蛮族見ゆ
「君は――」
小さな声でロベリオン第二皇子は呟いた。
「君は、その作戦が成功すると思っているのか? そもそも、恐くは無いのか?」
「恐いか恐くないかで言えば、正直恐いですね。成功するかどうかは賭けですが、分の良い賭けだと自負しております」
「どこを見て、分の良い賭けだと思ったんだ?」
「この国の戦史をひも解いても、ドラゴンで少数精鋭を敵陣の深くへ潜り込ませ、そこから敵将を討つと言った記載はどこにもありませんでした。戦場での大勢が決まった後は敵本陣へ切り込むため、他の兵士達も直接乗り込む事に対しての反感は皆無でした」
戦場で事をかまえず裏をかくように敵将を討つなど言語道断。と言われるかと思ったが、竜騎士や騎馬騎士に聞いたところ、それほど否定的な意見は無かった。
理由は、それが認められなければ伏兵や迂回攻撃もダメになるから、だそうだ。
ではなぜ今までやらなかったのか聞くと、全員が「分からない」と回答した。たぶんではあるが、危険と言う理由と言語道断と言う空気があるんだろう。
「ですが、この作戦には室内戦に慣れた人間が必要です。ロベリオン第二皇子には、皇帝陛下から近衛侍従隊を貸与願えないか聞いていただけませんか?」
近衛侍従隊は皇帝陛下の身の回りの世話をする組織であると共に、皇帝陛下を守る最後の防衛線だ。
室内戦というか、狭い場所での戦闘を得意としており、やろうと思えば野戦もできる兵士のエリートの集まりだ。その下には近衛聖騎士団が存在し、そちらは野戦専門の部隊だ。
そんな近衛侍従隊が共に来てくれれば、それだけでこの作戦の成功率は飛躍的に上がる。
「あの部隊は……たぶん、無理だろう」
「なぜです?」
「あの部隊は父皇を守る事のみに存在しており、それ以外の仕事は自分達以外の人間の仕事だと考えている。父皇が命令を下せば従うと思うが、父皇自体があまり良い顔しない上に侍従隊からも反発があるだろう」
泥臭い仕事は下部組織がやれって事かな?
でも、その侍従隊が参加すれば被害も少なくて済む。相手に人数的な大打撃を与える事は出来ないが、敵将を討つことができれば領地はガタガタになるだろう。
「とりあえず、頑張ってください」
訳=グダグダ言う前に動け。
★
まぁ、ダメだったんだけどね。代わりにロベリオン第二皇子が囲っている兵士を貸してもらったけど、室内戦に特化している兵士は当たり前だが居らず、ほとんどが野戦専門の兵士だ。
「ふはぁ~」
それにしても、兵士を集め選抜してここまで連れてくるまで凄まじく忙しかったのに、いざ事が始まると予定の流れになるまで待機となるので暇だ。
――と、暇を持て余しているとテントに竜騎士候補生が駆けこんできた。
「ロベッ、ロベール様! 大変です!」
「どうした!?」
そのただならぬ様子に俺は立ち上がり、ミナとアバスは手近に置いてあった剣を手に取りいつでも飛び出せる準備をした。
「蛮族です! 蛮族が出ました!」
「チッ」
カタン砦へ行くことになってしまった最初の理由であった蛮族が、ここへ来て再度現れたようだ。
追いかければ見えなくなり、追わなければ出てくる面倒くさい相手だ。
慌てる竜騎士候補生を落ち着かせ、ミナとアバスを引き連れてテントの外へ出た。
待機中だった竜騎士候補生や兵士達は慌ただしく動き回っており、戦場での立ち回りを理解している4、5年生はすでにドラゴンの横で待機している。
「襲われたか?」
「いえ、警邏していた仲間からの報告です」
「近くには来ていないんだな?」
「はい。遠目で視認しただけで、向こうはこちらに気付いはいなかったそうです」
良かった。蛮族がどれほど好戦的か分からないが、今蛮族と事を構える訳にはいかない。
「蛮族のテリトリーを知っている奴は居るか!」
蛮族の存在が今回の作戦でどのくらい脅威となるかしらべる為に、この辺りの――蛮族の地理に詳しい奴が居ないか聞いた。
すると、待機していた候補生から返事があった。
「はい! 5年生マジルド・ホーキンスです! 8ヶ月前に蛮族の監視任務に従事していました!」
「では、一緒に来てくれ」
「ハッ!」
