D-54:赤い瞳の嘘つき少女
D-54:赤い瞳の嘘つき少女
朝、誰よりも早く起きて屋敷中の人間を起こし、朝食の支度をさせる。朝食を食べて着替えたら、レンズを持ってメイドのもとへ。つけてもらったのを確認して満足げに笑い、父のもとへ駆けて頬に口付けをし、そのまま外へ。
ドアを破るように開ける。
まばゆい光、外の明るさを知る。
太陽の暖かさを知る。
空の青さと広さを知る。
空気に味があることを知る。
土の踏み心地を知る。
壁がないことを知る。
心から走ることを知る。
世界には知らないことが溢れていることを知る。
外へ出てから、私の生活は大きく変わった。
初めて友達ができた。例の赤い瞳の道場っ子だ。
初めて名を名乗った。
初めて名を訪ねた。
初めて友の名を呼んだ。
初めて他人と走り回った。
F。
大事な大事な、私の“友達”。
彼に連れられて町を回った。
見るもの全てが未知のもの。
知らなかった気持ちが、使ったことのなかった言葉が、私の心を広げてく。
町ではFはときどき嫌がられる。
彼に優しくする人もいるけれど、出来れば関わりたくない、という雰囲気を露骨に出す人もいる。
それでもFは気にしない。
そんな彼を見ていると、私もつい、レンズを外してもいいんじゃないかと錯覚してしまう。
────────────
ある時、Fに聞いてみたことがある。
「ねぇ、もしもだよ?もし、私の瞳も赤色だったら、どうする?」
Fはうーん、と唸って口を開いた。
「どうもしない。だって、どうしようもできないだろ?」
「どういうこと?」
「そのまんまの意味だ。生まれ持ってきたものはどうやっても変えられない。お前が女で、俺が男であること。お前が“りょーしゅ”の娘で、俺が“師範”の息子であること。例え何か奇跡がおきても、“そうだった”てことは変えられない」
小さい私には何となくわかるような、わからないような。
彼の赤い瞳は、遠く、遠くを見つめていた。
「だから、どうしようもない。どうしようもないから、俺は嫌がられようと気味悪がられようと、こうして知らん顔で生きるんだ。嘘はつきたくないからな」
ニッと最後にFは眩しく笑った。今でも鮮明に覚えている。
彼は強かった。
歳が10を越えないうちに既に彼の父親よりも剣が達者だった。
剣だけではない。心も。
彼を嫌う町民からどんな嫌がらせを受けても、全く気にしている素振りを見せなかった。
憧れた。
少しでもFみたいに強くなれるなら。そう思って、私は武道を習った。剣道、弓道、柔道、……時間の限り、あらゆるものに手を出した。
ただ、道具を使うものはてんで駄目で、素手のみで出来るものばかりが上達していったけれど。
“嘘”──その言葉はあまりにも重たかった。
そうだ、私のレンズは嘘と言われても仕方がない。みんなを騙して、私一人が楽しんでいる。
そう考えると無性に怖くなった。
怖くて怖くて仕方なかった。
きっと本当のことを知っても、Fは怒りはしないだろう。とても悲しそうな顔で「だからなんだ?」て言うのだろう。
でも、変わらない。変わらないんだ。
私が嘘をついていたこと、名誉を守るために他人を騙していたこと、隣で苦しむFを見ながら一人うずくまって隠れていたこと……変わらない。“そうしてた”ことは変えられない。
だから決めた。決めたはずだった。
嘘をついていよう。ずっとついていよう。
この嘘を知っている人が私一人になっても、嘘を隠しておこう。
そうすれば、そうできたならばきっと──!
─────────────
もう、そのとき私が何を信じていたのかは忘れてしまった。
今となっては全てが手遅れ。
もう戻れないところまで来てしまったのだ。
考えすぎて疲れてしまった。
「決めたわ、かんな。私、全てを打ち明けることにする」
けれどももうそこに、かんなは居なかった。
時計の針は9時20分を指している。
私は机に眼帯をおいて、馬車へ向かった。
こんにちは。ななるです。
ハロウィンが待ち遠しい。
周りの人間から、菓子を徴収するのが醍醐味ですよね!
さて、次回。大きく動きますよ!
次回があれば、またお会いしましょう!




