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D-59:オープニングマーチ



D-59:オープニングマーチ



確か、あの子の言う通りならこの辺に………


「いた!」


広場正面。

冷静になって考えてみれば、まず一番にここを探すべきであった。


「F!」


そうリンナが声をかけると彼もこちら気がついた。


「リンナ、一体全体どこにいってたんだよ?」


「裏からでて探してたのだけれど………まあ、いいじゃない。クルック兄に声はかけたけどまだ忙しそうだったし、そこのベンチで待ちましょう」


────────────────


「ドレスはもう脱いだんだな」


「ええ、動きにくいし、柄じゃないわ」


うーんとリンナが伸びをする。


「勿体無い。結構似合ってたのにな」


Fがボソッと呟いたその一言に、リンナがワンテンポ遅れて反応する。


「──え、それ本当っ!?」


「嘘を言ってどうする」


「いや………えへへ………そうかあ、似合ってたかあ………」


もう少しドレスにチャレンジしてみよう………へへへ………


デレデレとにやけるリンナを見て、Fはフフっと笑った。


「な、何よ?」


「いや………良かった。いつも通りだな、と思って」


暖かい風が遠くでなっている楽団の音楽を運んでくる。


音楽にさして詳しくないFには知りようもないが、確か雄大かつ流れるような曲調のこの行進曲は“威風堂々”。


Fはリンナの顎の横に右手をのばし、グッと彼女の顔を引き寄せた。

いわゆる、“アゴクイ”というやつだ。


「え、えっ!?ちょっ、ちょちょちょF?だ、ダメよ、こんなところで──いや、別に嫌と言う訳じゃないけれど、だ、誰かに見られちゃうし………」


「静かに」


堅く低いFのピシャリとした声をきき、リンナはゆっくりと目を閉じた。弾けそうな心臓と意識をどうにかして保ちながら思い出す。

──たしか、この前読んだ本にはこう書いてあったはず。


『キスの時は無理に唇を出さず自然にして待つ』──よし。


「よし来いッ!!」


リンナの気合いのこもった声。これのどこが自然なのか。


Fはそのまま更に顔をリンナに接近させ、そして──空いている方の手でリンナの両目を無理矢理開けた。


「おい、閉じるな」


え?


リンナは軽いパニックに陥った。


どういうこと?何プレイ?変顔キス?え、で、でも………それがFの望みならあ………いやん!恥ずかしい!


Fはリンナの様子など気に止めず、じっくりと青と黒の瞳を眺めた後、彼女から手を離した。


「え?今度は放置プレイ?」


「なにいってんだよ、お前は」

呆れた、と言う顔をしているFを見て、リンナは何故だか無性に腹が立った。


「は、はあ?じゃあ、あんたは私に何をしようとしたのよ?」


「何って………瞳を見ていたに決まってるだろ?その瞳、やはりブルーハイヒールが原因だろ」


………ピーン!リンナはすべてを理解した。自らの壮大な勘違いを。


「は、はああ!?何よそれ!?それから別に紛らわしいことしなくてもいいじゃない!この、セクハラ野郎!」


「紛らわしい、て何が?」


くうぅぅ………と拳を握るリンナだったが、明らかに自分が悪いことはわかっているので、それを降り下ろすことはできなかった。


「………はあ。そう。目が青くなっちゃったの。でもね、そんなことは別にどうでもいい。問題は、他にあるから」


リンナはベンチからゆっくりと立ち上がり、大きく深呼吸をした。


風はない。ちょうど雲が太陽を遮り、全ての影が淡くぼやけた。遠くからの音もない。きっと楽団は今、休憩中なのだろう。


リンナはFの正面に立ち、真っ直ぐに目を見つめ言った。


「私、言わなくちゃいけないことがあるの。ずっと隠してた、隠しておくはずだった、私の秘密。あなたに嫌われたくなくて、幻滅されるのが嫌で、怖くて怖くて、ずっと黙ってきた………でもね、それも今日で終わり。」


そう、終わり。これでいい、これでいいの、と自分に言い聞かす。もともと下らない何かを信じて始まったあの日の決意も、今となっては、何を信じていたか忘れた今となっては意味がない。これでいい、これでいいの………に、何で震えが止まらないの?


「え、ふ………あの、ね?………ね、聞いて、く、れる?」


話すと決めたのに、これでいいと思ったのに、何で?どうして?どうして涙が止まらないの?


「ごめん、なさい………ごめん、なさい………」


停滞した空気はリンナの嗚咽混じりのその声をその場に留めて溜めてゆく。


Fには、いつも豪快で嵐のようなリンナが今はやけに儚く見えた。


最近のリンナはずっと様子がおかしかった。

青い瞳のことだけで悩んでいたわけではない、か………

きっとたくさん一人で悩んで、考えて、苦しんで、今日を迎えたのだろう。


ならば。


Fは返事をひとつに決めた。

もう雲は無くなっていた。




()だ。聞かない。聞きたくもない。そんな顔してる奴の話なんてどうせろくな話じゃない。悩んだんだな、考えたんだな?で、それがどうした!大体、幼馴染みだからと言ってお互いの全てを知っている必要なんて無いだろーが。とにかく、俺は聞かないからな──特に、そんな陰気臭い顔した奴の話なんか絶対にだ!わかったか!?」




ふん、と腕を組みふんぞり返るF。


リンナは最初、腫れた目をぱちくりさせていたが、フフっと笑って「何それ」と腹を抱えた。


だんだんとFの方も気恥ずかしくなって、「な、なんだと」と頬を染める。


「だいたい、秘密ってのはそんな準備して話すようなもんじゃない。さら~と話すもんだ」


「何よ、生意気に。あんたに秘密なんて無いでしょ?」


「あ、あるし………多分」


「あ、もしかしてベルちゃんのこと?私もさっきお友達になったんだから」


「なっ、ち、違う!というかどういうことだ?それもっと詳しくっ!」


「ざんねーん、()()でーす!」


二人きりの広場。ベンチからは楽しげな声が聞こえる。


いつのまにか楽団も復活したようで、また行進曲を奏でている。


確かこの曲は“オープニングマーチ”──運命はこれを引き金に動き出す──そのような意味が含まれていると言う。


彼らのもとにクルックが現れたのは、その数分後のことだった。

こんにちは。ななるです。


ちょちょちょちょっとだけ、ませたシーンを書いたつもりですがこれが限界です………頑張ろう。


ちなみに、オープニングマーチはオリジナル曲です。検索しても今のところ出てきません。

(暇人作者が作るかも………)


次回があれば、またお会いしましょう!

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