D-2:ハロー!ドッペル。
D-2:ハロー!ドッペル。
現在、王都ルワーユでは急速な魔法の一般化が進んでいる。誰でも楽に生活できるように、魔道具の開発が行われているのである。数年前にできた、情報を映像化し、放送できる魔道具(君たち日本でいう“テレビ”というやつだ)によって便利な魔道具の存在は世界中に広がった。
もちろんフラッタも例外ではない。
つまり何が言いたいかというと、Fが今こうして独り暮らしができるのは日本の一般的な専業主婦と同じくらいの家事スキルがあるだけで、無人島でサバイバルできる能力が高いわけではないということだ。
今日も、物語は彼の視点で進んでいく。
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「っ!──いつもとは違うというわけか。」
両腕にさらに力を込める。力強く、且つ丁寧に。
「よし、これで終わりだあっ」
水で流し、タオルで拭く。人差し指で軽くこすり、キュキュッ、という音を聞いたFは静かに、強敵フライパンを置いた。何という達成感。
その後、掃除洗濯と一通りの家事を終えた俺は、歯を磨こうと洗面所に向かう。達成感だけでは歯はきれいになりはしない。
廊下を歩いていると、音声通信魔道具(糸なし糸電話。つまり電話機能しかないガラケーだと思ってくれて構わない)のベルが鳴った。
リンナからだ。
『F、あんた昨日も町に出てたんですって?なんで私のところには来ないのよ?おととい言ったばっかりじゃない』
また、その話か。一体何だというのか。
『まぁいいわ。次、次よ。次こそは遊びに来てね。そっち行くの割と疲れるんだから。』
「待ってくれ。一体何の話なんだ。俺は昨日、というか、ここ数か月は一度も町に出ていないぞ?」
少しの沈黙。そして、
『はぁあああ?何ですって?どういうことよ。』
魔道具が引きちぎれそうなノイズとともに、リンナの声を伝えてくる。
「いや、だから町に出るどころか、俺は森からも全く出ていない。」
『何言ってんの、食べ物はどうしているのよ?』
「お前が三日に一度、持ってきてくれるだろ?」
『あそっか。』
馬鹿か、こいつは。
『──そういえば、町で変なこと言っている人もいたわ。雰囲気が違う、別人のようだった、とか。それから、もしかしたらドッペルゲンガーなのかも、なんて言っている人もいたわ。』
急に背筋が寒くなる。
『ま、まあ、気にしなくていいんじゃない?そっくりさんなんて世界に三人はいるって話だし、ドッペルゲンガーだとしても出会わなければいいだけよ。どっちにせよ、たまには遊びに来なさいね!じゃあね!』
ツー、ツー、と通話の切れた音だけが響き渡る。
なんだよ、逃げるように切りやがって。いつもの威勢の良さはどうしたんだ。
ドッペルゲンガー。自分の分身で遭遇すると、その人は必ず近いうちに死ぬという・・・
「ない、ない。そんなものあってたまるか。」
再び洗面所に向かって歩き出す。
そんな霊的なものなんて俺は信じない。断じて信じないぞ。きっと誰かが魔法でいたずらをしているのだ。そうに違いない。いや、そうだと決めましたあ。異論は認めましぇーん。
もはや人格崩壊の危機に瀕しているF。洗面所はもうそこだ。
「ぅぎょあっ!」内臓がつぶれたかのような声を発した。
「いる!」そこにはFと全く同じ姿の青い瞳の少年が。
なぜだ。なぜよりにもよって我が家の洗面所に。
ん?洗面所・・・なんだ、鏡か。びっくりさせやがって。
蛇口をひねって水を出す。バシャバシャと顔を洗う。
いや、待てよ。
強い勢いの水は止まることなく音を立てて流れていく。
さっきの鏡に映った俺は確か青い瞳だったような・・・
ゆっくりと恐る恐る顔を上げ、上目遣いに鏡を見る。
「うぁああああ!青いぃいいいいっ」はい、ドッペルゲンガー。はい、俺死んだ。
Fは再び鏡を見た。鏡面が、まるで水に石でも落としたかのように波立っている。
急に、ニュッと、そいつの両腕がこちら側にのびてきた。そして次に、頭、右足、左足、と全身がこちら側に現れた。
「あっはは。ごめん、君を驚かせようと鏡でスタンバってたけれど、まさかそこまで驚くなんて。」
「うわあああ!ドッペルゲンガーがしゃべったぁぁああっ」
再び塞ぎ混むF。この時、青い瞳のその少年が、一瞬驚いた顔を見せたのを、Fは知らない。
そして、青い瞳の少年はクスッと笑って、
「そう。俺は君のドッペルゲンガー。ドッペルと呼んでよ。」
と言って、Fに手を差し出し微笑んだ。
少し落ち着いたFは、立ち上がり、ドッペルを睨み付ける。
「なぁ、俺はもうすぐ死ぬのか?お前が俺を殺すのか?」
はっ、もしかしてもう死んでるのか?と言ったところで、ドッペルが腹を抱えて笑いだした。
くそっ、人がこんなに悩んでいるのに何を笑ってやがる。
「もういい!そう簡単に死んでたまるか!返り討ちにしてやる。」
Fの右手の指輪がキラリと光る。次の瞬間には彼は真剣を構えていた。
「へぇ。剣を転送させる魔道具か。なかなか洒落たものを使うね。」
耳元で囁かれゾワッとした。いつの間に移動したのか、ドッペルはFの真後ろにいる。
「でも、それくらいの転送術なら俺にもできる。」
Fの喉元に冷たいものが当たる。ナイフだ。さっきは持ってなかったのに。
「いいかい?よく聞くんだ。」
ドッペルは静かな声で囁いた。
「俺は君をまだ殺さない。君は、精一杯生きねばならない。」
彼の青い瞳は、ただ、遠いところへ何かを訴え続けているようだった。
こんにちはー!ななるです。
ご視聴していただきありがとうございます!
この小説は、自己満足が目的です。
やっとドッペル登場ですね。相変わらず話の方向は分からないまま。
進学か、就職か。そんな感じのハラハラ感がありますね(何言ってるんだ)
さて、次回こそ「F死す」!
次回があったら、またお会いしましょう!