D-52:ドレスの少女
D-52:ドレスの少女
午前8時30分。返還式まであと一時間くらい。
リンナは既にドレスアップを終え、メイドのニカに化粧を手伝ってもらっていた。
ドレスなんて滅多に着ないリンナにとって、そのゆったりとした大きな布の固まりはただただ邪魔臭く、照れくさかった。
その上Fに見てもらう。普段ならもう少し楽しみにして心踊らせていただろうが、今は到底そんな気分に離れない。
「リンナ様、一応眼帯は用意しましたが、いかがなさいますか?」
ニカがとても気まずそうに問う。
「もう少し考えさせて」とリンナが言うと少し安心したのか
「わかりました。9時30分に馬車が出ます。では何かありましたらお呼びください。」といつも通り微笑んでさがっていった。
リンナはニカが出ていくのを確認してもう一度鏡を睨んだ。
これが悩みの種。左の青い瞳と目があう。
ブルーハイヒールに触れた後から左目だけ青色になったのだ。
目にカラーレンズをいれてもどういう訳か隠せない。
カラーレンズに青が侵食して左の青は何をやっても隠せなかった。
きっとこれは罰なのだ。とリンナは心を曲げる。
ずっとFに嘘をついていた事への罰。
リンナはベッドに身を投げてうーんと体を伸ばす。
ドレスにシワがつこうが知ったことではない。
リンナは天井を見上げたまま、部屋中に響き渡る声でいった。
「ねぇ、かんな?居るんでしょ、出てきなさいよ」
すると、部屋の端の方で青色の光の玉みたいなのが現れて、ゆっくりとリンナの元へ飛んできた。
それはだんだんと人の形となり、リンナの耳元へとおりたった。
サイズは15㎝。昨夜と比べてずいぶん小型。まるでその姿は妖精のよう。
本人曰く夜の間しかちゃんとした姿になれないのだという。
「どうかしましたか?」
かんなは不思議そうな顔をしてリンナの肩に乗ってくる。
「私はどうするべきなのかしら。全部をFに話すべき?それとも青い瞳についてだけ話すべき?」
無機質な声で問いかける。
「わかりません。どちらにせよ、例の黒いレンズについては何て説明するんですか?」
うーんとリンナは唸ってゴロンと一回寝返った。
かんなはキャッと空に避けて、またリンナの肩へと着地した。
リンナは思考の迷宮に迷いこみ、ゴチャゴチャと飲み込まれる。
不意に思いついたので聞いてみた。
「そういえばさ、結局あんたってなんなの?死んだママの幽霊ってわけてもないんでしょ?」
「はい。あなたの母の名はサリア。私ではありません。」
初めて聞いた母の名。しかし今さら会ったことのない母などどうでもいい。
リンナはかんなの次の言葉を待った。
かんなは、そうですね……、と呟いてからクスッと笑った。
「私はあなたのドッペルゲンガー。いつかあなたを殺すものです」
リンナは驚かなかった。
代わりにフフっ、と笑ってこう返した。
「何それ、流行ってるの?」
リンナはゆっくりと彼女を両手で包み、起き上がった。
そして化粧台の前まで行って彼女を降ろす。
しっかりと鏡を見ながら、右目からそれをとった。
目から離れたそれは手から滑り、化粧台の上へ小さな音をたてて着地した。
不意に耳に残った過去の声が甦る。
スクナメルジャ発見の前、森を三人で歩いていたときのこと。
ドッペルがグッとリンナに近づき耳元で囁くように言った一言。
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「君、本当は黒目じゃなくて──」
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鏡にうつる、無表情。
左の青と右の瞳がコントラストを踊る。
左の青い瞳と、右の赤い、赤い瞳が。
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──真っ赤な血の色だったりしない?
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「ホント、気色の悪いドッペルゲンガーどもだわ」
リンナはゆっくりと目を閉じてゆっくりと過去をたどっていった。
こんにちは。ななるです。
え、土曜?
ははは、何を言ってるんですか、自分が寝るまで今日は終わりませんよ……
遂にリンナの秘密が明らかになりましたね!
さて、次回。リンナの過去を見ていきます。
次回があれば、またお会いしましょう!




