優しいエリーザベトちゃん
「ほ~ら、驚いた」
洋ちゃんが笑っている。
確かに驚いたが、怖くはない。全く。それは知美ちゃんも同じみたいだ、彼女は僕の横でただただ口を開けてぽかんとしていた。
「あ、」知美ちゃんがやっと声を出した。「思い出した! エリーザベト・アマーリエ・オイゲーニエって、シシィのことよね! ハプスブルク家の美しい王妃!!」
なるほどね、なんかドラキュラっていうのがいっそう怪しくなってきたわ……
「はい……私の父が王妃の大ファンなので……」
いくら大ファンといっても、苗字まで同じにすることないだろ……どんだけ好きなんだよ、てかそんなのアリなのか?
「ねぇ、ベートーベンのお墓ってしらない? 私たち、そのお墓を探してるの」
知美ちゃん、この子は今までお父さんとはぐれて泣いてたんだよ? 少しは気遣ってあげよ?
「知ってますよ! 私、生まれてからずっとこの墓場で育ってますから! 庭みたいなもんなんです」
ん? じゃあお父さんは自然とここに帰ってくるんじゃないのか? もはやここはお前の家みたいなもんなんだろ?
「よし、じゃあ案内してくれ! そうすればお父さんも見つかるだろうから!」
洋ちゃんは相変わらず張り切っている。自称ドラキュラをツアガイドにするなんて、なんて野郎だ。
「待ってればお父さん、帰ってくるんじゃ……」
僕はそう言いかけた。
「分かりました! 案内しますよ、ベートーベンのお墓に!」
まぁ、これで目標は全部達成するわけだが……
「着いてきてください!」
さっきまで泣いていたのが嘘のよう、エリザベス姫は率先してエレベータの方へと向かっていった。白いワンピースね、一応ドラキュラなんだから黒を着ようよ……
「安心して、私のお父さんはちゃんとしたドラキュラの格好してるから!」
読唇術か!? 一瞬ドキッとした。でもその言葉は洋ちゃんに向けられたものらしい。
エレベータ内、改めて見てもこいつはただの女の子だ。写真を撮って無料新聞のHeuteに送りつけたとしてもまったく記事にしてくれないだろうな。
「どこの入り口から入ってきたんですか?」
元来た道を戻りながらエリザベス様がお聞きになる。
「え、あそこの2番口からだけど」
洋ちゃんが指さしながらすっからかんと答える。ドラキュラと一緒だからだろうか、来た時より暗いのに全く怖くない。
「そうですか、どうしてお見逃しになったんでしょうね。ベートーベンのお墓は……ここです!」
右の方を指さすエリザベス女王。前を見れば入ってきた門が、右にはベートーベンのお墓が。
「洋二郎ぉお前、来るとき左側歩いててなんで気づかないんだよ!」
怒るつもりはさらさらなかったが、つい口に出してしまった。
「おいおい、あんなの見てたとしても暗くてなんだか分かるわけねぇだろ」
ごもっともです、前言を撤回させてください。
「真ん中がモーツァルト、奥左がベートーベンで右がシューベルトよ!」
ひょいひょいと指さす皇后陛下。彼女曰く、モーツァルトの墓はウィーン郊外のザンクト・アルクス墓地にあるそうで、ここにあるのはただの記念碑だそうだ。
誰が置いたか知らないが、ウィーンで一番有名なチョコレートであるモーツァルト・クーゲルが記念碑の上にぽつんとのっていた。洋ちゃんはそれを手に取り、あろうことか銀紙を剥き始めた。お願いだから食べるなよ!
一方、知美ちゃんはベートーベンの墓の前に行き、何やら祈り始める。置いてきぼりにされた僕は、その約3秒後、大声を上げることになる。




