週末に見る終末の夢
変わらない環境、変わらない日常、そして、変われない自分……
いやに思ったことはありませんか? 変えたいと思ったことは?
我々はそんなあなた方に対しての救済を行っております。
あなた方が望むならば、今までとはまるで違う日常をプレゼントしましょう。
ようこそ、ウェッドへ!
それでは、良き終末を……。
ーーー
「ーー良き終末……ねぇ」
自宅のベッドに寝転がりながら、俺、檜山 白夜は、ネット通販で届いた商品の説明文を読んでいた。
その商品の名前は『終末への切符』という、中二というかなんというか、痛さ全開のものである。商品自体は、切符のような形をした薄いプレートのネックレスとなっていた。
なんとこの商品。これを付けて土曜日に寝ると、こことは違う世界に行けるらしい。
怪しさ満点だったセールスマンらしき男に半ば押し付けられたものだが、500円という良心的(?)な値段に負け、買うことにした。
「ま、ガセでもこれなら普通にアクセサリーとして使えんこともないし、いいか」
ちょうど今日は土曜の夜。せっかくだから身に着けて眠るとしよう。
……
「ん……朝か?」
窓から入ってくる日の光を浴びて、俺は目を覚ました。
結局何も起こらなかったなぁ、そう考えてすぐ、俺はあることに気が付いた。
「……知らない天井だ。……じゃなくて!」
自分で自分にツッコミを入れながら身を起こした。
周りを見渡せば、そこはベッドとクローゼットがあるだけの簡素な部屋であった。間違いなく俺の部屋ではないだろう。
いくら苦学生の俺でも、テレビと机くらいは置いてある。
「どこだ、ここ?」
ベッドから降りようとしたとき、俺は枕もとのあるものが置いてあることに気付いた。
「スマフォ?」
そう、枕もとにはスマートフォンのような長方形型のスクリーンのついたものが置いてあったのだ。ていうかスマフォだこれ。だが、それを見てさらに俺は疑問を持った。なぜここにスマフォがあるのか、普通は自分のと思うかもしれないが俺のスマフォは悲しいかな、先日ご臨終したばかりだ。
ひとまず画面を付けてみよう、そう考え電源ボタンらしきものを押し込む。
すると、パッとスクリーンに文字が現れた。
「『ウェッドへようこそ!』……やっぱりあれの影響なのか? ……ってあれ、ネックレスどこ行った?」
俺は首にかけたはずのネックレスを見ようとしたが、その位置にネックレスは存在していなかった。疑問には思ったが、この状況で気にしても仕方がないと思い、スマフォに視線を戻した。ようこその文の下に『TAP』の文字があったので押してみると、次のような文が出てきた。
『ナビを選択してください』
その文の下に人のマークと動物のマークがあった。とりあえず人のほうを選択してみると、今度は男か女かの選択を迫られた。ひとまず戻るのマークがあったので、選択して戻り、今度は動物を選択してみると、犬、猫など、いろいろな動物のイラストとともに選択肢が出てきた。
「猫一択だな」
俺は迷わず猫のマークを選択した。犬なんかもかわいいとは思うが、やはり猫こそ至高である。
選択すると、『Loading』の文字が出てきたのでしばらく待つことにした。
しばらくたつと、プレゼントボックスのマークが出てきた。おそらくこれでナビとやらが出てくるのだろう。そのまま俺はそのマークを押した。
すると……
『初めましてマスター! 私、猫型ナビです!』
猫耳、猫しっぽを付けた銀髪少女が出てきたので、俺はすぐに、スマフォの電源を落とした。
「……何だ今の」
とりあえず、もう一度電源を付けてみた。
『初めましてマスーー』
なんかもう一度叫ぼうとしていたので電源を切った。が、今度はスマフォが勝手についた。
「なにするんですか!」
先ほどの少女が怒った顔をしながらこちらを見ていた。耳と尻尾をピンと立てながら。
「ちっ」
「まさかの舌打ち!?」
その様子につい舌打ちをしてしまった。まぁ猫を期待していたところにこの仕打ちだからな。俺は悪くない。
「つまり、ここは異世界で、あのネックレスの効果で俺はここにきていると」
『はい、そうなります』
あの後、俺はナビと名乗るこいつから、いろいろと説明された。
この世界はウェッドという名前であり、間違いなくあのネックレスの効果だということ。
元の世界で一週間過ごし、土曜の夜に寝ると、来れるということ。
