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12:再会と結成

「どうしても行くの?」


 美しく成長したリョカが念押しをするように、自分の長い髪の毛を右の人差し指に絡ませながら、俯き加減で俺に問いかける。

 俺は、静かに黙って頷いた。




 俺の転移した異世界は、想像していたような剣と魔法の世界じゃ無かった。


 俺が助けたリョカという幼い女の子に連れられて、と言うか、護衛をしながら辿り着いた場所は、森の中を人が住める程度に切り開いた、小さな村とも言えないような集落だった。

 人に危害を加える巨大生物から村人を守る為に、尖った杭が至る所に突き出した高い柵に囲まれて居ても、頻繁に襲ってくる巨大生物や奇っ怪な害獣に襲われる者は多かった。


「ずっと昔は、ここも森の中では無かったそうだよ」


 敢えて俺の転移する前に居た世界の言葉で言い表すのなら、村長むらおさとでも言うべき小さな集落の代表者は、俺にそう説明をした。

 何世代か前の時代には、まだここは草原だったらしい。


 それが次第に森の植物に侵食されて、今ではすっかり森の中に飲み込まれてしまったというのが、村長の説明だった。

 所々に、同じような集落が存在しているらしく、時折物々交換のために余所の集落から人がやってくる。


 だけど集落を出て移動するのは、リョカの死んだ親父のように命がけでもある。

 あの倒れていた男は、リョカの父親だった。


 母親も幼い頃に害獣の襲撃を受けて殺されているリョカは、身寄りの無い孤児となっていた。

 俺は成り行きで、俺から離れようとしないリョカの面倒を見ることになった。


 農業をする事すら困難な貧しい集落では、他人の子供を養う余裕など無いのだろう。

 想像以上に厳しい集落の生活を目の当たりにした俺は、それを咎める気にもなれなかった。


 ろくな武器も農具も無く自分の食い扶持を稼ぐのに精一杯で、それすらも満足に行かない生活の中で他人の子供の面倒を見るという事は、共倒れを意味するからだ。

 だから、俺はリョカの面倒を見ることにした。


 だけど、あくまでそれは偶然の成り行きでしかない。

 俺があそこで駆けつけなければ、あと少し後れていれば、間違い無くリョカも死んでいたはずなのだから。


 俺が助けた時から、もう3年が経過してリョカも幼い女の子から少女と呼んでも良いくらいに成長していた。

 そして俺は、集落の守人もりびととして人々の尊敬を集めていた。


 俺がこの集落に来てからは、村人の受ける被害も、集落を襲う害獣も巨大生物も激減している。

 それはそうだ、俺がすべて一撃で倒しているのだから、そんな事は当たり前だと言えるだろう。


 俺の力を持ってすれば、この世界で生き抜くことは容易い。

 狩りに出かけて、毎回確実に得物を仕留めて帰ってくるから、リョカの栄養状態も良いし、おこぼれにありつける集落の人達もそれは同様だ。


 襲われる被害が減れば、自然と人口も増えて行く。

 近隣の集落との物々交換も、俺が居れば安全に行き来出来るから、集落は村と言っても良い程に豊かになっていた。


 俺は時折村を出て、増えすぎた村人が暮らして行けるような安全な場所を探していた。

 村の若者の中にも、俺と一緒にずっと狩りをしている奴等の中から、メキメキと強くなって行く者が増えてきた。


 俺は、それぞれが勝手に自分の思惑だけでバラバラに動いていた奴等を指導して、組織化を始めていた。

 血気盛んな集落の若者たちは、俺と一緒に戦えば強くなれると信じているようで、事実メキメキと成長を見せる者も少なくない。


 村全体の利益を考えれば、力の無い村人の依頼を受けて、力の有る者が処理をするだけで、全体の効率や安全性は飛躍的に上がる。

 俺は、村人から依頼を受けて、力の有る者が成功報酬を受け取るシステムを作り上げた。


 力のある者達は、次々と村を出て未開の森を切り開き、畑を作り、農作業の護衛をして、そして狩りをした。

 普通の人ならば、無謀と言われるような危ない事をも、協力して俺たちは処理していった。


 そんな血気盛んで冒険好きな若者を集めて、俺はその指導者に就任した。

 とは言え、就任と言っても踏ん反り返っていれば良いような、そんな楽な仕事の役職では無い。


 自ら率先して人々を助け、狩りをして集落の人達の生活をを助ける者達の、象徴的な存在となったというだけだ。

 多くの人々が俺を尊敬し、冒険好きな若者の地位も生活も向上して行ったのは、必然と言って良いかもしれない。


 そんなときに、物々交換に現れた余所の集落の人から、俺は気になる話を聞いた。

 俺以外にも、集落の守人と言うような凄い力を持った見慣れぬ格好をした人間が、森から現れて人々を守っているというのだ。


 もしや、あの異世界転移でバラバラになってしまったレジスタンスの仲間ではないかと考えた俺は、その噂の人物に会いに出かける事にしたのだった。

