77.神と従者の在り方
円四郎に従者が出来て数日経っただろうか、彼らが帰路に就くことは無く、俺の城に居候をしている。俺がサティの元で暮らしていたのと同様の状態にある。
円四郎は器を創れないので、爽太は腹の中に収めるしかない。それでも、最低限の教育は必要だとソフィーが言い出したことで滞在を許すことになってしまった。
駄目なものはダメだと言うことは出来るのだが、特に反対する必要のない事柄に関しては肯定するほかない。第一、反対する理由を訊ねられると困ってしまう。
故に彼らは今も器に入ったまま、俺の城で暮らし続けている。
一般教養に関してはソフィーが教えている。そして生徒となるのは、円四郎、爽太、アンソニー、お豊。
お豊は家事全般をアンソニーと爽太に仕込んでいるが、基本的には生徒側だ。
英会話の授業の為にラウンジの一部を翻訳の利かない空間へ変えたりもした。
これはお豊とアンソニーの意思疎通の為にどうしても必要な措置という訳でもない。地上に降りると機能しない翻訳空間だが、器に仕込んでしまえば良いのだと気付いた時には既に授業が始まっていて手遅れだった。
学びたいという欲求が存在する以上、必要ないから辞めろとも言えず、爽太を加えることで語学の授業として確立してしまうことになった。
円四郎はソフィーに算数と一般常識だけ教わり、簡単な神の力の使い方講座と称して俺が適当に教えている。しかし、俺と円四郎の神としての在り方が全く異なる為、実現には至っていない。
転移は短距離の目視転移をなんとか出来るという程度、力の弱い神なので恐らくこれが限界なのではないだろうか。
翻訳に関しては俺の方が説明に苦労するという具合で未だ出来ていない。考えてみれば、円四郎に翻訳など必要ないのだけど。
ソフィーに体育の授業はどうしますかと訊ねられたが、そもそもこの城でまともな生物はウサオくらいなもの。ソフィーは人間ではあるが摩訶不思議な生物だし、あとは器に入っている死者と神という化物しか存在しない。
体を鍛える意味は皆無で、器に慣らす程度のことしかやることは無い。
そこで円四郎に剣術指南をさせてみようということになり、参加を表明したは爽太とアンソニー。
史上最強と謳われている剣豪の指南となるので非常に興味がある。が、俺には草臥れて眠る肉体しかないので見学に留めることとなった。
俺の大事に育てた欅の木を一本切り倒し、木刀を勝手に拵えた円四郎には若干の殺意を覚えたが我慢した。うちの大事な酸素供給減になんてことを!
今では木刀を気が遠くなるほど振っている姿を眺めるのも、生活の一部となっている。
こうして、何気ない日常を送っているとやって来るのが叡智のおっさんだ。
「お前に保護してもらいたい者が居る」
相変わらず、突然に用件だけを告げてくる。
「保護ねえ」
居候の円四郎たちも保護みたいなもんだろうか。
「今回赴く世界には神は存在する」
「神が居るなら、あんたや俺が介入する意味はないだろう?」
神が居るなら、その神にやらせるべきだ。俺は便利屋ではない。
「その神を保護してほしいのだ」
「は?」
「従者たちからの要請でな、力の強い神の保護を求めている」
「意味が分からん。とりあえず、詳しい話を聞かないことにはなんともな」
従者共が主人の保護を求める? なんのこっちゃ。
「中々に興味を引かれる世界ではある」
「わかった、少し待ってくれ」
今回は動けるのが多数いるからソフィーも安心できるだろうし、念話で留守を頼むとするか。
『ソフィー、ちょっと出てくる』
『早めに帰ってきてくださいね』
『成り行き次第ではあるが、一体増えるかもしれん』
『賑やかになりますね』
『それじゃ行ってくる』
『いってらっしゃい』
「準備は整った。行けるぞ」
「では、参ろう」
目まぐるしく景色の切り替わるおっさんの転移も久しぶりだ。
