D-30:そうだ、映画館に行こう
D-30:そうだ、映画館に行こう
フラッタの中央に位置するこの広場では、いかなる争いも起こしてはならない。
それは、この広場における唯一のルールであり、絶対の理なのだ。
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何の変哲もない噴水。水が音を立てて流れる。
Fは空を見上げて、カンカンと照り付ける太陽を睨みつけた。今日は少しいつもより暑い。
「ごめん。待った?」
金色のツインテール、明るい緑の瞳。ベルだ。
涼しげな白いワンピースを身にまとっていた。
「だいたい三十分くらいだ。気にするな」
「もう。そこは『俺も今来たところだ』とか、気を利かせるんだよ!」
ベルはぷう、と頬を膨らませ不満をあらわにする。
なるほど、そんなルールがあるとは知らなかった。
「──じゃあ、行くか。」
「っ!うんっ!」
なぜこの二人が待ち合わせをしていたのか。
その理由は数日前にさかのぼる。
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「え?『映画に行きたい』だって?」
トントントン、と軽快な音を立てて大根を刻む。Fは今、電話片手に朝ご飯づくりの真っ最中だ。
『そう!今ね、話題の映画あるでしょう?近代サクセスラブストーリーの、』
「ああ、”となりのドロドロ”だな?」
ドドテンっ、と物凄い物音が電話越しに聞こえてくる。
『ちっがあーう!”もうダメ・カンタービレ”よ!』
そっちか。確かにドロドロの方はラブストーリーではないな。
『それでね、一緒に行かない?映画。というか行こうよ!』
うーん。俺はドロドロの方が見たいんだが………
「そういえば、連絡先、俺教えたっけ?」
『ギクゥっ』
「何で知ってるんだ?」
はて、不思議だ。
『そそそ、そんなことどうでもいいじゃない!──もう。三日後の二時、中央広場で集合だからね!』
ガチャ。ツーツー。
一体何を焦っているのか。
「まあ、いっか」
Fは切った大根を鍋に入れ、再び朝ご飯作りに没頭するのだった。
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映画館はドラゴンロードの真ん中くらいに位置する。
今更だが、映画もこの世界に存在する。ただ、CGなどというハイテクな技術は存在しないから、たいてい魔法でその辺は何とかしているようだ。ん?CGも魔法もそんなに変わらないか。
「ねえ、F?」
「どうした?」
ベルが青ざめた顔でFを見上げる。
「チケットって、どうやって買うんだっけ?」
ピッシャァーンっっっっ!
この晴天の下、確かにこの瞬間、俺の背中に一つの雷が落ちた。
「も、もう一度?」
ベルは今度は耳まで赤に染めて、もじもじとしながらこう言った。
「誘っといて何なんだけどさ、私……無いの。映画館で映画を見たことがないの。」
ゴロゴロドッピャーンっっっ!
この雷、さっきよりデカイ。
「俺も……無い……」
「え?」
「俺も、映画館に行った事、無い……」
いつもより暑いはずなのに、二人にはこの時、確かに冷たい風が吹いたという。
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「ええええええ!どうしよう!」
「お前が迷いなく映画館に向かうから、てっきり行った事あるとばかり思ってたんだが。」
「行った事あるけど、いつも挨拶だけで、お客側になんてなったこと無いよ!」
Fの脳裏にはてなが浮かんだが、今の状況の深刻さがそれを勝った。
「……と、とりあえず、スタッフの人に聞いてみよう?さ、F、行ってきて」
「なんで俺だ!?」
「いーじゃん、行ってきてよお。恥ずかしいでしょ?」
俺だって恥ずかしいわ!
はてさて、どうなることやら。
こんにちは。ななるです。
自分は暑さ耐性がマイナスで、夏になると全ステータスが十分の一になってしまいます。外に出て、エレベーターを使って、下界に降り立っただけで行きを切らしています。ギルティー。
さて、次回(上の文は無視の方向で)。「ストーキングデート」
次回があれば、またお会いしましょう!




