D-50:夢帰り
D-50:夢帰り
何も考えず、ただたんたんと物語を見ていた。
何も思わず、考えず。
「『さぁ、行こう。新しい場所で、新しい名前をやろう。古きは消え、新しい世界を夢見よう。』」
全部を聞き終えたとき、彼女はそこにいた。すぐそばにモヤがかかって見えないけれど、確かにそこにいるとわかる。
声を飲み込んで、新しく皮肉めいた笑いを漏らす。
「──その後、少年はおじいさんと楽しく過ごしました。めでたしめでたし……なんて、ふざけた物語だよね。」
クスッと笑う。
「実際の終わりはこうさ……『そして少年は世界を消滅させ、無責任に──』」
「いいんですよ!おとぎ話なんですから。ハッピーエンドがちょうどいいんです。」
黒い髪、青い目の少女は少し怒り気味にそう言った。
「あっはは。ハッピーエンドだって?確かにそうだ!」
彼は腹を抱えて大笑い。
「──もう、決められましたか?」
静かな声。
彼は目を見開いて彼女の方を見て、直ぐに顔を反らした。
「……いいじゃないか、夢の中くらい。忘れさせてくれよ。」
「もうすぐ、タイムリミットです。こればかりは変えられない。決断のときが来たのです。」
今度は力強い声だった。
「……また、会える?夢を見れば、会える?」
─ま─た─こ─ん─ど────
結局最後まで彼女をはっきりと見ることはできなかったけど、最後は何となく笑っている気がした。
体を起こす。
窓の外から軽快な行進曲が聴こえる。
まちまちに轟く花火の音。
日の光がギリギリ部屋に入らない。
ああ、行かないと。
彼は急いで部屋を出た。
──────────────
いや、出ようとした。
しかし、ぶかぶかのズボンに引っ掛かってその場で転けてしまった。
「え?」
大きい。
服も部屋も。全てがいつもよりも大きく見える。
いや、違う。
小さい。
手と足、というか体全体。
急いで鏡で自分の姿を確認すると、その姿を見て思わず吐いてしまった。
白い肌に白い髪、おまけに瞳まで白い。
見た目としては七歳くらいか。
俺はもう一度鏡を正面から見た。
込み上げてくるものを必死に抑えながら、取り敢えず髪と瞳の色を変えることにした。
ええと、魔法は、っと──使えた。しかし、昔この姿だった時よりもずっと弱々しい。黒い髪と青い瞳にできたものの、すぐに元の色に戻ってしまった。
どうやら、魔法は使えても安定しないらしい。
次にぶかぶかの服を変えることにした。
周りを見渡すと着替えが置いてあった。Fが用意してくれたのだろうか。
小さい手でその服を広げてみると、驚いた。
その服は今の俺にも合わないくらい小さい。
5歳用だろうか。
ズボンの方を開くと、ひらりと何か紙が床に落ちた。
『かむいへ。
俺は町の祭に行ってくる。
お前も今度つれていってやるから、起きても家から出るなよ。
Fより』
“かむいへ”……?
その時、小さな箱のモヤが晴れて鍵が開いた。
──そうか、あれは夢じゃなかったのか。
俺は小さな服に魔法をかけて、少しだけ大きくする。
これぐらいの低級魔法なら当分は大丈夫だろう。
着替えた服はぴったりで、特に問題はなかったが、少しだけ不安だったからぶかぶかの青色パーカーを羽織った。
フードをかぶり、急いで家を出た。
─────────────────
フラッタ民は基本的に祭の類いが大好きだ。
悠久なる平凡な町の数少なき非凡な日。
だからフラッタ民はことあるごとに祭を開く。
何かと理由をつけて、町全体で非凡に興じるのだ。
今日の祭は、『クルックおかえりな祭』。
町の楽団が張り切って朝から軍司行進曲を演奏したり、消防隊が花火を打ったり。
少しうるさいくらいだ。
騎士団が来るのは午前10時過ぎ。今は9時。
Fは目的地の広場へは少し遠回りをしてから行くことにした。
─────────────
午前8時、いやもっと前か。
リンナから電話がかかってきた。
「もしもし?」
『……』無音。
「……おい、リンナだろ?黙ってないで何か言えよ」
『……うん。』
俺はハァ、と溜め息をついて声を張る。
「お前からかけてきたんだろうが!怒ってないから、さっさと用件を言わないと切るぞ!」
『……怒ってるじゃない……』
ハアアァ……。俺はもう一度盛大に溜め息をついた。
前にも何度かこんなことがあった。
リンナと喧嘩したり、何か気まずくなったとき、大抵あいつから無言電話がかかってくるのだ。
「……この前は、その、……急に失礼な態度をとって、ごめんなさい。私、気が動転してて……」
「やっぱりその事か。別に俺は気にしてないぞ。それより、お前は大丈夫なのか?」
“気にしてない”は、嘘。
でも、今はそう言うしかない。
『大丈夫と言えば大丈夫だし、大丈ばないと言えば大丈ばない……』
どういうことだよ!──なんて、いつものノリで返答することは出来なかった。
『何と言ったらいいかわからないけど、とにかく広場に来て。10時になったら騎士団が来て返還式があるの、ブルーハイヒールの。それを見に来て。』
「わかった」
『それと、』
リンナは声を曇らせる。
『アイツは大丈夫なの?もう目覚めた?』
ドッペルか。俺は二階の方を見上げながら答えた。
「いや、まだだ。それと、今は“かむい”になってる。朝起きて見に行ったら、そっちの姿でぐっすり寝ていた。」
「そう。わかったわ。じゃあね。」
プツンっ、と通話が切れる。
ツーツー、という音が部屋の静けさを際立たせていた。
今日はあの、“クスッ”というくすぐったい声も、“あっはは”というおどけた声も聞こえない。
────────────────
家を出る前にドッペル──いや、かむいにメッセージを残しておいた。
勝手に外に出られても困る。
ドアを開けたとき、思わず笑ってしまった。
少し前は町に出掛けることすらあり得なかったのに、まさか自分が祭に行くなんて。
いつぶりだろう、自ら人混みに飛び込んで行くのは。
俺は二階をチラッと見て、もう一度笑うのだった。
こんにちは。ななるです。
オープニングマーチ編、略して『OM❮おむ❯編』。
おむ編ではF、リンナ、ドッペルがバラバラに動くことが多いので書いてて難しく、楽しいです。
遂に50話!
同時投稿のキャラクター紹介も是非ご覧になってください。
ありがとうございます!
では、次回があれば、またお会いしましょう!




