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C-x:調律師と屋敷の少年②


C-x:調律師と屋敷の少年②



目の前でたんたんと事を述べる少年に、トロイは若干の違和感と恐怖をおぼえた。感覚がおかしくなってしまいそうで、そうなる前に、彼は声をあげた。


「待ってくれ。なぜ君がそんなことを知っている?君は一体何者なんだ?」


少年はそこで話を切り上げ、いかにも悲しそうな顔をして彼のその問いに答えた。


「………その術者は俺の知り合いだ。友達でもないし、親しくもないが、あれが出来るのはやつしかいない。──俺が何者か、そう聞いたな。しかしそれはとっくに教えたはずだ。魔法使いで、立派な屋敷を持っている──今はもう、ただそれだけだ」


()()()()──子供にしか見えないその少年に、トロイは得体の知れない過去を見たような気がした。もしかしたら少年はトロイが思っているより長い時を生きているのかもしれない。


得体の知れない彼の過去より、今は自分のことが大事だ。トロイは話を切り替えた。


「その術者とは、一体誰だ?」


少年はとてもとても深いため息をついてやつれたように笑ってトロイを見た。


「教えられない」


「なっ──!」


「教えれば君はただちに憎しみにとらわれ、どんなこともためらわずやってのけるだろう。でもそれは何よりも愚かなことだ。すぐに歴史の闇に呑まれるだろう──なぜ君を選んだのか、そう聞いたな?教えてやるよ」


そういうと少年は一度クスッとくすぐったく笑って、答えた。


()()()()()()()


「取引?」


「そう。俺は君に『10年間の安息と限りない金』を約束する。代わりに君は約束さえすればいい」


約束──トロイはまるで悪魔の契約をしているかのような気分になった。少年の次の言葉を待つ。


「約束は全部で五つ。なに、心配しなくていい。そんな無理難題は言わない。── 一つ目、誰もこの屋敷に入れないこと。二つ目、誰にも鍵を触らせないこと」


あたかも少年は『君以外誰も信用していない』とトロイに言い聞かせているようにまっすぐと目をそらさなかった。


「三つ目、これ以上事件について探らないこと」


なっ………!


「何故だ!?君は事件を調べられて困ることでもあるのか?」


「あぁ、困るとも。君が条件をのんでくれれば、俺は君以外の人間から事件の記憶をすべて消し、君に関する記憶も消すつもりだ。そうしなければならない。もし君が今まで通り事件を追うとしよう。情報を集めることは同時に情報を漏らすことになる。いつかは必ず君がここに住んでいることが多くの人に知れ渡り、俺の気にくわない奴らがここを狙いにやって来る。欲望のためにこの屋敷を荒らされるのは御免だ。──いいか?この屋敷には世界の鍵が隠されている。それを使えば世界を壊すも続けるも自由自在。まぁ、鍵だけじゃ意味がないが………」


世界を?

トロイにはちっとも想像がつかなかった。


「四つ目。10年後、君にはここを出ていってもらう。それからはどこにいっても構わない。そして出ていったあとも君には屋敷の鍵を持っていて欲しい。俺が手紙を出すから、それが届いたらまたこの屋敷に鍵を返しに来て欲しい。その時は俺は屋敷にいないかもしれない。そしたら屋敷の郵便桶にでも鍵を入れておいてくれ」


「10年後に何があるんだ?」


「10年後の今日に発動するように、この屋敷にある魔法をかけた。時を止める魔法だ。ここの全ての時が止まり、“その日のまま”が魔法を解くまで続くことになる」


なるほど。つまり出ていかなければカチコチに固められるわけだ。


「さて、五つ目。これで最後だ」


少年はそういうと先程のピアノの席にもう一度座った。


「このピアノの調律を頼みたい。10年後、時が止まるその前まで」


何かを懐かしむように、少年はピアノを撫でる。

五つ全ての約束を口にしたあと、彼は満足そうにふぅ、息をついて、


「………どうだ。悪くない条件だろう?」


と試すように笑った。


「………NOと言ったら?」


「そうだな。取り敢えず君のここ二日の記憶を全て消そう。君は目を覚ますと二日後になってるてわけだ。そして君はまた復讐心のために動き、そしていつか両親と同じ術者に捕まって同じように遊ばれるのがオチだ」


「──」


トロイはしばらくの間、静かに考えた。そして一つだけ質問した。


「そのピアノは特別なものなのか?」


 トロイは仕事でピアノの調律を受けるとき、必ずクライアントに同じ質問をするのだ。人によって答えは様々だが大きく分けて二つにまとめられる。一つは楽器そのものの価値を答える場合。どんなブランドでいくら払ったか、クライアントは鼻をならして答える。もう一つは、楽器とともに過ごした時間について答える場合だ。楽器への愛着や大事な人との思い出をクライアントは優しい笑顔で聞かせてくれる。


「特別………あぁ、特別だ。思い出のつまった、大事なピアノだ」


少年は答えるときにまた子供のように笑った。


トロイは答えを聞いて、そして少年につられるように笑った。


「いいだろう。取引成立だ。10年間、君の屋敷とピアノを守ろう。前を生きることを誓うよ」


すると少年は今日一番に嬉しそうな顔をして「ヤッターっ!」と椅子から飛び降りた。


「ありがとう。これで心置きなくここを出ていける」


そういうと少年は指をパチンとならした。するとどういうわけかトロイと少年はいつの間にか玄関の前に移動していた。


「では、俺は行くよ。次俺がいつ帰ってきてもすぐに最高の状態でピアノを弾けるように、頼んだよ。帰ったら一番にピアノを弾くからさ」


「あぁ、ありがとう。どんなピアノよりもいい音を作り出してみせる、約束するよ」


いつの間にか夜が明けていた。

朝日の溢すゆっくりとした光に紛れるように、少年は姿を眩ました。結局、彼が子供なのかそうでないのか、トロイには分からなかったが、もうそんなことはどうでもよかった。


無限に広がる青い空。鳥の群れが雲を抜けて進んで行く。

屋敷から聞こえるのは調子の狂ったピアノの音。日に日に美しく纏まってゆくその音は風にのり、一体何処まで跳んでゆくのか。

こんにちは。ななるです。


今日でぴったり一周年!

たくさんの人に支えられて続けることができました!まだまだ続いてゆきます!そう、このルワーユ旅行編も………


さて、次回がありましたらまた会いましょう!

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