D-62:決断のとき
D-62:決断のとき
みんなが死んだその日から妙な噂がたち始めた。
道場生を殺したのは俺だ、という噂だ。
俺が不機嫌そうに道場に行く姿を見たという奴もいた。
もちろんそんなことはない。
リンナも町の人間にそう伝えてくれたが、誰も聞く耳を持たなかった。
俺の瞳が赤いからだ。
スクナメルジャの存在が公になった今でも色つき瞳を嫌うフラッタ民は多い。当時ならなおさらだ。最後まで俺をかばってくれた八百屋の店長も寿命で死んだ。
俺は何も信じられなくなって、人と接することが怖くなって、ひとりになることを選んだ。リンナはよく来てくれたけれど、俺の態度はとても酷いものだっただろう。
改めて墓を見た。
ここには骨と石しかない。どんなに願っても望んでも、誰も帰って来てはくれない。一人なんだ。一人で独りで、誰も──
「──大丈夫?」
リンナが心配そうに俺の顔を覗く。
いや、違った。一人じゃない。
全ては過去のことだ。俺は今を生きている。生きなければならない。
「ああ、大丈夫だ。──そうだ、リンナ。一つだけ言ってなかったことがあった」
リンナは「?」を頭に浮かべてこっちを見る。
緩やかな風が吹いた。
「ありがとう──ずっと伝え忘れてた」
リンナは目を見開いて驚き、そしてすぐに照れ隠しなのかそっぽを向いた。
「な何よ、いきなり!い、意味わかんない!」
帰り際、俺はもう一度だけ振り返って手を合わせた後、墓をあとにした。
──────────────
「げ、ゲンゲル………」
犬も歩けば棒に当たる、泣きっ面に蜂………といろいろな言葉があるが、道端にゲンゲル、ほど辛いことはない。
「やっぱりかむい、お前か。またずいぶんちっこくなったな」
白い制服、狼がモチーフのエンブレム。よく目立つ白狼騎士団のの制服は不思議なくらいに彼によく目立っていた。………とはいえ、顔も背も普段の自分やFと全く同じなのだけど。
「ちょっといろいろあってね──君こそ、何でルワーユの兵隊なんてやってるんだよ」
「王にいい条件を出されてな、乗ってやったんだ。お前こそ、今まで何処にいた?」
「君から逃げているうちにここにたどり着いたよ。そして君の代わりに罪を償うため、ここにいたんだ」
俺がそういうと初めてゲンゲルは辛そうな顔をした。彼がこんな顔をするとは。
「………あれは俺も悪かったと思っている。悪いなんてもんじゃない、最低だ。償うことすら許されないな」
え?
「………何で君がそんなことを言うんだよ。怒りと憎しみから生まれた君が!」
………認めない、認めるものか。
睨み付ける俺をゲンゲルは睨み付ける俺の頭に優しく手をポンとのせ、淋しそうに笑った。
「時が経った。全てを癒すほどの時が。怒りと憎しみしかなかった俺に人の優しさを教えるほどの時が。………変わったんだ。いつのまにか、憎くて憎くて仕方なかったこの世界が、好きで好きでたまらなくなってたんだ」
「嘘だ………嘘だ嘘だ嘘だ嘘だっ!変われるはずがない!」
冷たい風が二人の間を抜けてゆく。遠くのオープニングマーチはさっきより少しテンポが上がっているようだった。
「………あのヒゲジジイはお前を待っている。お前の答えを。この嘘を、お前が始末するのか、あのヒゲが突き通すのか。──俺は嘘を守ることに決めた」
ゲンゲルが頭の上にのせた手に力を込めた。魔力が頭からゆっくりと全身に流れてくる。体が白く光り、やがて元の大きさに戻った。髪は白、目も白のまま。服は彼のチョイスだろうか、なかなかいいセンスをしている。
彼が手をのけた後、俺は彼を正面から見て答えた。
「答え、か──一つだけ変わらないことがある。俺は世界なんてどうでもいい。かんなを取り戻す、それだけなんだ」
ゲンゲルはそれを聞いて「そうか」と満足げに呟いた後、俺に背を向け去っていった。
俺は魔法で目と髪の色を変えて歩き出す。
目を閉じると思い出す、白い記憶。
■が殺され、全てを憎み、全てを消し去ったあの時のことを。
かんな、君は俺に魔法をかけた。俺から怒りと憎しみを取り除く魔法を。
そのとき生まれた彼はもう違うものになってしまったよ。怒りに任せて人を断ち、俺と間違えてFの家族を殺した彼が、この世界を好きだと言ったんだ。
それでも、決めたよ。
たとえFとリンナを殺してでも、俺は君を取り戻す。
それが俺のできる唯一の──。
遠くで鳴っていたオープニングマーチは、いつのまにか終わっていた。
歩もう、進もう。
もう止めることのできない、“真実”へ
こんにちは。ななるです。
新年明けましておめでとうございます!
今年初投稿はうちドッ!
そして今回を持ちまして、『おむ編』すなわち『オープニングマーチ編』の完結となります!
次回からは少し小話が続きます。
次回があればまたお会いしましょう!




