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卒業ランナーズハイ

作者: あまね

 体育の授業で、手を抜くようになったのは、いつの頃だろうか。

 いや、そもそも、何で手を抜くようになったのか。


 思い返してみても、決定的な出来事というのは、無いけれど、足が遅いと馬鹿にされた事や、縄跳びが異様に下手だったこと、逆上がりができなかったこと、跳び箱にぶつかった事、泳ぐというよりもがくに近かったこと、サッカーでパスがだれからも来ないことなど、何かしら思い当たることをあげ続ければ、あぁ手を抜くようになっても致し方ないといえるのではないだろうか。


 それでも、真面目にやっていれば、どうにかなったのかもしれないような事だが、手を抜くという事をイツしか覚えてしまっていたのだから、人間というのは気づかずに楽なほうへと流されてしまうということであろう。


 しかし楽があれば苦しみがあるというのが、世の常であるということを今自覚している。


 もし、もう少し、真面目に体育の授業を受けていたのであれば、こんなにも苦しい思いをしない体になっていたのかもしれない。


 体育の授業でもこんなに走るということはしないのだが、私は走っている。


 そもそも走らなければいい話ではあるのだが、だれも好き好んで、すくなくとも私は、自主的に走ろうなどと思わない。


 走らなければならないのは学校行事だからである。


 卒業式当日、過去の自分を追い出すかのように、振り切るかのように、自分のクラスから校舎を駆け巡り、校門まで走っていく。

 玄関から校門まで長い一直線を在校生や先生の作る花道、いつもは遅刻通りと呼ばれるほどに長い道を駆け出していくというのが、卒業生にとって最後の学校行事である。


 手を抜こうにも抜けない、状況へと追い込まれるのが、この学校の卒業生であるということだ。


 それにしてもまぁ、若ければ、走れるというものでもないのだが、若いうちは走らないといけないのか、それとも何か、青春時代は走ってこそ美しく、輝くというのだろうか。


 若くても、走るなんて体育の授業でしかやらないし、階段の上り下りだって、息が切れそうであるというか事実、鼓動が数倍はやいと思う、普段の心拍なんて穏やかで、鼓動しているかどうかわからないというのに、自己主張が激しいとは思わなかったし、そろそろわき腹が痛み出してきた。


 この行事は去年廃止すべきだったのではないか、そうすればこんなにも走らなくてすむというものなのに。


 残るは、長い長い、遅刻通り、朝に寝坊したら確実に遅刻させるために作られたのではないかといわれる、長い長い、一直線だ。


 結局のところ、こいつは入学してから卒業するまで、嫌われものというか、障害というものだろう。

 こいつさえ、こんなに長くなければ、後数分は惰眠をむさぼれただろうと思う日がいくつもあった。

 それが、卒業の日まで、私を苦しめてくるというのは、なんというか、さすがというべきだろう。


 全速力で駆けぬけるのは、とってもとっても辛い。


 あぁ卒業するのだと、思い知らされるのはとても辛い。

 こんなにも長い一直線というのが辛い。


 もっと短ければ、辛さを忘れてしまえたのに。

 というか私は、なんで卒業式に苦しみを味わなければいけないのだろうか。


 とにもかくにも校門はすぐそこだ。

 体育を真面目に受けなかったわりには、なかなかの速度であったのではないだろうか。


 もしかしたら若さというものかもしれない。


 校門から飛び出したとたん、おかしなもので、もう少し走りたかった気もする。


 しかし、それはできないだろう。


 私は卒業したのだ。


 いつまでも走り続けられるというものではないということを最後に教わったのだ。

 そして青春時代は走ってこそ美しく輝くというものだ。


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