32.きまぐれなおっさん
婆さんは少女が自身の後継者だと答えた、日々の勉強というのはそういうことだろうな。
少なくともあの少女が生贄とならないならそれでいいさ。
恐らくこの時代、世界中に似たような話があるのだろうな。遣る瀬ないねぇ。
あと二、三日してある程度収束が適ったなら、行くとするか。
森を散策しながら、考えた結果、木だ、樹木だな。これらの成長を目安としてイメージするとしよう。
問題は、どうやるかだ?
転移のなのか、それとも加速なのか、どちらだろうか?
俺が事故ってやってきた最大の要因は転移だから、そうだろうとは思うのだがどうだろうか?
転移ってのは言ってみれば場所の移動だ。次に加速なのだが、これも要するに時間の移動だ。ならば、大きく分類するなら同じことということだろうか?イメージのやり方次第だろう、まぁ試してみよう。
丁度良さげな、若い木も見付けてある。こんなに薄暗く、深い森なので苗では少し頼りない気がするからな。
現状に於ける俺の制御能力では、力の大小は制御できない。依って、跳躍に伴う疲労は軽減できないだろう。常に全力だ、それでも少しくらいは残せないものだろうか…。
とりあえずは、目標を二十年くらい先に設定するとしよう。あの少女が現在十歳くらいだとすれば、三十路くらいで再会出来るかもしれん。少女から熟女へとな。
あと二、三日で、どこまで回復することやら。
そうやってまた思考の渦に巻き込まれて、ただただフヨフヨ浮いていると日付が変わり夜も明けたようだ。
金髪の少女がやってくる、今日も笑顔でやってくる。
『お兄ちゃん、おはよう』
『おはよう、おチビちゃん』
『チビじゃないよー』
プーっと頬を膨らませる、リタかソフィーに似てる気がする。リタは同じ金髪ってだけだし、ソフィーに至っては目付きが違うんだけどな。
『そうか? こんなに小さいじゃないか』
頭を撫でようと手を伸ばしたが、すり抜けてしまった。学ばないな俺。
『お話して~』
いや、もうネタがないよ。
『じゃあ、俺が住んでいた国の話をしよう』
地面に簡単に世界地図を描く、そして右の端に日本を描いた。
『ここが住んでいた、生きていた国だ。だけど、勘違いするなよ、それは遥か未来の話だ。
それで、君が住んでいるのは恐らくこの辺だ…………………』
日本列島を円で囲んだり、スカンジナビア半島をぐるっと円で囲んで話してみた。
この世界はこういう形なのだと、話してみた。ネタがないからな。
『こんな形をしているの?』
可愛らしく首を傾げる少女に癒される。ロリコンじゃないよ、父性を抱いたのかもしれん。
少し知識を与え過ぎた気もしないでもないが今更だろう、関わってしまった以上どうしようもない。
『勉強って何してるんだ?』
『読み書きと計算!』
読み書きは俺にはどうしようもないな。
『計算は苦手なの、面白くないよ』
あらまぁ、苦手なのか。さて、どうするか…九九の表でもやるか? このくらい平気だろ、たぶん。
地面に九九の表をガリガリと書き込む、木の棒が勝手に動いて見えるが俺が動かしている。
『これを見てごらん。1が1つで1だ、3が5つだと15になる。わかるか?』
表の1と1の交点、3と5の交点を指し示してみる。
『じゃあ、2が4個あったら?』
少女が質問してくるので、2と4を辿りながら交点を差す。
『8個だね、おもしろーい』
面白いと興味を持てば、覚えるのも早くなるだろう。勉強は苦痛を伴わないのが一番だからな。
『紙はあるのか?書き写せれば良いのだが』
『お祖母ちゃんに聞いてくる』
少女は家に向かって走っていった。安価な製紙技術なんてあるのか、この時代。
婆さんまで小走りでやって来た。無理すんなよ。
『神様に教えてもらったの、4が6個で24なの!』
自慢げに婆さんを見ている少女、微笑ましい。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
婆さんが何か言った。切り替えよう、面倒だな。
『ありがとうございます、この子が計算をこんなに』
ああそういうことか、手を焼いていたのだろう。
仕方ない、やるか。目を瞑り集中する、イメージするのはステンレスの板、描くのは九九の表、イメージを固定化する。
『ほら、受け取れ』
三十センチ角程のステンレスのプレートに、九九の表が刻み込まれ文字は顔料で書かれている。ピカピカだ。
『このようなものを、よろしいのですか?』
婆さんは受け取った。アラビア数字が利用できるから助かった。
『対価など求めんよ、俺の質問に快く答えてくれた礼だとでも思ってくれ』
あまり表に出されても困るのだが…。
「・・・・・・・・・・・・・・」
少女が騒いでいるが見せろとでも言っているのだろう。
表に出ないことを祈ろう、ちょっと歴史に干渉してしまったかもしれない。
読んでくれて、ありがとうございます。




