D-32:シークレットガール
D-32:シークレットガール
「……と、とりあえず、スタッフの人に聞いてみよう?さ、F、行ってきて」
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Fとベルがチケット売り場前で恥を押し付けあっていると、男性スタッフが声をかけてきた。
「リングベル様とドッペル様ではありませんか!ようこそお越しくださいました。一体、本日はどういうご用件で?」
ドッペル様?
聞き間違えだろうか?
その男性スタッフは目を爛々と輝かせていた。
どうやらベルは割と有名人なようだ。
「──大した用ではありません。映画鑑賞に友人を連れてやって来た、それだけです。」
ニコッ、とベルは愛想よく笑った。
「ええ!お二人はご友人同士だったのですか?それは凄い!で、一体何の映画を?」
「”もうダメ・カンタービレ”です。」
「直ちに席を用意させます。しかし、もしかしてお二人は恋人通しなのではありませんか?」
ニヤニヤとスタッフが笑う。
「ふふふ……いえ、本当にただの友人です。それと、彼は『ドッペル』という名ではありませんよ」
そのスタッフはえ、え?とFとベルの顔を交互に見て、最後にベルの方を向いて「失礼しました」と頭を垂れた。
「──準備が出来たようです。こちらへ」
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「──あ、入っていくよ。俺たちも行こう」
Fたちの数メートル先から様子をうかがうドッペルとリンナ。
周りからは変な目で見られている。
「いや、今日はここまでね」
さっきまでの勢いがまるで嘘だったかのよう。
それは落ち着いた声だった。
「いいの?」
「いいの。調べたって仕方ないわ……こうなったら、自力で振り向かせるの……」
最後の方は少しかすれていた。
リンナは耳まで赤く染めて、引き返していく。
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『ちゃんと見てくれるまで、私、諦めませんからね』
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ドッペルは少しの間、リンナの後ろ姿を呆然と見ていたが、クスッと笑って、
「そういうところまで似なくていいのに」
と呟いてから、リンナのあとを追った。
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「ふわあわあわああ……」
退屈だ。
Fはもう一度、大きく欠伸した。
一方ベルは楽しんでいるようで、泣きながらポップコーンを頬張っている。
終わりを告げる『END』の文字。
泣きじゃくるベルを立ち上がらせるだけで一苦労だった。
映画館を出ると既に日は大きく傾いて、東の方は既に藍に堕ち始めていた。
Fとベルは映画の感想など他愛もない話をして、広場の噴水へと向かう。
「今日はありがとう」
急に立ち止まってベルが振り返ってきた。
「とても楽しかった。初めて映画館で映画を見た、初めてこんな時間まで外で遊んだ、初めて……初めて、家族以外と出掛けた。全部Fのお陰だよ!」
ベルがニッ、と笑う。
「……俺も、楽しかった。その……誘ってくれてありがとう」
熱い。西日のせいだ、たぶん。
「ふふ、じゃあね!」
ベルが手を振って、走っていこうとする。
ダメだ!まだ、、、
「待ってくれっ!」
考える前に叫んでいた。
たっ、とベルが立ち止まる。
「教えてくれ。お前は一体──」
何者なんだ?
その声は音にならなかった。
最後の最後に訊くことを躊躇ったんだ。
ベルはふふ、と笑った。
その口許だけが動く。
『ヒ』『ミ』『ツ』
瞬きをした次の瞬間、一瞬でベルはFのすぐ目の前に現れた。
驚いたFの開いた口に、ベルの細くしなやかな人差し指を当てて、
「秘密は多い方がおもしろいの。ね?だから次会うときは、二人だけの秘密にしてね?」
言葉と共にベルは姿を消した。
こんにちは。ななるです。
昨日、『白色の少年』最終話を更新しました。
たくさんの方が見てくださって、とても嬉しいです!本当にたくさん……本編越えです!
『白色の少年』の最後のシーンは本編ではまだ先のお話です。楽しみに待っていただけたら幸いです。
さて、次回。「魔緘石」
次回があれば、またお会いしましょう!