転移を終え、現れ出たのはテーマパーク。しかも見覚えのある超有名なテーマパーク。
「どうなってんだ、ここ」
「ここはオリジナルの地上の一部を利用した小さな世界だ」
オリジナルってのは地球だよな、その地上に神の世界を重ねたのか? わからん。
「ってことは、大丈夫なのか? 俺が居ても」
地上に俺が居るのは、やばいだろう。
「お待ちしておりました」
「要望通り連れて来た、欲望の王をな」
「これはこれは欲望の神、しかも王とは」
俺を置き去りにして会話している。相手は従者だろうか、王を知っているということは古い神の従者なのかもしれない。
こちらへと案内されたのは、狭苦しい事務所風の建物。そこには従者らしき者が他に2名詰めていた。
「ようこそおいでくださいました、欲望の王。それと助力を感謝いたします、叡智の王よ」
従者らしき者の対応は、やたらと恭しい。
「私は其方らの要望に応えたに過ぎん、詳しい話を此奴にしてやってくれ」
「血生臭い話でなければ、助力くらいはするさ」
正直、血生臭い話はもうお腹いっぱいなのでね。
「それではご説明させていただきます。
この世界は闇淤加美神の創られた世界でございます。
この世界に人は居らず、主により創られた神の紛いものの世界となっています」
「テーマパークに神の紛い物とは、理解が及ばないのだが」
「そうです、この世界はテーマパーク。オリジナルの人間を受け入れ、泡沫の夢を授ける夢の国。
この世界を管理するのは我々と神の紛いものたちでございます」
要するにこいつらはこう言いたいのか? 世界はテーマパークで管理運営しているのは従者と創られた者達と。
「なあ、お前らの主である神はどこに行った? 俺はこの世界に神は存在すると聞いているぞ」
遠回しな説明などどうでもいいから、さっさと核心に触れてほしい。
「我らが主はこの世界を構築した後を我らに託し、紛いもの達と共に過ごしております。自らの記憶を封印し、彼らの中に紛れて暮らしているのです」
初期の教育段階でサティから好きにやれば良いとは教えられているが、まさか記憶を封じてまで、仮初の世界に溶け込んでいる神が居るなんて、な。
驚くしかない。否、違う。尊敬するわ、その発想に。
神としての存在を放棄して、この場合は少し違うが人間として暮らすなど思いもしなかった方法だ。
まあ俺がそれをやったら、ソフィーが怒り狂っていただろうけど。
「主が創りし紛いもの達は、この国の八萬の神々を模したもの。しかし彼らは気付いてしまった、異端の者の存在に。
主もまた姿を彼らのように模してはおりますが、存在自体が別物ですので迫害を受けております。主の理解が及んでいない事実が唯一の救いではありますが……」
「皮肉もいいところだろう。何故気付かれた?」
「残滓の集約を感知できる者が現れまして……」
思念や残滓の集約を感知できる者など、神くらいなもんだろ?
俺はおっさんで目で伺う。
「神はオリジナルでしか発生しない」
凡そ予想はしていたが、やはり神はオリジナルでしか生まれないのね。
「外部からの干渉と考えるのが妥当だと思われます。この世界は中からは決して出られませんが、外からは出入りが自由となっていますので」
テーマパークで外から客が来なかったら終わりだものな。
「余所の神に扇動されていると?」
俺なんか嫌々干渉しているのに、嬉々として干渉している馬鹿がいるのかよ!
「だからこそ、欲望の王であるお前が適任なのだ」
「ああ、わかった。引き受けるよ、うちで保護すれば良いのだろう?」
円四郎たちもいる。この際、一体増えたくらいでどうなるというものでもない。
それに斬新な発想で在り方を変えようとした神へ、少しだけ便宜を図ってやろうじゃないか。きっと記憶を失っても、面白い性格をしているのだろうからな。
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