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あの人に死を  作者: 月見うどん
第3章 おっさん覚醒する
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54.再会

 ラウンジに着くと同時にソフィーの動きが止まった。

「アンラ・マンユ…」

 有名な悪神の名だな、そういうことか。まぁどうでもいいけどな。

「旦那様、あれは良くないものです!」

「そうでもないさ、大丈夫だから付いてきなさい。それに大事な客なんだよ」

 悪という先入観が働いているのだろう。

「すまん、待たせたな。こちらに掛けてくれ、今お茶の準備をさせている」

「初めましてではないな、其方はいつか遭うたことがある顔じゃ」

「二度目ですかね、今はアーリマンでしたか」

 なんだ知り合いか?

「こんな所で懐かしい魔女っ娘に会えるとはの驚きじゃ。王よ、此奴がお主の従者かえ?」

「そうだ、そして妻でもある」

「なんと! こんなに驚いたのは何百年ぶりじゃろうの。あの魔女っ娘がのぅ」

「…確かに懐かしくもありますが、笑うのをやめなさい」

 仲が良さそうで何よりだな、紹介する必要もなさそうだ。

「良かったじゃないか、古い知り合いに会えて」

「良くありません! 悪神ですよ、旦那様」

「でも俺はこいつの上位互換らしいぞ?」

「な!」

 と発音したまま固まった、これはまた長そうだ。

「なんじゃ話しておらんかったのか?」

「あんたの正体を掴めなくてな、比較し辛いだろ対象が存在しないと」

「そういうことじゃ魔女っ娘、儂よりもお主の夫は高位の神じゃぞ」

「なんですって! どういうことですか! 旦那様!」

「だから、そのままだってば」

 俺が欲望の王と呼ばれる仕組みをソフィーに話して聞かせた、それでもソフィーは納得がいかないらしい。

 話終わるタイミングで、お豊が漸く準備を整えてやってきた。便宜上、全員分の茶を淹れさせる、勿論俺の分も。


「今日は引っ越し祝いということで、酒は無いが楽しくやろう」

「そうじゃの懐かしい魔女っ娘にも会えたしのぅ」

「くっ…」

「あたしは豊という」

「私はゲラルドと申します」

 ジジババの紹介も済んだので、スーパーのビニール袋から総菜を取り出し並べる。取り皿はお豊が積み上げている。

「ほら、ソフィーいつまでも拗ねているんじゃない。総菜の話があったのだろう?」

「なんじゃこのアジフライ、分厚くて旨いのぅ」

 こいつ、体があるのかズルいぞ!

「アジフライもそうですけど、このマグロのカマの煮付け二百円ってどういうことですか?」

「俺のお勧めのスーパーってことだよ、特に総菜がオススメの」

「なんじゃとこれで2ドルちょいじゃと云うのか!」

「和食というものは久しぶりですが、こんなに安くて美味だというのは驚きですな」

「円というのがわからないけど、安いんだろ? あたしが料理するより買った方が早いよ、旦那」

「ゲラルド、帰りに場所を教えてもらうのじゃ」

「どうせこの調子だと足りなくなるだろ、追加で買いに行って来いよ。早くしないと売り切れるぞ」

 俺はどっちにしろ食えないんだ…。

「では私と豊、ゲラルド氏で向かいましょう。行ってきます!」

「待つのじゃ儂の分体も連れて行くのじゃ、お主はどうするのじゃ?」

「俺はいいよ、行ってきな」

 騒がしい従者一行プラスαは買い出しに出掛けて行った、客を迎えたはずが2体だけになってしまった。


「しかしお主があの魔女っ娘の云っておった神じゃとはのぅ、奇縁じゃの」

「お前らが知己だというのが俺には驚きだがな」

「お主、魔女っ娘の呪いを解きたいと願っておるじゃろ?」

「あんたに話した覚えはないんだけどな」

「盗み聞きしておったからの、それにしても厄介じゃぞアレは、儂でも仕組みはさっぱり分からん」

「あんた程古い神でも分からないなんて、どんだけだよあの呪い」

「叡智の王と契約したのじゃろ? もうそれしか手は無かろうよ。それとな、サティをあまり責めんでやってくれ」

「どういう意味だ?」

「奴はの、最初の王じゃからの、色々あるのじゃよ」

「責める気はねぇよ、愚かなのは俺の方だったのだからな」

「それなら良いわ」

 そういうとアーリマンは目を細める。

「魔女っ娘が酒を手にしたぞ」

「何だと…」

「お主、体は創らんのか? 宴会を見ているだけでは辛いじゃろうに」

「俺の体は現役のがまだあるんだよ、人間のがな」

「ならば、さっさと入ってくれば良かろう」

「駄目なんだ、今の俺と肉体とでは齟齬が大きすぎて、入って直ぐに動き出すことは叶わない」

「なんじゃ、魔女っ娘以上に厄介な話じゃの」

「まぁ入って半日も昏睡した後でなら普通に動けるんだが、今度は神の力が行使し辛くなる」

「普段使い用に体を創るのも悪いことだとは思えんが、拘りがあるのならば仕方あるまいな」

「あれが滅んだら考えも変わるかもな」

 それまでは偽物の体を創る気はない。

「ん? なんじゃあれは…」

「どうした?」

「そろそろ戻るようじゃし、お楽しみじゃの」

 思わせ振りなことを言うんじゃねぇ。



 気配が城の中に戻り、ドタドタと足音が聞こえてきた。

「ただいま帰りました、旦那様」

 それぞれが戻った挨拶をする、アーリマンは分体を吸収した。

「刺身を買って来たよ、旦那」

 豊の時代はトロを食す文化がなかったから、赤身の刺身を買ってきたようだ。

 ソフィーが手にしているのは、キビナゴの刺身だ。おっさんかよ!

「お刺身にはこれです!」

 ドーンとソフィーが一升瓶がテーブルに置いた。ぐっ酒か…。

 どこから持ってきたのか、お豊がお猪口を配る。

「私はこれを」

 ゲラルドの爺は、肉じゃがと筑前煮を並べた。渋すぎるが酒に合わせるなら最高じゃないか。

「アーリマンが言っていたのは何だ? 刺身か」

「そうじゃ、どうやって食べるのじゃ」

「お豊、しょうゆの皿がと山葵はどうした?」

「ちゃんと買ってありますよ、お皿はリタに貰ったものを」

 俺以外の人数分ちゃんと配るようだ。

「旦那様もいい加減諦めて、こういった時だけは仮の肉体を創られては如何ですか?」

「妻の我儘を聞いてやるのも夫の役目じゃぞ」

「食い物に釣られて堪るか、俺の覚悟は…揺るがない」

 ちょっと揺らいだのは秘密だ。

「もう頑固なんですから、では皆さん、乾杯!」

 見ているだけでも楽しいのさ宴会は………。


「ぷはぁ、また酒が呑めるなんて思わなかったよ」

「ほぅ良い酒ですな、この刺身もまた合いますな」

 ジジババは豪快に呑んでいる。

「この刺身というのと酒がなんとも合うの」

「はぁ、煮物も美味しいですね。ほっとします」

 本当に何人だよ、ソフィー。

 いいもん、今度起きた時は浴びるほど呑んでやるんだ!

読んでくれて、ありがとうございます。

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