67.お豊の休日
「旨い酒と飯を馳走になったこと感謝する」
深く礼をした後、円四郎は転移扉の先へと歩みを進め帰って行った。
アーリマンとゲラルドの姿なない。目当ての豆大福をゲオルグに調達させ、円四郎から肉体を回収し転移した後だ。
今日は突発的にだが、やることが増えてしまった。
お豊を休ませ、次回使用するための器について思案していたところ、重大な欠陥に気付く。
今使用させている器は、俺の肉体を模倣する形で再現している。股間に妙なものがぶら下がっている訳ではないのだが、ある意味似たようなものか。
骨格も臓器も男性のものを利用していることに遅蒔きながら気付いた。そこで生きた女性の肉体といえばソフィー、故に身体構造を調べさせてもらうことにする。
全身をスキャンするかのように精査していると、見付けてしまった。
「ソフィー、大切な話があるんだ」
「どうかなさったのですか?」
「ああ、まあ、そうだな」
俺は頭を掻きながら、どう言葉にしようか考える。
「えーとだな、まだとても小さいのだが子供が出来つつあるようだ」
まだ本当に小さい、細胞分裂の途中とでもいうような大きさ。
「まあ!」
嬉しそうに笑いながらも驚いているという器用な表情をするソフィー。
そしてこのタイミングだからこその問題が発生する。お豊をどうするべきか、と。
「そこで相談なのだが、これはお豊も呼んでは話そうか」
パントリーまで行くのが面倒なので、念話を飛ばして呼び寄せる。
「お呼びかい?」
「忙しいとこ、すまんが大事な話だ。まあ、掛けてくれ」
「豊、子供が出来たのです!」
俺がどのように話をしようかと迷っている間に、ソフィーが話を振ってしまった。
これではお豊が選ぶべき選択肢がなくなってしまう。
「本当なのかい? 良かったさ、奥様」
「ありがとう」
二人は手を取り合い、嬉しそうにはしゃいでいる。
俺は一人頭を捻るが、いい考えは一向に浮かんでこない。
「話を進めるぞ」
二人を落ち着かせ、着席させた。
「まだ何かあるのですか?」
「問題が発生した、この問題をどう解決するべきか知恵を借りたい」
「何さ?」
話を聞く姿勢になってくれたのは有り難い。
「お豊に今日付けで休暇を与えようと考えていたのだが、こうなるとどうしたものか? とな」
「あたしはまだ休まなくても平気さね」
お豊はこう答えるしか、選択の余地は無いのだろう。
「今、お前の使っている器には重大な欠陥があってな、このままという訳にもいかないんだ」
「なら、早く創り直すさ」
俺はソフィーを見る。
「まだお腹が膨れるまで暫くは掛かると思います。ですから、それまで豊には休んでもらいましょう」
お豊としてもソフィーからの言葉なら、拒否する訳にもいくまい。
「まあ、何かあれば呼び出すことになるだろう。それまではゆっくりと休んでくれ」
俺にとっても子供が出来るのは初めてのことなので不安はある。だが、お豊を休ませないという選択肢は選べないのだ。
「子供が生む時には、豊には傍に居てもらいますからね」
「そうかい、わかったさ」
「次に使う器は、極上に仕上げてやるからな」
「頼むさね、それじゃ片付けを終わらせてくるさ」
「よろしく頼む」
少し寂し気なお豊の背中を見送った。
「まだ平気だとは思うが、酒は辞めておこうか」
「はい、そうします」
「次の問題だな、俺のこの肉体の世話をどうするかだな」
「私がお世話しますよ」
「いや、まあ、そうなるんだろうが、確実に手は足らなくなるだろう?」
「それは、そうかもしれませんけど」
「どこかに良い人材はいないものか」
「従者を増やすというのは、どうでしょうか?」
従者を安易に増やしたくはない、俺の知らない秘密がまだ何かありそうな予感がする。
「まず俺に全幅の信頼を寄せてくれる者以外は受け入れ難い」
ソフィーやお豊のようなイレギュラーは、そう簡単に現れないだろうし。
「あの子は駄目ですね、身近な者の死に耐えられないでしょうから」
「そこはちゃんと理解していたんだな、お前」
「以前は冷静でなかったもので、申し訳ございませんでした」
「分かっているなら、それでいい。謝るな」
ソフィーは自身が経験しているからこそ、その辛さを理解し得るのだろうな。
俺も爽太だったか、あの子と同様に耐えられないだろう。俺の精神はとても弱い、その自覚はある。
「困りましたね」
「ああ、参ったよ」
お豊を休ませるのは決定事項だ、これは覆せない。と、なると打てる手が無い。
二人揃って頭を悩ませていると、お豊がラウンジへと戻って来た。
「旦那も奥様もどうしたさ?」
「何でもない、それより仕事は済んだのか?」
「ばっちり終わらせたさね」
「豊、しばらくの間お別れですが、ゆっくりと休んでください。戻ってきたら仕事は山積みでしょうからね」
「体を大事にしてくれさ、奥様。旦那、早くしてくれさね」
俺が声を掛ける必要も感じないな、ソフィーが全て語ってくれた。
お豊の器に分離している腕を伸ばす、表面に触れ掴むようにしてこちら側に引き込んだ。崩れ落ちそうになる器も吸収してしまう。
「無事に取り込んだ、何とか打開策を見付けないと」
「旦那様がお手伝いしてくれれば良いのです」
「お豊を戻すまで、夫婦水入らずでやっていくしかないな」
「一日中、旦那様と二人きりというのも、初めてではないですか?」
「そう云えば、そう? だな」
「新婚気分を満喫できますね」
「ソフィー、ありがとう」
俺の子を、ありがとう。
読んでくれて、ありがとうございます。




