D-38:ネクストラップ
D-38:ネクストラップ
バルスチアとの約束の日まであと二日。
朝は特に何もなかった。怪盗アレクも特に動いてないらしい。
昼食を食べた後にドッペルが
「怪盗アレクについて情報収集してくるよ。あ、出掛けてもいいけど、四時までには帰ってきてね。バルスチアさんの店の造りとかをチェックしに行くから」
と言って風のように出ていってしまった。
Fは特にやることもないので二階のベランダに出て、木刀で素振りをしていた。
「Fぅーーっ!」
若い女の声。上から覗いてみると、ベルがドア前から手を振っていた。
──────────────
この前映画を一緒に見に行った後も、Fとベルはちょこちょこ会っていた。
変にはぐらかされてしまったあの質問は、あれ以来していない。それからFは、ベルに言われた通りドッペルにもリンナにもベルに会ったことは秘密にしていた。
しかし、ベルが問題屋に来たのは初めてのことだった。
「へぇ、ここがFの家……素敵なところね!」
ベルが何を見てそう思ったのかは、あえて聞かないことにした。
ん?
「ベル、俺の家がここってよくわかったな。教えたっけ?」
「ギクぅっ」
「そういえばお前、何故か俺の電話番号も──」
「そそそ、そんなことどうでもいいじゃない!──ね、ねぇ、二階は何があるの?」
ひきつった笑みで聞いてくるベル。
はて、不思議だ。
「特に変わったものはない。風呂と洗面所とベランダと──あとドッペルの部屋だな」
「ドッペル?……ああ、Fと同棲しているっていう──」
「その言い方はよろしくないっ!」
なんか、変な誤解が生まれそうじゃないか。
「え?じゃあ共生?」
「それもなんか、ダメだ」
もー、ワガママだなぁ、と言ってベルは頬を膨らました。
……ワガママとかそういう問題のじゃない。
Fは紅茶を二人分淹れて、ベルをソファに座らした。
「で、今日は何の用なんだ?依頼か?」
「もう、用がないと来ちゃいけないっていうの?ひどい!」
プンスコと怒りながらベルは頬を膨らませる。
リンナみたいなことを言うんじゃない。面倒くさい。
ベルは紅茶を少し口に含んだが「あちっ」と言ってカップをすぐに置いた。
うむ、普通の反応だ。
やはりバルスチアの舌がいかれていたのだろう。
「ねぇ、ここって仕事あるの?どんな人が依頼しに来るの?」
「具体的には依頼人との秘密だから言えないが、あるぞ。迷子を届けたり、屋根を直したり、花壇の手入れを手伝ったり──怪盗を捕まえたりする仕事だ」
最後のがなかったら、ただの町のパシリじゃないか!
「え、怪盗!?」
幸いなことにベルは面白いところだけに食いついてくれた。
「ああ。これは今やってる仕事のことなんだが──知ってるか?怪盗アレクって」
「ううん、全く」
やっぱりかぁ……!もっと有名であってくれよ、怪盗アレク。
急に熱が覚めたようで、ベルはそれ以降怪盗について聞いてこなかった。
────────────
それから小一時間くらい会話してベルは立ち上がった。
「じゃあ、そろそろ私帰るね!また来る!」
そう言ってベルは真っ直ぐドアに向かう。
あっ、また──
「待ってくれっ!」
「え?」ベルは驚いたようで、立ち止まって振り返った。
なんか、前も同じように呼び止めた気がする。
いいや。
「──れ、連絡先を、連絡先を教えてくれっ!……ほら、いつもお前から、だろ?誘ってくるの……」
あー、なんかあつい。耳まであつい。
無意識にFはベルから目をそらしていた。
「……だからさ、たまには俺からも声をかけたい。……ダメか?」
最後だけFはベルと目を合わせた。
ベルは少しの間、口を開けたまま固まっていたが、向き直って細っこい首をブンブンッと強く振った。
長い金色のツインテールも一緒に舞う。
ベルはFを真っ直ぐ見て眩く笑い、
「じゃあ、次はFが誘ってくれるまで、私、待ってるからね?」
と言って、人差し指をくるんっと回した。
すると緑色の光の玉があらわれ、ゆっくりとFの電話の方へ飛び、中へ入っていった。
「これで大丈夫!待ってるからね」
ベルはそのまま振り返らずに帰っていった。
ドッペルが帰ってきたのは、その10分くらい後のことだった。
こんにちは。ななるです。
平成最後の夏がゆっくりと終わって行きます。
と同時に、自分も暑さで日に日に終わっていっている気がします。
さて、次回。「バルスチアジュエリーにて」
次回があれば、またお会いしましょう!




