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あの人に死を  作者: 月見うどん
第3章 おっさん覚醒する
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47.王

 今日は先ぱいに紹介を頼んだ日だ、ソフィーには留守番を頼みたいのだが拗ねないことを祈ろう。

「ソフィー、俺ちょっと出てくるから、俺の片割れの面倒よろしくな」

「少しだけ寂しい気もしまずが、大人しく待っていますね」

 左手の指輪を気にしながら、快く引き受けてくれた。これで一安心だ。

「準備は整ったかしら?」

 これから食堂の方に顔を出そうと思っていたが、先ぱいの方からやってきてくれたようだ。

「勿論だとも、それにしても珍しいな、先ぱいの方からやってくるとはな」

「相手が相手だから待たせる訳にはいかないのよ。それじゃソフィーリア、旦那を借りていくわね」

「いてらっしゃいませ」

 先ぱいはソフィーの返事を聞くや否や、転移した。瞬間、光に包まれたかと思うと転移が終わっていた。




 肉体も無いのに背筋がゾクッとした。今まで経験したことのない感覚だ、残滓の声を大きくとても騒がしい。

「なんなんだ、ここは? どういうことだ!」

「その話は後でするわ、まず紹介しないとね」

 目の前には、精気のない男が突っ立っている。だが、それどころではない。

「こんな状態で紹介も何もないだろう」

「何を言っているの? 私は何も感じないわよ」

「ふざけるな! こんなに煩いくらい騒がしいのに、それに何だこの世界の在り様は!」

 荒廃していると云えば分かり易いだろうか、それにしたって酷すぎる。

「あなたが彼に会うことを望んだのでしょう、落ち着きなさい」

 クソッなんなんだ。


「コイツか私に用があるというのは? 随分と騒がしい奴だ」

 騒がしいのは俺じゃねぇ周りだ! あー気が散る。

「そうよ、あなたに尋ねたいことがあるそうよ」

「初めましてだな、神様」

 人じゃなくて、感情を持っているものの喋りに聞こえない。まるで、人形のようだ。

「私に尋ねたいことがあるとしても、答えが得られるかわからんぞ。私が全てを知っている訳ではないのだからな」

「本命の質問の前に、あんたは何の神なんだ?」


「其奴は叡智の神じゃ、叡智の王と云うべきじゃな」

「なんだこいつ?」

 何だか妙なのが話に介入してきた。

「…アーリマン、あなたを呼んだつもりはないのだけど」

「久しいのうサティ、儂も呼ばれた覚えはない。儂はただ儂らの王のご尊顔を拝みにきただけじゃ」

 先ぱいの知り合いか、それにサティって先ぱいの名前?

「あなた達の王ってことは、この子は……」

「其方も理解していたはずじゃ、其方等と同じような存在である以上、此奴が王であることを」


「その王とやらは、どういう意味だ?」

 訳の分からないことばかり言いやがって。

「別に儂らを統べるものという意味ではないぞ、遍く種の残滓を統べるものという意味じゃ」

 遍く種、全ての種、種、種類、種族か?

「儂等はあくまでも人の神でしかなく、人の残滓のみが集約する神じゃ。しかしお主は遍く種族の残滓が集約しておるはずじゃ」

「ああ、そういうことか、合点がいった」

 過去に跳んだ時、動物の声も捉えたからな。それに残滓との親和性が増したのか、最近は理解不能な言語の残滓は聞こえなくなっている。

「そして今の状態じゃ、お主には聞こえておろう? この壊れた世界に住むものの願いが、それは残滓などではない願いそのものじゃぞ」

「…このヤケに騒がしいのは、それか」


「待ちなさい! この子が仮に王だとしても、あなた達の王というのは…」

「其方の考えている通り、此奴も欲望の神じゃ。言うなれば、欲望の王かの。

 皮肉な話じゃな、欲望の塊とまで呼ばれる人間が、よもや欲望の神そのものになるとはの。

 それにのサティ、此奴自身も気付いておったはずじゃ」

「本当、なの?」

「あぁ、余りに滑稽な話でな、それに全てを開示する必要もないだろうとな」

 敢えて話していないことは少なからずある。

 

 話題を切り替えた方がいいな、風向きが怪しい。

「あんたは何故このタイミングで現れたんだ? 俺は結構ウロウロしてるぞ」

 素朴な疑問をぶつけてみる。

「ふむ、儂等は欲望の神じゃからの、オリジナルの世界には降りられん。余計な騒動を起こしてしまう恐れがあるからの」

「欲望の神というのは、そこに集まる残滓の量が桁違いなのよ。制御下にない残滓が勝手に作用することもあるの」

 アーリマンとかいう奴の話を先ぱいが補足する。

「他の神の世界にも、オリジナルの世界にも入れんが、今回お主はここへやってきたからの。

 この世界を構築した神は既に居らん、故にちょうど良い機会じゃったという訳じゃ」


 俺は先ぱいを睨みながら尋ねる。

「神ってのは不滅なんじゃないのか? あんた俺に隠していることが多すぎだろ」

 ここに来ただけで知らないことが溢れ出している。

「そう噛みつくでない、其奴にも秘密というものがあるのじゃよ」

 俺にも秘密はある、そう言われれば黙るしかない。

「それに儂等は総じて邪神認定されておるからの、そうそう出て来んのじゃ」

「は? それじゃ俺も邪神ってことか」

 今度は、邪神かよ。

「邪神といっても神話上や戒めとしてそういう風に人間が呼んでいるだけで、私たちに善悪はないわ」

 そのフォローは有り難いが邪神のままだな。


「で、結局のところ、あんたは俺の顔を見に来ただけか?」

「そう言うたであろう」

「場を引っ掻き回されただけの気もするが、為になる話も聞けたから良しとするか」

「ああ忘れておった、お主には儂等神の残滓も捉えられるはずじゃぞ。それではの」

 言いたいことだけ言って、消えやがった。

 神の残滓も捉えられるか、どういう意図で教えたのかね?



「妙な邪魔が入ったが、面白いものが見れたので私も良しとしよう」

 静かだから忘れてた。

「あんたに訊きたいことがあったんだ。原点回帰の術式とやらを解く方法を教えてほしい」

 俺はここへ来た本来の目的を果たすことにした。

読んでくれて、ありがとうございます。

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