゃうわけだ」
ドッペルがケラケラと笑いながら説明する。
なるほど、道のところどころに立っている鎧姿の彼らは見張りをしていると言うわけか。
「まあ普通に歩いていれば大丈夫だから、気にせず行ってくるといいよ」
「行ってくるといい、ってあんたは行かないの?」
リンナが不思議そうな顔をしてドッペルにそう尋ねると、ドッペルもまた不思議そうな顔をして答えた。
「あれ、言ってなかったっけ?ルワーユについたらまず俺は王城の方に用事があるから別行動になるって。言ってなかったっけ?」
「「初耳」」
「あっはは、それはゴメン。地図は持ってるよね?悪いけど合流できるのは多分午後6時くらいになると思うから、それまでは二人でぶらりと観光でもしてきてくれないかな?6時になったら、例の場所でってことで」
リンナはここで、ハッとする。
二人っきりで、Fと、ルワーユ観光……?
「それはかまわないが、一体全体王城に何の用が──」
それって、それって……!!
「ナイスアイデアね!!是非、是非そうしましょう!」
まさしく『デート』じゃない!
突然のリンナの大声にFの声は遮られる。リンナの勢いは止まらない。
「そうと決まったらさっさと行きましょう!早く行きましょう、すぐ行きましょう!さっ、F」
と言うやいなや、リンナはFの腕をむんずと掴むとズズズとそのまま引きずり始めた。
「おい、いいのか?途中橋町で襲われたわけだし、三人で固まっていた方が……」
「大丈夫、大丈夫。鍵は今私が持っているけど、大丈夫よ。街中でそうそう襲ってくるわけないじゃない!」
軽く抵抗を見せるFと、うふふと笑いながら力強く引っ張るリンナ。
間違いなく今のリンナの脳内には『デート』の三文字以外なかった。
遠ざかる二人にドッペルはニッコリ顔で手を振っている。
Fはもう抵抗をやめ、ハアと軽く溜め息をついた。
ううう……一体全体どうなってんだよ……
一人残ったドッペルは「さてと……」と呟いて、白い大きな魔方陣を足元いっぱいに展開する。それはさらに拡がってゆき、やがて拡張が終わると青白く光った。そしてドッペルは「ミラージュ」と唱えるとスッとその姿を消した。
──────────────────────
Fとリンナはまっすぐにのびた一本道を二人並んで歩く。
ふいにFが「しまった」と声を漏らした。
「どうしたの?」
「荷物をほとんどドッペルに預けたままだった。旅費のほとんどもあいつが持ってるし、これじゃ宿とれねぇよ」
一週間分以上の大量の荷物と旅費。そのほぼすべてをドッペルが魔法で小さくして管理している。そのお陰で移動がずいぶん楽になったが、まさかこんなことになるとは。
「なんだ、そんなこと。別にいいじゃない。いざとなったら私が声をかければなんとかなるわ」
そうだった、こいつ、一応お嬢様だった。
「……今とっても失礼なこと考えたでしょ?」
「ソ、ソンナコトハ、ゴザイマセン、ヨ?」
「……まあ、いいわ。それよりも見て!世界時計よ!前に来たときと全然変わってないわ」
世界時計……ルワーユの有名な観光地。まさかこんなところにあるとは。
気がつけばいつの間にか森を出ていた。地面は石で出来ている。半径50メートルくらいに広がる殺風景。その中心に、それはあった。
それは時計と言うより巨大な扉の形をしていた。
まるで巨人の住まう城から、門だけを切り抜いてここに置いたかのような、異様な存在感。
隙間ない黒のベースに煌びやかな金の装飾。その中央には時計をもした紋章が刻まれていた。
ズシンと重たい雰囲気を纏うそれは、ゆうに7メートルは越えているだろう。
扉の周りに鎮座する四つの灯火は、一つ一つが人一人分もの大きさであったが、扉に比べればひどく小さく思える。
ふとその上を見上げれば、橙とも朱ともとれるような色で「D 10:52」という文字が浮くようにして主張している。