新生軍の選抜試験も兼ねていると噂される(そんな事は全くない)今回の作戦のおかげで、参加している候補生は皆やる気に満ち溢れいう事を良く聞いてくれる。
おかげで話が早く進んで良い。
★
俺・アバス・マジルド・その他2人の竜騎士(候補生含む)を引き連れて、彼の言った航路を飛んだ。
ヴィリアの背には食料と、アクセサリーの類を入れたカバンを積んでいる。これを手土産に蛮族に会い、この作戦が終了するまでは手を出さないようにお願いをしに行くのだ。
アクセサリーに関しては成るべく派手な奴を選んできた。文化は違えど派手であればそれだけ見栄えがするので、アクセサリーを身につける文化が無くても受け入れてもらえる可能性があったからだ。
インベート準男爵領地のテントから飛び立つこと数時間。下に見覚えのある川が見えてきた所で、竜騎士の一人が声を上げた。
「左方向に蛮族!!」
その声につられてすぐさま見るが、竜騎士の指さす方向には何も見当たらなかった。
「何も見当たらないが、本当に居たのか!」
「はい! この辺りを単騎で飛ぶ竜騎士は今現在居ないはずです!」
「敵の竜騎士の可能性は!」
「あのシルエットを竜騎士と見間違えません!」
空を飛んでいるのだから、蛮族も竜騎士同様ドラゴンを使役しているのかと思ったが、この竜騎士が言う通りなら別の飛行生物の様だ。
一番、考えられるのはワイバーンだが……。
「なら、そちらへ向かって飛ぶ! ついてこい!」
「「「了解!!」」」
蛮族を見つけた竜騎士を先頭にして、編隊を組んだ。
そして、その見つけた場所へ着くと眼下はうっそうと木々が生い茂る山で、ドラゴンが降りられそうな場所は見当たらなかった。体の小さなワイバーンであれば、問題なく降りられる隙間は空いているが……。
「俺とアバスで蛮族に会いに行く! 他は距離を空けて空中で待機しておけ!」
俺の危険すぎる意見を聞いた竜騎士達は慌てた。
「危険すぎます!」
「蛮族は人の肉を喰らう化け物です! そもそも、その様な土産を持って行くこと自体、私は反対です!」
「作戦を邪魔する場合は皆殺しにすればいいだけです! 我ら天駆ける矢の名を高めるいい機会です!」
本気でそんなことを思っているのか、恐ろしいほど勇ましい言葉を投げ合っている。
奮起するための言葉であれば良いのだが、相手が勇ましい事を言ったのでこちらはさらに過激な言葉を言ってやろうと、若者特有の見栄がチラチラどころではないほど見えている。
「今回の作戦に参加する竜騎士は、全員が新生帝国軍天駆ける矢の幹部や上級騎士になる――なれる可能性を秘めた者だけを集めたつもりだ! 後先考える事の出来ない言葉しか出ない奴は、天駆ける矢には必要ない!!」
ヒートアップし、手に負えなくなる冷や水を被せた。俺の――いや、ロベールの親父の侯爵と言う爵位に合わせ、ロベリオン第二皇子のお気に入りと噂される俺の言葉は彼らの騒ぎを止めるだけの力があった。
それに一部を除き、貴族の三男四男が主な兵力の自軍にとって、新生軍の幹部と言う言葉は蜜の様に甘い。
現竜騎士にとっては戒めの言葉となったが、生徒に至っては多く居る竜騎士候補生の中から成績が良いと言う自負もあるが、選ばれたと言うステータスと共に幹部になれる可能性もあると言う事からすぐさま話を止めキリッとした顔つきとなった。
「ここは戦闘に来たんじゃない。危なくなったら、直ぐにでも助けを呼ぶから頼めるか?」
「「「了解しました!!」」」
活きの良い声を聞き、俺はアバスと共に蛮族が降りたと思われる山へ降りて行った。
こぐま? いえ、知らない子ですね……。
カタン砦防衛戦を囮とした、士爵邸突撃を目的とした電撃作戦中に蛮族が現れて大慌てです。
候補生の慌てようから、蛮族がどのような部族かよくわかりますw
最近思うようになったんですけど、社会人一年目の子はかなり勢いがあると言うか向こう見ずと言うか、そんな感じがします。
大学生は知らないので、この場合は高卒の子になりますが……。
私自身もアホだったので何にも言えませんが、昔はこんなんだったのかなぁと思ったりw
12月11日 文章修正しました。