この世界では科学の代わりに魔学という魔法を使うものが発展しているということ。
そしてこの世界では俺のような人はたくさんいて、冒険者というくくりになっているということ。
そんなことを教わった。
はじめはファンタジーの世界か、魔法が使えると歓喜した俺だったが、すぐに少女に、
「この世界に魔法はありますが、人はみんな魔力を持っていないため、魔法が使えません」
と言われ、がっかりさせられた。なら魔学とは? と聞くと、自然でとれる魔石を使って魔法を発動するものらしい。よくわからなかったが魔法が使えない代わりに人間が開発した、魔法の科学ということでおkということにした。
それで、俺のような冒険者はこの世界で一週間を過ごし、そのあと、ここでの記憶を一時的に消して、元の世界でまた一瞬間を過ごすらしい。
ちなみにこの世界で死んでも、向こうで死ぬようなことはなく、完全にこの世界の記憶を失うだけのようだ。
『わかってくれましたでしょうか?』
「オーケーオーケー理解した。んじゃ、これからどうすりゃいいんだ」
『そうですねぇ……この世界の冒険者の基本は、依頼をこなすことです。だから、まずはギルドにいきましょうか。着替えはそこのクローゼットにあるはずなので』
「了解」
そう言われ、クローゼットに近づいた。クローゼットの中には、長袖のシャツとズボン、革でできた胸当て、あとは長さ1m前後の剣があった。ぶっちゃけ初期装備というやつであろう。
そのまま着替えを終え、もう一度スマフォを見る。
「着替え終わったぞ」
『わかりました。それじゃ、宿から出ましょう』
「ういうい」
部屋を出て、そのまま宿からも出れば、賑やかな通りに出た。
「……で? ギルドってどこだよ?」
『あっと、そうでしたそうでした。それじゃ、画面に注目してくださいね。地図のマークがあるでしょう? それを押してください』
それを押すと、なにやら地図が表示された。
『それがマップアプリとなっております。それを見れば、現在地がわかり、検索をかければそこまでの道がわかる便利仕様となっております』
「ふーん、んじゃとりあえず、ギルドっと」
それを聞き、ギルドと打ち込み、検索ボタンを押す。
『はーい。それではギルドまでの案内を開始しますね。ちょっとまってくださいね』
「はいよ……ってうお!?」
そう言ってすぐ、手に持っていたスマフォが発光しだした。発光が終われば、目の前にはナビの少女が立っていた。大きさは小学生くらいの子供サイズ。
「それでは案内を開始しますね」
「お前……外出れたのか」
「我々ナビの基本機能です! それじゃ行きましょう!」
そのまま、俺は彼女に先導され、ギルドへと向かった。
ーーー
「つきましたよー。ここが冒険者ギルドです」
「ほいごくろーさん、んじゃさっさと中入ってみるか」
ナビの少女に礼を言い、そのままギルドへと入った。
ギルドへ入ると、そこにはいくつかのテーブル、あとカウンター、そして依頼を張り出しているのだろうボードが置いてあった。
「入ったはいいがどうすりゃいいのかね……」
「えっとですね。とりあえず受付さんのところにいきましょう」
そうだな受付に行くか。そしてだいたいこういったところの受付はきれいどころと相場が決まっている。俺はそんなちょっとした期待とともにカウンターのほうへ行くのだった。
「ーーいらっしゃい、何か御用ですか?」
「……」
男性の受付だった。まぁうん、いいさ、期待は……そんなに、してなかったよ……うん。
「えっと、依頼を受けに来たんですが……」
「あぁ、新規の方ですね。それでしたら……」
とりあえず、依頼の受け方を聞いてみたら、あそこのボードから好きな依頼を選んで、その依頼書をこっちにもってきてくれればいいと丁寧に教えてくれた。
ボードの方に行ってみると、思いのほかたくさんの依頼があった。迷いネコ探しから盗賊の確保など、いろいろある。その中から何を選ぼうかと考えていたところ、
「あ、マスターマスター、これなんかいいんじゃないですか?」
とナビの少女が一つの依頼書を指さした。
「どれどれ……? 『森の薬草をとってきてください』……か、まぁ初めてのクエストは採集がお決まりかね」
そう思い、その依頼書をボードからとり、受付にもっていく。すると先ほどの男性が対応してくれた。女性はいないのかっ! いや、まぁこの人丁寧で優しいんだけどさ?
