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あの人に死を  作者: 月見うどん
第3章 おっさん覚醒する
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97.子育て

「あっ、おじ様お邪魔しています」

「あ、ああ、いらっしゃい」

 螭と一緒に仕事に出ているはずの陽菜が何故かラウンジに居た。

 俺は赤子と幼児を連れて庭を散歩し、お腹が空いたと主張する子供たちの為に戻って来たところだった。


「螭はどうした?」

 螭の器を転移扉の鍵にしてある以上、あいつ無しでは機能しないはずなんだけどな。不具合か?

 すぐに敷地内の気配を探ったが、螭の存在は無かった。

「螭は今頃仕事に追われていると思いますよ」

 陽菜をこちらに移動した後、再び仕事に出たと考えるのが無難か。

 相手が陽菜だから別に構わないのだが、散歩に夢中で気付かなかった俺の方は失態だな。


「ソフィー、二人ともお腹が空いたってさ」

 サラは母乳、風花はお豊が用意する粥を召し上がるそうだ。

「あなたが思念で直接会話するものですから、この子たち声を出さなくなって大変なんですよ」

 声を出さずとも意思疎通できてしまうのだから便利なのだ。しかしその弊害として、子供たちは泣いたり拙い《つたない》言葉を口にしたりする機会が確実に減った。

「幼い内から声を出すようにしないと、上手く喋れなくなりそうだよな」

「そうです! だから、思念で会話するのは今後禁止です」

 風花が口にした言葉は『ぱーぱ』だけ、サラに至っては赤子なので論外だ。

 思念での会話を禁じると意思疎通は難しくなるだろう。それでも、子供たちが俺以外に思念での会話が不可能なのだと悟るまでは控えるべきだな。

「例外的な場合を除いて、思念での会話は一旦止めることにするよ」

 便利なものと云うのは、何かしらの悪影響が出る物なんだなっと。


「それで、おじ様。お子様が誕生したと伺ったのですが、そちらのお子さんは?」

 そういえば、螭は風花の存在を知らないのだった。その螭からの報告を得てやってきた陽菜も当然のように知るはずがない。

「この子も俺の娘だよ、名は風花。ソフィーが抱いているのはサラだ」

 俺もソフィーも実子と養子で区別をする気は更々ない。螭以外はだ、アレは別物なのだ。


『風花、サラ、今からこうして心で会話するのは無しだ。何かして欲しかったら、声を出すようにな』

 幼い二人の思念が伝わって来た。不安がっているが、甘やかせる訳にもいかない。

 まあ、会話をしないというだけで、その思念は一応受け取るけどな。その思念に反応を示すことはしないということだ。

 ソフィーの言葉に対する屁理屈ではなく、とりあえずの様子見をする為である。


 早速泣き出したのは、サラ。

 俺に抱っこして欲しいという思念を送ってくるが、素知らぬ振りで無視した。ソフィーと陽菜があやしているが一向に泣き止む気配はない。

 ある程度は慣れだろう。親の側からしても、子供の側からしてもだ。

 この時間に泣いたら、この行動の後に泣いたら、とお互いに学習するものだと俺は考えている。


「ぱーぱ」

 お豊に介助されて食事をしていた風花が俺を呼んだ。言葉にして呼ばれたので、素直にそちらへと向かう。

 それに反応したのは、サラである。『ズルい』『なんで?』という思念が漏れている。たくさん泣いて、発声の練習をしてもらうとしよう。

 思念が、意思が伝わってくると反応しそうになる自分をその都度戒める。この子たちの未来の為だ、今は涙を呑んで堪えるとしよう。


 呼ばれたから近寄ったが、それ以降は何もしない。俺が全てを汲み取って、望むように動くのは無しなのだ。

「ぱーぱ」

 椅子に腰掛けたまま俺へと手を伸ばすが俺は反応しない。お豊が心配そうに様子を窺っている。

『ぱーぱ』しか喋れない風花とて同じ扱いなのだ。呼ぶことは出来てもその先には進めない、それを学んでもらおうではないか。


「抱っこくらいしてあげたら良いではないですか?」

「ソフィーが思念の会話は無しと言ったのだろう?」

「そのくらいは汲んであげても良いと思うのです」

 意思を汲むという行為は、思念を読み取るのとどう違うのか……。やばいな、人間としての柔軟性が失われているのか、俺は。