なるほど、これが世界時計の名の由来か。
しかし、どういうことか、今の時刻はとっくに12時を過ぎている。しかも分を表してると思われる「52」は先程から一向に変わらない。
Fがポカンとした顔でそれを見上げていると、リンナがクスクスと笑って教えてくれた。
「──世界時計、またの名を悠久の扉。何をしても傷つかず、決して壊れない。そして、決して開かない。いつからあるのかさえ誰にもわからないこの時計は、まるで人の世を嘲笑うかのように、独自のペースで時を刻んでいく。なぜこの場所にあるのか、何で出来ているのか、そのほぼすべてが不明。わかっているのは、示されるこの時刻はホウハンドとミンハンドの位置を表していることと、古くからの言い伝え『針が13の刻を示す時、全て素に帰る』に関係しているだろうということのみ」
まるで教科書を読み上げるように朗々と、迷いなく言葉を発するリンナ。Fはその扉を見て、感嘆とともに息をもらす。そして、ひとつの疑問が浮かんだ。
「ホウハンドとかミンハンドって渡ってきたあれだろ?こんな数字でどうやって位置を示すんだ?」
「ほら思い出して。ホウハンドもミンハンドもこのルワーユを中心に右周りに回転してるでしょ。それらを時計の短針と長針に見立てて、針先の12の街は文字盤として例えると……」
「あ、時計!」
「そう。世界まるごとが時計のようになるってわけ。だから、これは世界時計と呼ばれているのよ」
ふふん、とまるで自分のことを自慢するように笑うリンナ。Fは「すげぇーー」と純粋に感動し、リンナと世界時計を交互に見て、興奮を表すように腕をブンブンと振った。
「じゃあ『D』てなんなんだ?」
「それはまだハッキリとはわかってないんだけど、おそらく世界の何か重要なものを表していると考えられているわ」
ほへぇーー!!よくわかんねぇけどすげえっ!!
Fはそのままゆっくりと扉に近づき、戸に触れようと手を伸ばす。
すると、リンナが慌てた様子で間に入りそれを邪魔した。
「さわっちゃダメよ!怒られちゃう!」
「え、でも壊れないんだろ?」
「でも、ダメ。そういう決まりだから」
うーん……本当に壊れないのか開かないのか確かめたかったのだが。
「壊れない、ていうのはどの程度確かめられたんだ?」
「ええと、世界一といわれる魔法使いが最大火力の魔法を使っても傷ひとつつかなかったり、世界一といわれる鍛冶師の造り上げた世界一鋭い剣を世界一の剣士が使っても傷ひとつつかなかったり……と、まあ昔は結構実験されたらしいわ」
ふむふむ。ここで単純な問いをひとつ。
「世界一の魔法使いって、ドッペルとどっちが凄いんだ?」
「そうねぇ……ドッペルじゃないかしら」
やっぱりか。なんかもう常識とか通用しないもんな、アイツ。
リンナはそこでコホン、と一度咳払いをすると、Fをチラチラと見ながら顔を赤らめてこう言った。
「ち、ちなみに!世界一の剣士だって、私の考えでは?私の、私が思うに、絶対、ぜぇーったい、Fの方が強いと思っ──コホン、あ、あー、──Fの方が強いわよ、ええ。」
ど、どうしたんだ?いきなり。
「そ、そうか。ありがとう」
Fが反応に困り曖昧な返事をすると、リンナはたちまち顔をさらに真っ赤にして、先程と同じようにFの腕をむんずと掴んだ。
「さ、次のところへ行きましょう!早く行きましょう!」
リンナにひこずられながら、Fはひとりクスッと笑った。
なんだか楽しいことになりそうだ。
こんにちは。ななるです。
世界時計、出来れば挿絵を入れたかったのですが、作者の画力ではどうにもなりませんでした(泣)
構図案をツイッターにのせているので「フッ」と鼻で笑って頂けたらな、と思います。
次回があれば、またお会いしましょう!