「では、お手持ちの端末をここにあててください」
どうやらスマフォは登録証代わりらしい。スマフォを当ててみると、ブーという電子音がなり、
「申し訳ありません、どうやらそちらの設定が終わってないようです……」
と言われた。
「設定?」
「あ、そういえばプロフィールの設定をしていませんでしたね。えっとですね……」
ナビから説明を受け、プロフィール画面を出す。そこには、氏名とナビ名の二つの欄があった。案の定両方白紙である。
「そこに好きな名前を打ち込んでくださいね。別に元の名前でも構いませんよ」
「ん~……ま、それじゃちょっとつまらんな。そんじゃぁ」
少し悩み、打ち込んだ名前は『ビャクヤ』。まぁ、自分の名前の読みを変えただけだ。
「えっと、次はナビの名前だな」
「どんな名前をつけてくれるんですか?」
ナビの少女が、キラキラした目でこちらを見てくる。ふーむ、猫耳猫しっぽの銀髪少女か……。
「シロだな」
「それはどちらかというとわんこに付けるものではないのでしょうか!?」
シャラップ。お前を猫とは認めん。そのままシロと打ち込み、設定を確定させる。
「あ、あ~~」
残念そうにしているシロ。もう確定しちまったもんね。
そして再度、受付でスマフォを読み込み、薬草の採集へ繰り出すのだった……。まぁ、薬草探すだけだし、楽勝だろう。
ーーー
「見つかりませんねー……」
「……そうだな」
舐めてたわ……たかが薬草と侮ってたわ……。
RPGみたいに適当に散策してたら簡単に集まると思ったらそうはいかない。まず前提として、俺が薬草の識別ができなかった。だって、そこらの雑草と変わんねーもん。とりあえずそこらの雑草を抜いて受付にもっていったらただの雑草と言われるばかりだった。こういう時のナビだ! と思って聞いてみても、「そこまで細かいことはできません」と、バッサリ切られた。地図アプリはあるのにデータベースとかねーの?
結局10本集めなければならないのに、半日くらいずっと探してなんとか半数の5個を見つけることができた。幸い期限などはなかったので今日はもう撤収して、明日引き続き、森に入って薬草探しするか。
そういや冒険者ってことは戦ったりするのかね? 剣持ってるし……。……そんなことを考えてたら出ました、敵です。
「あ、モンスターですね」
隣を歩いていたシロが、軽く言う。
「あぁみたいだな……だけど」
俺はその軽い調子に思いっきり突っ込みたかった。なぜなら……
「なぁシロ」
「はい?」
「普通序盤の敵って、スライムとかゴブリンとか、そんなザコそうなのがでるよな?」
「まぁ、一般的にはそうなんですかね?」
「だよな? じゃあなんで……」
俺はそのモンスターを見上げながら言った。
「なんでこんなでかいクマが出てくるんだよ! どう考えてもボスクラスだろぉ!」
そう、おれが初めてエンカウントしたモンスターとは、全長5m以上はあろう大型のクマであった。
「いやぁボスかはわかりませんが、おっきいですねぇ…。あ、そうだ! スマフォの機能で分析してみましょう!」
「はい?」
シロはそういい、俺からスマフォを奪い取り、何らかの機能を使ったのだろうスマフォを、クマに向けた。
そして、カシャッという音がしたことから、おそらくカメラ機能だったのだろう。
「よしよし、これでデータベースと照合して識別が……」
「おい識別アプリあるんかい」
「ありますよー。えっと、どれどれ……」
「んだよ、だったら薬草ももっと楽に……おい、シロ?」
「……」
なぜかしばらくスマフォの画面を見つめて黙るシロ。そして無言でスマフォを渡してきた。その画面には、
『ブラッドベアー ランクD ボス』
そう書いてあった。
「ボスじゃねぇか!」
「あ、あれれーおっかしいですねー、さすがに初戦闘でボスなんて……」
「ちょい待てこれまずいだろ逃げるぞ俺はこんなのと戦いたくなんてねぇ!」
「いや待ってくださいよマスター、ここでもし勝てれば結構なお金が手に入るし、意外とこのクマ雑魚かもーー」
「グォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「ーー逃げましょうマスター! 無理です。勝てるわけがありません! って、あ! もう逃げてる!?」
何を悠長に突っ立ってんだあいつは。先手必勝。逃げるが勝ちって言葉を知らんのか
「グォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「「ワァアアアアアアアアアアアアアアアアア!」」
再度クマが吠え、二人して悲鳴を上げながら走る。ちょっと走ったところで流石に心配になって少し振り向いてみたが、そこにシロの姿はなかった。まさか一足先に逝ったかとおもったが、クマも俺を追ってきている。あいつどこ行った? そう考えていたとき、
『マスター!もっと早く!追いつかれちゃいます!』
とスマフォのほうから声が聞こえた。見ると画面にはシロが表示されていた。
「あ! てめぇ! なに一人楽してんだ! ナビなら主人のために体を張れ!」
『いやです』
「いい笑顔だな畜生!」
言い争いながら走れているあたり、俺も余裕があるのかもしれない。
「グォォオオオオ!」
「うぉおおおおおおおおこっちくんなぁああああああああああ!」
俺は叫びながら、走り続けた。
ーーー
「ん……朝か」
朝、俺はいつものように目を覚ました。目覚めた場所は当然、俺の部屋だ。知らない天井なんてことはない。
「結局何も起きなかったなこれ……」
そう思いながら俺は、ネックレスを見た。
「あれ?」
そして違和感に気付いた。
「こんな文字……書いてたっけか?」
ネックレスには、文字が刻まれていた。
『Player:Byakuya』『Navigation:Shiro』