D-11:しゃうと・しゃらっぷ
D-11:しゃうと・しゃらっぷ
赤狼。大きさは30~40㎝くらい。体重は10㎏くらい。四足歩行で、嗅覚が人の100倍くらい。尾が1つ。体はふさふさの黒い体毛で覆われている。足の裏には、肉球と呼ばれる足音を消すぷにぷにの部分がある。鳴き声は基本『ワンワン』で、甘えてるときなどは『クゥン』などと鳴く。立っている耳はコリコリしていて、それでいてフワフワとした毛がたまらなくキュート。
「……ま、要するに、」
Fの一通りの説明を聞いて、ドッペルはこうまとめた。
「犬?」
「犬だ。」
「強いの?」
「いいや。むしろ、大人しい。」
ええっと……
ドッペルは助けを求めるようにドルトンを見る。
「君は『大人しい犬をどうして退治しないといけないのか。』そう言いたいんだろう?」
ドルトンは困ったように笑って、こう続けた。
赤狼というのは、この地方だけの呼び方でね、他の地方では学名『イヌジヤ・ナイヨ』から『ナイヨ』と呼ばれたり、『犬』と区別なく呼ばれたり。まぁ、見た目も性格も犬とほとんど変わらないからね。当たり前といえば当たり前だ。
でも、フラッタにおいてイヌジヤ・ナイヨは絶対に犬と同じように可愛がられることはない。何故だかわかるかい?
「瞳が赤い。」
リンナが呟くようにポツンと言った。
ドルトンは説明を続ける。
そう。この町に来たばかりのドッペル君は理解が出来ないだろうが、フラッタの人間には、それは不吉の象徴。ルワーユで13という数字を嫌うのと同じようなものさ。
この町に一匹や二匹赤狼が出ることは昔からあるようだ。まぁ、今回のような数は珍しいんだけど。
私としては、そこまで昔話を信じている訳じゃないから、出来るだけ穏便に事を済ませたい。殺してしまうのは可哀想だ。それに、もしかしたら『祝福』を受けて黒い瞳になるかも知れないだろう?
ドルトンは微笑んだ。
「ちなみに、赤狼はどれくらいいるんですか?」
ドッペルが尋ねた。
「私が見たときは10匹くらいだった。今はうちの使用人たちが相手をしている。」
「援軍とかは?」
「ないよ。この町は軍を持っていないんだ。」
昔はFの一族の道場がその代わりをしていたという。
「改めて頼むよ。赤狼を出来るだけ傷つけずに町から離したい。町に巨大な檻を用意している。それに赤狼を誘導して欲しい。」
──────────────
フラッタ中心街にて。
「あれ?今日は町がいつもより静かだわ。」
リンナが辺りを見渡して言う。
確かに。リンナの屋敷に行くときは気付かなかったが、いくつか閉まっている店がある。
いくら赤狼が出たといえ、死ぬわけではない。
どうしたというのか。
「こっちだ。」
ドルトンに導かれ、先を急ぐ。
「あ。」
いた。赤狼だ。数は──わからない。少なくとも20匹はいる。その全てが震えて縮こまっていた。
「ドルトン様!」
メイド服の40代くらいの女性が駆け寄ってきた。
「申し訳ございません、私達では町の人を説得するので精一杯で。気がついたら数が増えておりまして……」
「わかった。ここまでよく頑張ってくれた。もう少しの辛抱だ。」
「ドルトンさんだ。ドルトンさんが来たぞ!」
人々が建物から顔を出す。
「「ドルトンさん!赤狼をさっさと殺してくれーっ」」
「「不吉の象徴を町から追い出せーっ」」
様々なところから罵声が飛ぶ。中には赤狼に石を投げる人もいた。そのたびにメイドが「おやめくださいっ」と甲高い声で叫び、赤狼たちが「キャンっ」と鳴く。
リンナは怒りのあまり震えていた。
何でこんな、酷いことをするのか。
好きで生まれてきたわけでは無いのに──
「「なんだお前?メイドの癖に生意気なんだよ!赤狼を殺す気が無いなら、さっさと消えろっ」」
そう言って再び石を投げようとする。
もう我慢の限界だった。
「もうやめt──」
「うるせぇぇぇぇええええええっ」
町が静に染まる。
「何もしてねぇやつが、何も知らねぇやつが、生意気言ってんじゃねえーよっ」
Fが叫ぶところなんて久しぶりに見た。でも、そうやって叫んだりしてしまったら……
町がざわつき始める。
「「おい、あれ、Fじゃねぇか?」」
「「本当だ。何しに来たんだよ、呪いの子が。」」
「「あいつが赤狼呼んだんじゃね?」」
「「道場仲間に親まで殺しといて、今度は赤狼つれてデモでも起こすつもりか?」」
「「さっさと潰せよ、汚い目。」」
「「この殺人気が。」」
「「ドルトンさーん、ついでにそいつも殺っちゃって!」」
酷い。リンナはあまりのことにめまいがした。
今は非難の目はFに向けられている。
リンナは耳を塞いでしゃがみこんだ。
ああ、ああ……これが自分だったら、もし私が──
『本当にそう思ってる?』
え?
『安心してるんじゃないの?』
それは酷く冷たい、私の声。
『私には盾があって良かった、守ってもらえて良かった、て思ってるんじゃないの?』
そんなこと無──
『あるよ。だって今も私は隠れてるだけじゃない。いや、《隠してる》の間違いね。』
そん、な、こと……
凍りついていく。心も体も。怖い。いや。いやだ。
どうして、「そんなこと無い」と言えないの?
《そんなこと無いですよ。リンナは優しい子です。》
え?
《私は知っています。困っている人を見るとリンナはすぐに誰かを助けようとすること。寂しそうな人を見ると気さくに声をかけること。悲しそうな人を見ると一緒に悲しんであげれること。》
とても温かい、懐かしい声。私はこの声を知っている。
《さあ、いつも通りのあなたに戻って。隣の人を見てください。》
Fは俯いて震えていた。
悔しそうに唇を歪まして。
《いつものあなたなら、どうするんですか?》
リンナは立ち上がった。大きく息を吸って、叫ぶ。
「うるせぇぇぇぇええええええっ」
私がFの盾になる。
だってそれが──私の罪滅ぼしになるはずだから。
こんにちは。ななるです。
ブックマークがつきました❗万歳!
ありがとうございます!
今回は何時もより長めです。切り時が難しくて……だんだんペースをあげていきたいと思ってます。(あげるとは言っていない)
さて、次回。「しゃらんらっぷ」
次回があれば、またお会いしましょう!