 当然向こうにも、俺の噂は聞こえていると考えて良いだろう。


 向こうが会いに来ないのなら、俺から出向いてでも事実を確かめるべきだろうと思ったのだ。

 あまりに生活レベルも知識も違いすぎるこの世界の人達は、俺を尊敬してくれているけれど、リョカ以外に俺が心を許した相手は居ない。


 彼女を一緒に連れて行くかどうか、散々迷った結果、置いて行くことにした。

 この村にも、ずいぶんと人間離れした実力者が増えてきたから、そういう意味では置いて行く方が安心だと考えたのだ。


 だけど彼女は、俺と離れることが不安だと言う。

 兄として、そして時に親として接してきた俺も、リョカと離れる事にまったく不安が無い訳では無い。


 そんな彼女が、出かける俺に向けて投げかけた言葉が、『どうしても行くの?』だった。

 俺はすぐに帰るからと言い残して、リョカの居る村を出てきた。


 噂の聞こえてきた集落まで人の足で五日だが、俺の瞬身跳躍を使えば一日で往復も出来るはずだった。

 そして、途中の集落で害獣退治をして遅れたが、それでも翌日の昼には目的の集落へと到着した。


 その集落に居たのは、なんと中島のオッサンだった。

 俺の顔を見つけたオッサンが、嬉しそうに駆け寄ってくる。


 俺も、どういう訳か顔がにやついてくる。

 知らない土地で昔の知り合いに出会うという事は、こういう事なのだと実感した。


「悠介君か、久しぶりだな。 みんなバラバラになっちまって、あれからもう三年か?」

「ああ、まだ腕時計のカレンダーが故障して居なければ、だけどな」


 俺は、中島のオッサンの問いかけに、そう答えた。

 ソーラー蓄電式のデジタル腕時計だから、電池はまだまだ保つだろうけど、時刻を合わせる電波時計機能は動作していない。


 もっとも、日の出と共に起きて日の入りと共に寝る今の健全な生活では、時間や分単位の区分など意味をなさない。

 なにしろ、他の人間が時計を持っていないのだから、何分後とか言っても意味が無いのだ。


「どうしてるんだ? そっちも一人なのか?」

「ああ、気が付いたら森の中に居た」


「俺もだ。 いきなり化け物に襲われてな、何が何だか判らなくてビックリしたよ」

「俺は襲われている女の子を助けた縁で、村の警護みたいな事をしているよ」


 お互いに、近況報告と転移時の出来事を報告しあう。

 とにかく、俺は情報に飢えていた。


「なんにしても無事で良かった。 そっちの噂も聞いていてな、会いに行こうとは思っていた処なんだ」

「オッサンは、何をしてるんだ? やっぱり村の警護か?」


 俺たちのスキルを持ってすれば、非力な村人に対する守人としての働きが、当然のように主要な仕事になるだろう。

 と言うか、食べるために身体を動かすことしか仕事が存在していないのだから、そうなるのは必然だ。


「ああ、村の若者を引き連れて戦闘訓練をしている。 知ってるか、こっちじゃ敵をバンバン倒していると、いつの間にかゲームみたいにメキメキ強くなるんだ」


「うん、俺たちほどのレベルには程遠いけど、肉体的には生身の人間より相当強くなった奴も居るよ」


 そんな情報交換をしていると、オッサンが何か言いたそうに俺を見た。

 そして、意を決したように口を開く。


「こっちの世界には、神と呼ばれる存在も居るらしいぞ。 余所の集落から帰ってきた奴等がそんな話を聞いたそうだ」


 そんな事を言えば、俺に馬鹿にされるとでも思ったのだろう。

 案外と、オッサンも可愛い処がある。


「ああ、こっちも聞いた事がある。 なんでも光る羽を生やした白い衣装の神が空から人々を救済する為に降りてくるって古い言い伝えがあるそうだな」


 俺自身がそれを信じている訳では無いが、自分の収集した神に関する情報をオッサンに伝えた。

 互いの情報は、噂の域を超えないものでしか無かった。


 やがて、二人の話は自然と別れ別れになった仲間の事になる。

 みんな、今頃は何処でどうしているのだろうか?


「俺はさ、他のレジスタンスの仲間もきっと生きてると思うんだ。 だから、そういう強くなった奴等を纏める組織を作ろうかと思うんだ」


 オッサンが、唐突にそう言った。

 奇しくも、俺と同じ事を考えていたようだ。


「ああ、良い案だと思うよ。 実は俺もそんな事をやっているんだ。 そんなネットワークが広がって行けば、きっと仲間に俺たちが生きて此処に居ることが伝わりそうだもんな」


 オッサンは、俺の同意を得て嬉しそうに顔をクシャクシャにして、笑顔を見せた。

 俺も、笑顔をオッサンに返す。


「ああ、もうその組織の名前は決めてあるんだ、聞きたいか?」

「なんだよ、勿体ぶるなよオッサン、まさか冒険者ギルドとかいうオチじゃないだろうな」


「なんでお前、それを…… 」

「ちょっ、マジだったのかよ」


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