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D-16:黒被りの理由



D-16:黒被りの理由



「来るよ。」


風と共にスクナメルジャが突進してきた。


豪々となる風音。


溢れる殺気。


空の茜はもう霞かけている。


Fは大きく振り上げタイミング待つ。


──3、2、1、


「ゼロ。」


全力を込めて降り下ろす。数えきれない思いを込めて。


「死っねぇぇぇえええええっっっっ!!!」





ぷすっ。


空気の抜けるような音。


え、何だ?


Fの剣は最後まで降り下ろせず、まるで壁にでもぶち当たったかのように途中で止まっている。


目の前に広がる白い光の壁。よく見ると複雑な模様が描かれている。


「あっはは。殺しちゃダメだって言っただろ?これだから単細胞は困るなぁ。」


隣でドッペルが腹を抱えて笑っている。何となく周りの赤狼たちにも笑われている気がした。


「う、うるせぇ!」


Fは静かに剣を下ろした。


「なんだよ、邪魔しやがって!こっちは手加減して傷を負わして終わるつもりだったのに、何止めてくれてんだ!」


「へぇー?『死っねぇぇぇえええええっっっっ!!!』とか言ってたのに?本当?」


「ニヨニヨするなあっ!」


Fは耳まで真っ赤になった。


「くそ、仕切り直しだ……ておい。」


スクナメルジャは身動き1つせず、空中で突進の体勢で静止している。


白い光の壁に囲まれているのだ。


「お前、全方向にこれを?」


「すごいでしょ!攻撃しなくても相手を止める、さっすが()()──」


「『かむ』?」


「──いや、何でもないよ。」


苦笑い。


どうしたんだ?


「さて、スクナメルジャに説得しないとね。」


ドッペル取り繕うように大きな声でそう言った。


少し動揺しているようだ。


ドッペルは両足を肩幅に開き、両腕を伸ばし、大きく深呼吸した。


足元に青色の魔方陣が開くと同時にスクナメルジャを囲む白い壁にも青い魔方陣が浮き上がる。


「スクナメルジャ、君を湖に閉じ込めたのは俺たちではない。君の苦しみは分からないが自由を焦がれる気持ちはわかる。君の思うまま、今まで通りの生活をすればいい。」


空はいつの間にか群青に呑まれてた。


Fは赤狼たちが立ち上がりこちらをじっと見ているのに気がついた。


「──て、あれリンナあんなところに。」


「スクナメルジャ、君を放つ前に約束して欲しい。そこにいる赤狼たち、それからフラッタの町へ飛び、人々に君の霧をかけるんだ。君にも必要なことだろう?」


「キュォオオォオオオオオン」


Fにはそれが了承の返事のように聞こえた。


「ありがとう。」


眩い光が辺りを白き闇に誘う。


─────────────


「キュォオオォオオオオオン!」


紫の霧をスクナメルジャが扇いで周りに溶かす。


「………ぐう……があっ!」


「何?赤狼が……苦しんでる?」


リンナは近くにいる赤狼のもとによった。


「ちょっと、大丈夫?」


赤狼は目を閉じてその場でのたうち回っている。


「え、え?落ち着いてよ!本当に大丈夫なの?」


赤狼の動きが止まった。目を開けた。


「え……どうして……?」


赤狼の目が、赤いはずの目が、黒い。


────────────


Fには何が起きているのか分からなかった。


目の前の赤狼たちの目が黒くなっていくのだ。


もはや自分の目の前にいるのは赤狼なのか、それともただの犬なのかわからなくなってしまった。


「ドッペル、これは一体──」


「「わんっ!わんわんっ!」」


赤狼たちが一声に吠え出した。しかもバラバラの方向を向いて。


「キュォオオォオオオオオン!」


スクナメルジャが飛び立った。フラッタの町の方向だ。


「おい、ドッペル──」


「スクナメルジャの出す紫の霧には動物にある影響を与える。」


「目を黒くする、か?」


「あっはは。よくわかったね、単細胞。」


「ああ?」


「そう、スクナメルジャの霧には目を黒くする作用がある。それはスクナメルジャ自身を守るためなんだ。目の黒い生き物にはスクナメルジャの姿を見ることが出来ない。」


「あ、だからさっき、赤狼たちがバラバラの方向を向いてたのか。」


「そう。ま、彼らの場合鼻もいいから、それだけが理由かと聞かれると微妙だけどね。」


「じゃあ、町に向かわせたのは?」


「もちろん、町の人を黒目にするためさ。普段、フラッタの黒被りと呼ばれる現象はここから出ていたスクナメルジャの霧が薄まってできたもの。しかし、どういうわけかスクナメルジャはここのところ湖に封印されていた。だから霧が町に流れなかったのさ。よって、高濃度のスクナメルジャの霧を人々に当てることによって一気に黒くする、て訳さ。」


「……」


Fは俯いた。結局なんの解決にもならないのだ。


「そんな顔しないでよ。今回目の色が戻った人たちはみんな違うところから移住してきた人なんだ。可哀想だろ?それに──」


ドッペルはクスッと笑った。


「彼らには見えるはずさ。目が黒くなるその瞬間まで。フラッタ上空を飛ぶスクナメルジャと紫の霧が。」


「!」


「あっはは。そうそう、希望を持たないとね。」


ドッペルが腹を抱えて笑っている。


そんなに俺は顔に出やすいのだろうか。


─────────────


「おーい、リンナ。」


ドッペルが手を振りながらやって来た。



「大丈夫かい?」

『理解したかい?』



同時に聞こえてぞわっとした。


つまり、ドッペルは私にこういいたいのだ。


()()()()()()()()()()()()()()()()をしろ、と。


「ええ、大丈夫よ。それより二人とも大丈夫?よく見えなかったけれど。」


「は?何言ってんだ、お前?目だけは良かったはずだろ?」


ドゴンっ、とリンナは軽くFを殴った。


「おい、軽くなんか無いぞ……?」


月が高く昇り、星が見える。

スクナメルジャはまだ空を飛んでいるだろう。


思い返せばとても忙しい一日だった。こんなにドタバタして、こんなに辛い思いをして、こんなに楽しく一日を終えたのは小さいとき以来だ。


Fが帰ってきてくれて本当に良かった。


少しはこのドッペルゲンガー擬きに感謝をした方がいいのかもしれない、そう思うリンナであった。




─────────────────


ドッペル「ちなみに、ここまでがチュートリアルです!」


F    「どういうことだ?」


ドッペル「いや、ここまで付き合ってくれた読者様にはちゃんと衝撃の事実を伝えないとと思って。」


F    「ああ、16話にしてやっとチュートリアルていう……」


作者  「うるせぇぇえええええええっ!」


リンナは何となく参加してはいけない会話だと、と本能で察したという。

こんにちは。ななるです。


本日は二話連続投稿をしてます。

現在、精神的に過呼吸です。

はうっはっはっはっうっ!


次回から新章に入ります。と、同時に童話シリーズをボチボチ投稿していきます。そちらは「フラッタの剣士」同様、別として出させていただきます。機会があれば是非そちらもよろしくお願いします!


さて、次回、「トマトケチャップの恋人」

次回があれば、またお会いしましょう!

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