 人間が本来持ちえない力を持ってしまったが為に、本来持っているべきものを失ってしまったのか。

 何たる皮肉。まあ、俺もう人間じゃ無いんだけど。


「どうしたのです? 難しい顔をして」

「今の俺には意思を汲むという行為が、思念を読み取るのと同義になってしまってな。どこまで許容すれば良いかと迷って、な」

「ほんの少し、手助けしてあげる程度で良いのではないですか」

「ふう、こんな普通のことが難しくなるとは思いもしなかったよ」

 いっその事、この子たちの思念の感知を遮断するか? しかし何かあった時、それではマズいと思うんだよな。ああ、本当に難しいわ。


「お父さんは難しく考え過ぎなんでちゅよーって、この子たちが言ってますよ」

 そんなことは一言も言っていない。いないのだが、そうなのかもしれない。

「少しだけの判断が難しいんだよ」

 未だに泣き止まないサラと黙りこくってしまった風花を、抱き上げるように宙に浮かせた。サラは途端に泣き止み、風花は目をキラキラさせ始める。

「ズルいです!」

「抱っこだけだぞ」

 俺も思念ではなく、声に出して伝えた。その意味を是非理解してほしいところだが、赤子や幼児には難しいだろうな。ほぼ無理だろう。

「ソフィーさんの気持ちは理解出来ます。おじ様、ズルいです」

 ソフィーだけでなく陽菜にまで罵られているが、無視しよう。


「アンソニーの様子でも見に行ってくるかなっと」

 アンソニーの気配は畑の辺りにある。きっと、野良仕事に精を出しているのだろう。

「泣きだしたら連れ帰ってくださいね」

「ああ、わかった」

 二人で何が楽しいのか、キャッキャと不思議な会話をしている子供たちと共に畑へと移動する。移動するのも楽しいようなので、転移はしないでおく。


「旦那様、見てください」

「育つもんなんだな?」

 温室の中には不思議と作物が育っている。正体は不明なのだが、恐らく食べれる何かだろう。

「こんな木、どこから持って来た?」

「これは奥様が買い付けていらっしゃいました。ここだけの話ですが、運ぶのと植えるのは本当に大変でした。それに上手く根付いたのは奇跡ですよ」

 これ、バナナだよな? 無茶するなぁ、ソフィーのやつ。

「大変だな、お前も。今度休暇をやるから、ゆっくりと休めよ」

 アンソニーはよくソフィーの我儘に付き合ってくれている。俺なら屁理屈こね回して却下しているようなことまでやってくれているのだ。

「それにな、無理なものは無理と言って良いんだぞ」

「何度も言いましたよ。言いましたけど、結果がこれですからね」

 無理を通して道理が通ってしまった訳か……。そうなると、次からはもっと大変だろう。

「俺からもそれとなく釘を刺しておくよ。ご苦労だったな」

「お願いします」

 涙目のアンソニー、その苦労は察してやるべきだ。


 温室を去り、円四郎一門の屋敷へと向かう。

 器での稽古に意味があるのか不明なのだが、円四郎と爽太が木刀を振っていた。

「よう! 元気だな、お前ら」

「散歩か?」

「いや、風花のお披露目にな」

「幼子が増えておるではないか!」

 だから、それを今説明しようとだな。

「ほんとうだ」

 爽太まで同じ反応かよ。

「この子は風花、サラの姉になる」

「ふむ、事情があるのだな。しかしそうなると、螭殿の妹御は二人となるのか」

「風花ちゃんもお姉ちゃんに似てるね」

 円四郎の言葉は聞き流し、爽太の台詞に反応する。

 血の繋がりは無いのだが、風花はソフィーによく似ている。

 白人だから同じように見えてしまうのかもしれないが、サラはソフィーの血が濃く北欧系、風花はロシア系なのではないだろうか。

「螭はまだ風花には会っていないのでな。帰宅したら城に顔出すよう伝えてくれ」

「承知した。陽菜殿がそちらに向かったのではないか?」

「ああ、先程までこの子たちと一緒に居たぞ」

「ならばどちらにしろ、向かうであろうよ」

 そうれもそうだな。

「じゃあ、邪魔したな」

「お兄ちゃん! 明日、料理習いに行くよ」

「待ってるよ」

 極短時間で風花のお披露目は終了した。

 宙に浮いたままお昼寝を始めたサラとくるくると周囲を眺める風花を連れ、城へと帰る。

読んでくれて、ありがとうございます。

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