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あの人に死を  作者: 月見うどん
第1章 チュートリアル
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17.神と露天風呂

 そういえば転移って俺でも出来るのだろうか?ふと、気になった。気にし出すと無性に気になり、只管(ひたすら)に気になる。


 やってみよう! 机に向かっていた視線を外し、ベッドに横たわる自分の肉体を見る。目を閉じる、その後いつも分離後に見る自身のおっさん顔をイメージする。

「俺の体を正面に捉える位置に、移動するイメージ、転移しろ俺!」

 目を開ける、失敗だ。机の前、椅子の上に浮いたままだった。もう一度やり直す、目を閉じる。

「顔が見える位置、俺の顔のイメージ、移動する、否、瞬間移動のイメージ、気が付くとそこにいる、パッ目の前に、いく」

 目を開く成功だ! でも面倒くさいな、流れるように滑らかな動作というか思考で出来ないとな。しかし、まぁ地道にやるしかないか…。


 フヨフヨ浮いたまま机の間に戻り、レポートを書き始める。

 文字を書くのも一苦労だが、鉛筆を握る必要はない。文章を紙に書くイメージをするとスラスラと書き連ねられていく。PCの音声入力よりもずっと精度がいいが、これまた非常に面倒くさい作業だ。

 今日のレポートは、日課となった『残滓』と呼ばれるものの声の内容、それと先程試した超短距離の転移実験の考察だ。

 一文字ずつ文字をイメージして、文章を構成するのはかなり辛い。大昔の文字を一文字ずつ出力するプリンタみたい、ラインプリンタやページプリンタのように一気に出力できないもんだろうか?ゆくゆくは、可能になるのだろうか…。


 そんな他愛もないことに無駄な時間を使いつつも、レポートが漸く完成した。

「今日はもういいだろう、つかれた」独り言ちて、体の中に戻りリタちゃん辺りが起こしに来るまで眠ることにした。


 人の気配がして覚醒した。眠気眼を無理やり開いて周囲を窺おうとすると、突然目の前にソフィーの顔が!

「おはようございます、起こしに来ました」

「あ、ああ、おはよう」

 吃驚した心臓が早鐘を打っている、この娘なんなんだろう凄く近いんだけど。体を起こし伸びをする、全然寝た気がしない。

「もう飯?」と尋ねると「はい恐らくは、一緒に行きましょう」と手を引かれベッドから引き摺りだされ、そのまま食堂へと歩き出す。

「タオル貰ったら、顔洗ってくるから」と言っても「一緒に行きますよ」と返される。この娘がどんな感情を抱いているのかは分かるが、その意図がわからん。謎だ。



 食堂に着くと、リタちゃんはまだ料理作った端からテーブルに並べている最中だった。

 挨拶をしてからタオルを借り裏口から中庭に出る。やっぱり付いて来たソフィー、カルガモの親子みたい。

 不得意な井戸に挑戦したが、今日もあまり水は掬えない。

 逆さに干してある洗面器ちっくな桶に水を移し替え、残りをうがい用に置いたマグに注ぐ。ただでさえ少ないのに盛大に零す、なんてことだ。顔を洗い口を濯ぐ、さっぱりした。


 食堂に戻る。もうすっかり準備の整ったテーブルには、先ぱいが座っていた。

 俺も席に着く当然のように隣にはソフィーが座る、最後にお茶を淹れた湯飲みを盆に載せたリタちゃんが座る。


「いただきます。今日は焼き鮭ですか、いいですね」

 実を言うと、朝ごはんはここに来るまで二十年以上食べてなかったんだよね。時間ギリギリまで寝ていただけなんだけどさ。

「たまにはパンを食べたいわね~、フワッフワのパンが」

 先ぱいの言葉には、朝から嫌味が滲んでいる。仕方ないじゃないか、忘れてきちゃったんだもの。

「ご主人様、次の買い出しにでもご用意しますからそう言わずに」

 リタちゃんは天使か何かなのだろう、執成してくれた。先ぱいは鼻を鳴らすが、俺は目を逸らす。ソフィーを観ると、何故だかニコニコしていた。



 食後淹れなおしたお茶をフーフーしていると、先ぱいが口を開く。

「お風呂が欲しいんだけど~」

 どの口が言う!あれだけ渋った癖に。

「言ってることが、一昨日あたりと百八十度違うんだけど?」

「だって、しょうがないじゃない。知らなかったのよ、あんなに良いものだなんて」

 頬を膨らませる先ぱい、くっずるいぞ。

「材料がないのだろう、無理じゃない…か?無理じゃないかもしれないな。下に温泉はないのか?」

「ないわ」

 即答かよ!

「構造上、マグマがないのよ」

「は? どういうこと?」


「ご主人様の創り出した世界は、平面世界故にマントルや地熱という概念が存在しないのです」

 リタちゃんが詳しく教えてくれる。それでも目を顰め首を捻る俺を見てなのか、先ぱいが引き継ぐ。

「端折ったのよ。地球の構造を丸ままコピーするには私には難しくてね、かなり構造を簡略化したのよ。ちなみにバリバリの天動説よ」

 大きな胸を自慢したいのか、胸を張る先ぱい。いや端折りすぎだろ!


「じゃあ無理だな、諦めろ」

「鉄じゃなくても、金属があれば良いんでしょ?」

「あるだけじゃ駄目だ、精錬してあって形成されてないと手の出しようがない。そもそも、火山もマントルもマグマも無いんじゃ鉱物なんて出来ないだろ、どうやって大地を作ったんだよ!」

「大まかに作って、土や石は置いたり埋めたりしたのよ」

「端折りすぎなんだよ、下の連中永遠に石器時代やるしかねぇだろ」

 先ぱいは、肩を落として泣きそうだ。言い方が悪かったかもしれない、だが余りにも短慮すぎる。



「言い過ぎた、すまん、ごめん。キッチンにある鍋とかプライパンとか使っていいか? お一人様用の小さいのなら、なんとか。

 それに神のイメージとやらでお湯沸かすことが出来れば、釜も不要なんじゃないか?」

 そんなことに使っていいのか? 神の力って。

「それよ! なんで気付かなかったのかしら私。あなたが人間の既成概念に囚われすぎなのよ!」

 なんで俺のせいにするんだよ。


「ちょっとあなた、湯船? 作って」

「ちょっちょっちょっと待て、どこにどのくらいの大きさで作るんだよ?あと材料は……」

「屋敷の前、ヤギちゃんの居る手前にしましょう。素材は石、どーんと置いておくわ」

 あれって山羊だったんだ、足が六本のヤツ。石って掘れと?

 丸投げできそうなやつはと、ぐるっと顔を見回す。

「石作れるなら、自分で作ったらどうだ?」

「そ、そうよね。いいわ作ってやろうじゃないの、ちょっと行ってくるわ」

 先ぱいは慌ただしく食堂を出て行った。

読んでくれて、ありがとうございます。

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