D-5:レッツゴーミラージュ
D-5:レッツゴーミラージュ
「そいつは俺たちじゃない、てどういうことだ。何か知っているのか。」
ドッペルは俯いたまま黙っている。
「何か言えよ。」
ドッペルは黙っているままだ。心なしか少し震えているように見える。
一体何だっていうんだ。リンナは無事なんだろうか。まさかその得体の知れないやつにやられたんじゃ──
相変わらず空はそこはかとなく青く、白い雲がコントラストを成している。さっきよりも高くから降り注ぐ陽の光は、遮られることなく真っ直ぐに部屋に差し込んでくる。
仕方ない。
Fは黒いジャケットを着て、帽子を深くかぶった。
「何してるの?」
「町に行く。そしてリンナの屋敷に行く。」
「駄目だっ。」
鋭い声が響き渡る。さっきまで俯いていたドッペルが、真っ直ぐにFを見ている。
「絶対に駄目だ。行っちゃいけない。」
「何だよ、皆のお望み通り引きこもり卒業してやるっていうのに。」
「今はそんな冗談を言っている場合じゃないんだ。」
急に部屋が暗くなった。太陽が雲に隠れたようだ。
「悲劇が繰り返されるだけだ。」
「!」
こいつは何処まで俺のことを知っているのだろう。ドッペルゲンガーなら当たり前なんだろうか。
「──それでも俺は行く。同じようなことが起きてるなら尚更だ。行って確かめる。そして元凶を討つ。」
知っていて動かないのは嫌なんだ──そう言うFはどこか寂しそうに微笑んだ。
ドッペルは頭を抱え少し悩んだ結果、最後にはクスッと笑い、そのまま腹を抱えて大笑いしだした。
「あっはは!キモチワルっ!Fが、微笑むとか、あっははははっ」
こいつ、覚えとけよ。
ドッペルはヒー、ヒー、と呼吸を整える。そして、姿勢を正し、朗々とした声でこう言い放った。
「よし、この俺がついていってあげるよ。ただし!」
ごくり、とFは喉を鳴らす。一体何を要求されるのか。
「一つ、敵を見つけても戦わないこと。姿を見せないこと。
一つ、俺の指示を守ること。
一つ、帰ったらひとつ俺の言うことを何でも聞くこと。
これらを絶対守る、OK?」
「上二つはともかく、三つ目は──」
「レッツゴー!」
言わせねーよ、てか。くそ、何でも、てなんだよ。
「『敵』と表現したのは、俺らとそっくりなやつのことか?」
「ああ、そうだよ。」
ドッペルは右手から巨大な魔方陣を空中で、地面と平行に展開した。部屋に収まりきらず、外にまではみ出している。
「何処まで広げてるんだ?」
「フラッタ全域だよ。安全にたどり着けるように魔法をかけているんだ。」
その魔方陣は円をベースに、文字、記号が複雑な模様を形成している。道場にも魔法が使えるやつがいたが、ここまで複雑な魔方陣はFにとって初めてのものだった。
魔方陣が最後に青く光るとともにドッペルの「出来た」という呟きがきこえた。
「この魔法は時空間を分解する力がある。簡単に言うと、魔方陣内だけ時間の流れを変えたり、空間を一部だけ空に浮かせたり出来るんだ。これを応用して、俺らがいる空間ともとの空間を少しずらして、お互いに干渉できなくした。」
「???」
はてな三つでは足りない。Fは魔法に疎いのだ。
「ええと、だから、俺らはこれから普通通り町を歩きます。」
「はい」
「当然、町や人が見えます。」
「はい」
「ですが、干渉できなくしたので、触れられません。全てにおいてすり抜けます。」
「おおっ」
「それは彼らも同じで、俺らを触れません。つまり、敵がいても攻撃されません。」
「おおおっ」
「ついでにあっち側から俺らを見ることが出来なくしました!」
「おおおおっ」
ドッペルはふふーん、と胸を張る。
「つまり、こういうことか?俺達は巨大な蜃気楼の中を歩くようなもの。」
「その通りだよ。なかなか詩的なことを言うね。」
グッと親指を立て、ウィンクし合う二人。親睦が深まったようで何よりである。
「では行こう!レッツゴーミラージュ!」
こんにちは。ななるです。
私、ななるの辞書には「文法」という言葉がなく、「レッツゴーミラージュ」はリズム感だけで名付けました。
言い訳みたいになりますが、ほら、ちゃんと片仮名にしてるでしょ?
お許しくださいませ。
さて、次回も予告は仕事をするのか。
次回、「無限の魔力」
次回があれば、またお会いしましょう!