D-45:クレアの依頼 ③
D-45:クレアの依頼 ③
次の日。
クレアは約束通り広場に来た。
広場にはすでにリンナが到着していた。
ドッペルの姿は見えない。
「やあ、リンナ。昨日はその、──」
「いいのよ。気にしないで。それより、──アイツ、呼び出しておいて自分が来ないなんて、どういう神経してるのかしら」
昼の12時まであと3分。
リンナは30分前から待っていた。
「安全な場所、とは一体──うあっ」
ずれた。
目に入る全ての輪郭が二重、三重になって歪み、常とは違うところにはまった──そんな感覚。
これは前にFが体験した“蜃気楼の中を歩くようなもの”(※5話)と同じもの。
初めての感覚に二人があたふたしていると、ドッペルが現れた。
「──ようこそ、ミラージュへ。これなら何を話しても大丈夫。周りからは君たちが全く見えてないし、突然消えてビックリしてるだろうよ」
「「???」」
「あっはは。Fもそんな顔をしていたよ」
リンナとクレアはドッペルからミラージュについて詳しく説明してもらった。
「──なるほどね。理解したわ。さて、クレア。説明して。昨日、あなたに何があったのかを」
クレアはコクンとうなずいて、おもむろに話し始めた。
「──たいていは昨日ドッペルが話した通りだ。ブルーハイヒールが奪われ、満月の晩に来なければ石を割ると脅迫された。そこまではあってる」
そこでクレアは顔を曇らせた。
昨日の“No”の理由について話すのだろう。
「昨日バルスチアが来た時、私は言ったんだ。『そんなに私を追い出したいなら出ていってやる。だからブルーハイヒールだけは返してくれ』ってな。するとあの女は一層醜く笑ってこう言った。『あら、イヤね。私、別にあなたに出ていけなんて一言も言ってないわ。あなたの店が潰れることなんて、わざわざ私が手を下さずとも決まってることよ。私がこれを狙ったのはね、他に理由があるからよ。わかったら従いなさい。──あなたの愛するフラッタのためにもね』」
クレアはその時はなんのことかわからなかったが、リンナが来てハッとしたと言う。
「『来週、ルワーユの騎士団がブルーハイヒールを取りに来る』。ドッペル、お前が来る前にリンナにそう言われたんだ。それを聞いて全てが繋がったよ。あの女は私の店だけでなく、フラッタ家まで潰す気なんだ。そのためにブルーハイヒール、即ちルワーユを利用する──くそ、やはりアイツはテトラのスパイ立ったんだっ!」
クレアは拳を強く握りしめて、むなしく降り下ろす。
「──背負いすぎることはなかったのよ。昔、あなたの一族に管理を任せたのは私の祖先だもの。誰にもあなたを責めさせない。私が保証するわ」
「リンナ……しかしこのままでは……」
ルワーユの軍事力の右に出るものはない。
そして近年、ルワーユに従わない街が次々とルワーユ王自らの命令によって壊されていっている。
ブルーハイヒールを無くせば、当然フラッタもただではすままい。
「大丈夫。ブルーハイヒールはね、交換条件なの。ルワーユが研究で使いたいと言うから、パパが騎士を街の護衛として借りることを条件に承諾したわけ。だから大丈夫。『やっぱり騎士は要りません!』て言ったら何とかなるわよ!」
苦しい言い訳。
リンナもそれがよくわかっているようで、途中から目が空を泳いでいる。
クレアはさらに気を落とし、それを見たリンナがおろおろして、次にドッペルを睨む。「あんた、どうにかしなさい」と言うように。
ドッペルはため息をついて苦笑い。
「ちょっと、リンナ。取り返せない前提で話を続けないでよ。俺が依頼を受けたんだよ?大船に乗った気でいてほしいなあ」
「大きな幽霊船に乗せられて、余計に不安で仕方ないわ」と、リンナの冷たい一言。
「まあ、聞きなよ。──クレア、君の一族は本当にあの石を大事にしていたから知らないと思うけどね、実はあの石、俺の魔法を使っても壊せないだよ。ダイヤモンドとは比べ物になら無いくらい頑丈で、刃物をあてても、高いところから落としても、火で炙っても、銃で撃っても問題なし。すごいだろ?」
クレアは「えっ?」という声を漏らして、食い入るようにドッペルの話を聞く。
「三百年前、ルワーユ王が見つけたその石は、王の意思に反してフラッタの贈り物の中に紛れ込んでしまった。何も知らない家臣とフラッタ家はその石をルワーユとフラッタの友好の証として大切にしてきた」
どこか懐かしむような雰囲気のドッペル。
リンナは彼がどうしてそんなことを知っているのか不思議でならなかった。
「今もその石が何なのか知る人はいない──俺とルワーユ王を除いてね──これを聞けば、何故今さらにルワーユ王がそれを欲しているかわかるよ」
ドッペルはクスッと笑う。
もう、勿体ぶらずにさっさと話せばいいのに。
リンナはだんだん腹が立ってきた。
「ブルーハイヒールは元々、一つの魔緘石だった。一部の人しか知られていないけど、魔緘石は魔法だけではなく、人の心も少しだけ吸収するんだ。それがどういうわけか、一人の人間の全ての心が石に吸収され、上手い具合に結合してしまった。──それがブルーハイヒールの正体さ。もう魔力を吸うことは無いけれど、計り知れない量の特殊な魔力を有している……とルワーユ王は睨んでいるようだよ」
人の心?石が?
初めて聞くことが多すぎて、さっきまでの怒りは彼方へと飛び思考が遅れて走ってくる。
クレアも驚きが隠せないようで、柄に似合わず口を大きくあんぐりと空けている。
「あっはは。大切なのはこっからだ。つまり、ブルーハイヒールは何をしても壊れないし、傷つかない。だからバルスチアさんが何かを仕掛けていたとしても、それは全くの検討違い。ソコをついて、俺達は何にも動じず、堂々と取り返せばいい。さ、彼女の悪事を暴き、テトラのスパイを追い出そー!!」
おー。
こんにちは。ななるです。
次回から元の時間に戻ります。
久しぶりの戦闘シーンになりそうです!
さて、Fは今度こそ活躍できるのか……?
次回があれば、またお会いしましょう!




