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01:中二病の朝

次第に明るくなって行く水平線―― 

 それをぼんやりと眺めていた俺は、部外者立ち入り禁止となっている高層ビルの屋上にある給水タンクの上に、ただ黙って腰掛けていた。


 もっとも部外者立ち入り禁止と言ったって、その部外者がこの周辺に居ればの話でしかない。

 つまり、この周辺に人の姿は無いという事だ。


 いま、この街の中心部から半径25km以内はマスコミも含めて、立ち入り禁止となっている。

 ニュース番組でアナウンサーが何度も繰り返して言っていたけど、この街には正体不明のテロ組織によって核爆弾が仕掛けらているらしかった。


 その正体不明のテロ組織というのは、俺たちの事だ。

 だけど、核爆弾なんて仕掛けてはいない。


 つまりは、一般人の目から俺たちと、俺たちを狙う奴等の事を隠しておきたいという、権力側の意向が働いているという事になる。

 それが核テロなどという、覗き見が大好きなマスコミですら近寄りたくないであろう理由がでっち上げられた裏事情だと、俺は考えている。


 だから、先週末に発令された緊急避難命令によって、俺の見渡せる範囲内に一般市民の姿は無い。

 俺の眼下に広がっているのは、大地震でも来たのか思う程に倒壊したビル群と、見渡す限りが廃墟となった崩壊寸前の市街だけだ。


 やつらの偵察部隊を潰したのが昨日の事だから、ここ一両日中に本隊が来るだろうと俺は踏んでいた。

 そして、その予感は的中したようだ。


「予想より早かったな…… 」


 そう呟きながら、億劫そうに立ち上がる俺。

 尻の汚れを、パンパンと叩いて落とした。

 奴等は、この町を破壊しただけでは物足りないらしい。


「おいおい、独りで行く気かよ?」


 後ろから、そんな声が掛けられる。

 俺はその声の主を振り向きもせずに、短く言い放った。


「暇つぶしくらいには、ちょうど良いだろ」


 俺の生死を確かめに来た奴等の偵察隊を俺が皆殺しにしたから、今度は街ごと俺たちを消し去るつもりで本体を送り込んで来たんだろう。

 元々こんな大事おおごとにするつもりは正直無かったんだが、やっちまったものは仕方が無い。


「仕方ねーな、いっちょケリでもつけに行きますか」


 ユニゾンで聞こえたその声は、俺の上から聞こえた。

 少し汚れた学生服のそいつら2人は、屋上に設置された巨大な広告看板の上で両の手をポケットに突っ込だ姿勢のまま、バランスを崩すこと無く落ち着いた姿勢で佇んでいた。


「ふ、まだ急ぐ必要はあるまい?」


 俺の隣に、いつの間にか現れたそいつが少し馬鹿にしたような言い方で、銀縁の眼鏡を右の人差し指で擦り上げながらも、視線を東の方角に向けていた。

 余裕のありそうな言い方の割に、そいつの右足が余裕無さそうに動いているのが判る。


「これは元々俺の戦争だ。 お前らを巻き込むつもりは無い」


 俺は奴らを突き放すように言った。

 だけど、あのオッサンには通用しなかったようだ。


「ガキが、後ろも見ないで先走るんじゃねーよ」

「そうそう。 ここまで来たら、みんな一蓮托生でしょ」


 偉そうに俺の事をガキと呼び捨てにするオッサンは、このビルで一番高い位置にある避雷針の上で、微塵もバランスも崩さずに立っていた。

 ヨレヨレの背広とシャツに、くたびれた緩めのネクタイが風に揺れている。


 オッサンは手入れもしていないボサボサの頭を無造作にボリボリと掻きながら、火を付けたばかりと見える紙巻きタバコを吸いもせず、ただ唇の端にぶら下げていた。


 そのオッサンに『そうそう……』と同意して見せたのは、濃緑色のブレザーを着込んだ黒髪ロングでミニスカートの女の子だ。

 中学校は違うけれど俺と同学年のあいつは、避雷針の下にある給水タンクの脇に並んでいる業務用エアコンの室外機の上で、両手をだらりとぶら下げるように下ろした姿勢でしゃがみ込んでいた。


