D-7:クルマじゃないよ
D-7:クルマじゃないよ
『Welcome Flatta!』の門を越えてから数分後。
「それにしてもすごいね。」
ドッペルが感心したように言う。
「何が。」
「いや、本当に童話どうり何だなって。『フラッタの剣士』。どこでも有名だよ。」
「あっそ。」
素っ気なく答えるF。
こいつ、俺のドッペルゲンガーなのに、ヘラヘラしやがって。
黒目の主人のパン屋を右に曲がり、黒目の店主の本屋の角を左に曲がり、そのまま黒目の女がやってる服屋を真っ直ぐ通りすぎて行く。
誰もこっちを見ないし、騒がない。ドッペルのいった通り、誰も俺達が見えていないようだ。
「おい、ドッペル。もうすぐリンナの屋敷なんだが、どうやってこの魔法解くんだ?」
「あぁ、それなら簡単さ。どこでもいいからドアを開けるんだ。今回の場合は屋敷のドアだね。そうすることで時空のずれが修正される。」
「でも、ドアもすり抜けるんじゃないのか?どうやって開けるんだよ。」
「うーん、その辺はなんとかなるんだよ。取り敢えず進もう。」
つまり、御都合主義である。
─────────────
薄暗い部屋。高く昇った太陽は、この部屋に光を届けるのは難しいようだ。カチカチと時計の音がする。もうすぐお昼だ。
「うーん。」
さんざん寝たはずなのに、少し気を抜くと、またすぐ眠ってしまいそうだ。
「──い、──る──?」
部屋の外が騒がしい。
「おい、リンナ。どこにいる?」
「困ります、F様。今、リンナ様は体調を崩されていて──」
「どこだー?」
だんだん意識がはっきりしてきた。
「居るなら返事しろー。」
足音が三つ、声は二つ。
Fとニカさん(メイド)はわかるけど、もう一人は誰?
「あ、F。あれじゃない?『Rinna’s Room』だって。」
私の部屋のドアの目印。手作りの看板だ。それにしても、今の、誰の声かしら。
「およし下さい、F様。リンナ様は先程寝付かれたばかりで──」
「おい、リンナ開けろ。」
コンコンとノックをするF。
「困りますぅ……。」
少しは聞いてやってよ、とリンナは若いメイドに同情した。
コンコン。
Fは再びノックをする。
「入るぞ?」
やばい。今更ながら危機感を持つ。
私、寝起き。私、レディ。
自由にはねた髪、くたびれたパジャマ、そして──
リンナは辺りを見渡し、瞬間で解決方法を考え、ソレに手を伸ばし、ソレを頭から被った。
カチャリと音がしてドアが開いた。
──────────────
「入るぞ?」
ドアを開くF。
「なっ──」
部屋の様子は特に異常はない。昔、Fは何度か入ったことがあるが、その時とさほど変わっていない。
変なのはリンナだ。
メイドの言っていた通り、確かにさっきまで寝ていたのだろう。ベッドから上半紙だけ起こしている。ピンクの寝着も白い布団も別段おかしくない。
ただ、だ。
首から上。首から上だけどういうわけか、いつものリンナじゃない。茶色い毛で覆われ、頭の上から耳が二つ、鼻は黒く、口からは立派な牙が見える。
熊。Bear。クルマじゃないよ。熊。
リンナの首から上だけ熊になっている。
「いらっしゃい、F。ついに引きこもりをやめたのね。」
「おま──」
「どうしたの、何か変かしら?──あぁ、ベッドからでごめんなさい。昨日まで体調を崩していたのよ。」
「いや、あのリンナ──」
「今から着替えるから、待ってて。──ニカさん、応接間に案内して。」
ニカと呼ばれたメイドも流石に驚いたのだろう。ポカンとしている。
「ニカさん、ゴーっ応接間!オ·ウ·セ·ツ·マっ!」
熊の姿で叫ぶリンナ。何も言わせない気迫さえを感じる。仕方ない、ここは黙って退くしかない。
部屋を出るとき、ドッペルがこんなことを囁いてきた。
「──へぇ。フラッタ家のお嬢様は一体どんな人かと思ってたけど、そもそも人ではなかったんだね。」
アホか。どう考えても着ぐるみだろう。その証拠に、リンナは一度もこっちを向かなかった。たぶん熊が重くて、こっちを向けなかったのだろう。
しかし、なぜだ?あいつに恥じらいなどという感情が今更芽生えたわけでもあるまい。
Fにはそれだけがわからなかった。
こんにちは。ななるです。
この小説は1000から2000文字で、一話投稿を目指してます。集中力の無い作者を許してやってください。
気づけば、もう4月ですね。うちのカレンダーはまだ2月のままです。14日に未練があるのでしょうね。
さて、次回。「前世はきっとチョコレート」
──あの曲、個人的に大好きなんですよねぇ。
次回があれば、また、お会いしましょう!