D-70:オーナーの意向
D-70:オーナーの意向
「それからわしは10年間ひっそりと生きた。そして約束通り最後の調律を終えると屋敷を出て、人目を避けてフラッタへ来たんじゃ」
『平凡の街』フラッタは確かに人目を避けるのにうってつけだろう。
そこまで話すとトロイはまた鞄をあさって何かを取り出した。
手紙だ。
「先日これがわしの部屋においてあった。読んでくれ」
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懐かしき最高の調律師よ。久しぶりだな。
実は何度か君の様子を見に行ったんだが、君は一回として俺に気がつかなかったな。いつだって真剣な顔でピアノをいじっていた。
本当にありがとう。
さて、再びこうして君の近くに現れた訳だが………
もうわかるだろう?約束の時が来た。
………とはいえ、直接君がルワーユへ訪れるのは難しいだろう。手紙と共に置いてある金貨を使って君も知っている“問題屋”とやらに頼んでほしい。大丈夫、彼らは信用に値する。顔も知らぬ郵便屋なんぞには絶対に渡さないように。
追伸 約束を守ってくれてありがとう。
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手紙を読み終えたFは隣で同じように読んでいたであろうリンナと顔を見合わせた。
なんとも不思議な話だ。にもかかわらず、依頼内容は“鍵をとどける”のみ。
「引き受けてくれるかな?」
曇りない笑顔のトロイからはなにも読み取ることが出来ない。
Fは腕を組んで「うーん」と唸った。断る理由はないが、何かが引っ掛かる。せめてここにドッペルがいれば………
「引き受けましょう」
不意に、リンナが顔をあげてトロイを真っ直ぐ見つめて言う。
「え?」
「引き受けるのよ、F。いいじゃない、断る理由なんてないわ」
今度はFの方を見てリンナが叫ぶように言う。
………なんとなく、Fは幼馴染みのその色の違う双眼に「ルワーユに行きたい」と書いてあるような気がした。
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その後、トロイと報酬や交通費などを交渉し、前金をおいてトロイは満足げな顔で最後に「彼に会ったらよろしく」と言って帰っていった。
「………おい、リンナ。いつからお前は問題屋の仕事を決める権利を得たんだ?」
「いいじゃない、別に。それにここに店を構えるのを許可したのはパパなんだし、実質フラッタ家が問題屋のオーナーと言っても過言ではないわ!」
くそ、そんなの権力の横暴だ。
「ねぇ、私もルワーユに──」
「ダメだ」
「ええーーー!!なんでよっ!」
ぷうー、とリンナが頬を膨らませる。
「だからお前は問題屋じゃないだろ?遊びじゃなくて仕事でいくんだ!」
弾けるんじゃないかというくらい、さらに頬を膨らませるリンナ。しかし、急にパッと何か思い付いたのか明るい調子でこう言った。
「ならこうしましょう?私、案内人として問題屋のサポートをする。これならどうよ!?F、ルワーユまで行ったことないでしょ?」
う、確かに………。
「私はパパと何度か行ったことあるから大丈夫!旅費は自分で出すから、ね?いいでしょ?」
………。
「………好きにしろ」
「やったーーっ!!何着ていこうかしら──!」
ふんふん、と鼻歌を唄うリンナ。何となくいいように丸め込まれたきがしないわけでもないが、そこまで邪魔になることもないかと思い直したFであった。
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ルワーユのどこかの建物のとある一室。
カーテンが何重にもして外界の光を完全に閉ざす。
部屋にいる当人たちにも見ることの出来ない壁には全ての音を遮断する複雑な魔方陣が描かれている。
闇に囲まれた、秘密の部屋。
そこで二つの影がなにやらヒソヒソと話している。
「──それならば殺した方が早いのでは?」
『いや、大事にならないよう、あくまでもお前に課せられた任務は“奪取”だけだ』
片方は若い女の声。そしてもう片方は辛うじて人の声に聞こえる、まるで機械音のような、ノイズ混じりの声。
「ふふっ──なら、大事にならないなら、殺しても構わないのですね?」
女の方が軽やかに声をあげる。
もう一方が「はぁ、」と息をつくと、女はもう一度「ふふっ」といたずらに笑ってもう一方に背を向ける。
「『音亡くして吼えろ』──それが命令なれば──」
もう一方が誰に届かせるわけでもなく呟いた。
『我等白狼はそれに応えるのみ──』
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