 黙って居れば美少女なんだから、少しは自分の格好を気にして欲しいものだ。

 俺はかなり意識して、そこから目を逸らした。


「けっ、好きにしな!」


 自分以外の誰かと一緒に戦う事に馴れていない俺は、嬉しいような迷惑なような、複雑な気持ちでそう言い放つ。

 しかし、俺の言葉に対する返事を誰も発する事も無い。

 ただ、僅かな沈黙の時が流れただけだ。


 その妙な沈黙に耐えきれず、俺はつい吹き出してしまう。

 そんな俺の笑い声を聞いて、みんなが一斉に笑い出した。


 見知った誰かと同じ事を笑い合うという事は、こんなにも楽しいものだったんだなと俺は改めて知った。

 そしてその笑いの波が収まってから、俺は耐えきれずに本音を漏らした。


「ぷははっ! 1度やってみたかったんだよな、こういうの」


 それを受けて給水塔の上に居た、ロードナイトの和人が答える。

「もろに、中二病真っ盛りじゃん」


 みんな、さっきまでの深刻な顔が嘘のように、スッキリしたような笑顔になっていた。

 広告看板の上に立っていたアサシンマスターの琢磨と隼人が、茶化すように言う


「最初のセリフは、『来たか! 馬鹿な早過ぎる…… 』の方が雰囲気出るんじゃね?」


 それを切っ掛けにして、ハイパープリーストの玲奈、ビショップマスターの慎治、暗黒騎士の涼真、ソーサラーロードの遊馬、ウィザードマスターの杏華、パラディンエースの修一、銀縁眼鏡を掛けたバトルアルケミストの健成たちが、堰を切ったように一斉にしゃべり出した。

 中島のオッサンは、それを楽しげな表情で横目に見ながらも、東の方向を見据えている。


「何が、『これは俺の戦争だ』だよ、ぷげらっちょだぜ」

「そういうお前は、ノリノリで『いっちょケリでもつけに行きますか』って言ってただろ」

「ばーか、『ふ、まだ急ぐ必要はあるまい』には、流石の俺でも負けるわ!」

「違いねぇ!」

「あんたたちのノリには、さすがのあたしも着いていけないわよ!」

「男の子って、いつまでも子供よね…… 」


 ひとしきり笑いあった後、俺はマジな顔になってみんなに告げた。

 先ほどより感知している敵と思われる奴等の反応は、徐々に大きくなっている。

 俺は東の方向を向いたまま1回だけ深く息を吐いて、思い切り真面目に言った。


「お遊びはここまでだ。 みんな死ぬなよ」


 全員の顔を見なくとも、みんなが黙ってコクリと頷いたのが判る。

 俺は給水塔の上から、崩れかけた隣のビルへと跳んだ。


 それとほぼ同時に屋上に居た全員が別の場所へと移動したのが、後ろを振り返らなくても感知スキルによって判る。

 少し遅れて、俺たちの居たビルの屋上を吹っ飛ばす轟音が後ろから聞こえた。


 さすがに此処まで事態が悪化してしまえば、俺たちに対する説得とか懐柔とかの選択肢は無いようだ。

 奴等が問答無用で俺たちの命を奪いに来ている事がよく判る、躊躇も遠慮も無い攻撃だった。


 片側3車線の大通りを隔てた隣の崩れかけたビルの屋上まで、その距離およそ約80m程。

 その距離を、俺は一瞬で飛び越える。


 俺たちが先ほどまで居たビルの屋上が跡形無く吹っ飛んでしまったのは、着地の瞬間に一瞬だけ振り向いて確認した。

 俺は目標を固定されないように、瞬時に次のビルへと跳ぶ。


 このまま何もせず同じ場所に集まっていれば、それは奴等の思うつぼだ。

 たとえ勝てないまでも精一杯暴れてやるさと、俺はそう思う。


 もし普通の人間が俺たちを監視しているのならば、俺の姿が一瞬で掻き消すように消えたと錯覚しているだろう。

 そして、きっとみんなも同じように散会しているはずだ。


 俺は隣のビルから、そのまた隣のビルへと瞬間移動に近い速度で跳躍を繰り返しながら、自嘲気味に独りごちた。


「最初は、些細な事だったんだよな…… 」

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