D-20:初クライアント
D-20:初クライアント
「徒然町に越してきてから、一週間が経った。
最初のうちは俺を見てギョッとするやつが多かったが、この一週間でそれは殆ど無くなった。
リンナは『スクナメルジャについての理解が進んでいる』と言っていたが、それだけじゃないことを俺は知っている。
道場の方は俺が開く気になるまで、フラッタ家が管理することになった。
流れに流され今に至るが、結果的にこれでよかったと思っている。
前に進むときが来たのだ──」
パタン、と音をたててドッペルはそれを閉じた。
外はゆっくりと明るくなっている。
クスッとくすぐったく笑って、呟く。
「本当によかったのかい?」
─────────────
Fは勢いよくドアを開け、自分の部屋からでる。
そして、熊のように辺りをうろちょろと歩き、また部屋へ入っていった。
部屋の方は何やら凄い音がして賑やかだ。
また部屋から出てきた。「──無いっ!」
「何が?」
「無いんだよ!」
どうやらとても慌てているようだ。
ろくに会話すら出来ていない。
少し大きめの声で、ドッペルはもう一度Fに問う。
「何を探しているの?」
少し大きめの声で言ったのが功を成したのか、今度はちゃんと聞こえたようだ。
「え、あっ、えっと……」
しかし、何故かしどろもどろ。
ピンときたドッペルは、持っていたそれを見せびらかすように軽く振って、
「もしかしてさ、これのこと?」
と、ニヤッと笑う。
「お、お、おっおま、おっ──」
Fはまるでオットセイにでもなったのかというくらい、『お』を繰り返し発音し、続けてこう言った。
「何でお前が俺の日記を!」
「いやー、まさかFが日記をつけているとはね。女々しいところもあるもんだ。」
ドッペルはパラパラと中を開きながらケラケラと笑う。
「見るな!」
Fは耳まで真っ赤にして叫ぶ。
「今更言われても、もう全部読んじゃったよ。『前に進むときが来たのだ』なかなか良いこと言うじゃん。えーと?『そして何より、同居人のドッペルゲンガーが本当にいいヤツで──』」
「そんなことは微塵も書いていない!」
Fは素早くドッペルに詰め寄り日記を取り返した。
「まあまあ、そう怒らないでよ。俺は君のドッペルゲンガーなんだから見たってなんの問題もないだろ?」
「大アリだ!」
「だいたい、Fがこんな時間まで寝てるのが悪い。君が起きないから朝ごはんも食べれない。仕方無いから日記を読んでたんだよ。」
「死ねっ!」
よく晴れた日の昼下がり。
こんな日は依頼人の一人でも来そうなものなのだが、というか、この『問題屋』にはまだ一度も依頼人と呼べる人間は現れていない。
「なぁ、ドッペル。問題屋って何をするんだ?」
「それ、いつも聞くよね。依頼人の依頼をこなすのが問題屋だよ。」
「依頼人がいないときは?」
「依頼人を待つ。」
このままでは破産してしまう。
道場の残った金もそんなに多くはない。
「あっはは。ドッペルゲンガーがお金持ってるわけ無いじゃん。ばーか。」
こいつ……。
チリンチリンッ。ドアベルが軽い音を鳴らす。
「おっと、誰か来たみたいだよ?」
─────────────
「ちょっとお、客を迎えるときは笑顔。礼儀よ?」
「お前か。」
やって来たのはリンナだった。小さい女の子を連れている。メイドの子、とかだろうか?
「何、私じゃ不満?──まぁ、いいわ。今日はただ遊びに来た訳じゃないの。」
リンナはフフンと笑って、腰に手をあて胸を張る。
いわゆる、『エッヘンのポーズ』てやつだ。
「今日の私は依頼人。もっと丁寧に対応しなさい!」
……。
「はぁ?」
一体全体何なんだ。
こんにちは。ななるです。
ついに20話です!
最近は日常系のお話だから進みはゆっくりですが、それを含め楽しんで頂けたら、と思います。
と同時に、『白色の少年』の方もゆっくり更新していきます。まだ大切ではありませんが、考察の際には必ず必要なストーリーです。そちらも是非、楽しんで(楽しくないけど)頂けたらな、と思います。
これからも頑張っていくので、応援していただけたら幸いです。
さて、次回。「誘拐少女リンナ」
次回があれば、またお会いしましょう!




