初任務?
やっと投稿できました……。
「ロベール! 君からここへ来てくれるなんて珍しいじゃないか!」
騎馬騎士本部の大将室で、ルーディーと共に書類整理しているロベリオン第二皇子は俺の姿を見ると笑顔を浮かべ全身で歓迎している事を伝えてきた。
ロベリオン第二皇子も俺と騎馬騎士本部の一部とイザコザがあった事は知っているようで、ここへ案内する兵士は近衛の様な一般兵とは違う鎧を見に付けた人間だった。
「はい。お話があり伺いました。忙しいようでしたら出直しますが?」
「いや、大丈夫だ。今は、私が扱いやすいように書類を分別しているだけだから、そろそろ休憩を入れようと思っていたんだ。……ところで、そちらは初めて見る顔だが?」
笑みを崩さないまま、俺の隣に立っている竜騎士育成学校の生徒を見て聞いてきた。
「クラスメイトのアバス・ラグランジュです。恥ずかしい話ですが、私の剣技は幼児にも劣るので身を守ってくれる仲の良い人物として一緒に来てもらいました」
俺がロベリオン第二皇子にアバスを紹介すると、アバスは緊張からか顔をひきつらせながら背を伸ばした。
「アバス・ラグランジュです。騎士爵位ラグランジュ家4男、竜騎士育成学校の一年です」
ロベリオン第二皇子の前だからか、常に落ち着いているイメージのあるアバスだが、今回に限っては声が上ずっていた。
そんなアバスの自己紹介を聞いたロベリオン第二皇子は、何かに気付いたように「おぉ!」と声を上げた。
「ラグランジュ……君は、ナークスの弟かい?」
「はっ、はい。ナークスは俺っ――私の兄で長男です」
「そうか。私と彼は同じ騎士課程の同期でな。よくその腕を競い合っていたものだ」
昔を懐かしむように遠い目をしながら笑うロベリオン皇子に、アバスはどういった反応をすればいいのか分からず、曖昧に笑うだけだった。
ひとしきり懐かしんだのか、ロベリオン第二皇子は顔を俺に向けて言った。
「君がここへ来てくれたと言う事は、あの話を受け入れてくれたと言う事で良いのかな?」
「はい。微力ではありますが、国の為であれば粉骨砕身して尽くす覚悟です」
腹に力を込めて口先だけの言葉と見破られないように言い切った。
自分に都合の良い時までは全力を出し切るつもりなので、全部が全部ウソと言う訳ではないが、人間どこでボロが出るか分からないので常に気を張っていないといけない。
「あぁ、よろしく頼む。今はバラバラだが、我々が目指す先は民を必ず幸せにできる未来と思っている。その為に私は全力を尽くす」
「ならば私も足を引っ張らないように常に全力で駆け抜ける所存です」
と、言い終わったところでロベリオン第二皇子は吹き出すように笑った。
「プッ――アハッ、アハハッ」
「ロベリオン様、いくら皇子と言えど同志となってくれる相手に対して失礼すぎますよ」
その通りだ。相手が皇子じゃなかったら無言で出て行くところだ。まぁ、相手が皇子じゃなくても日本人的思考で曖昧に笑みをこぼすだけで終わりだろうけど。
「いやっ! いやいや、申し訳ない。本当のところ、バース西山警備隊長が天駆ける矢へ来てくれると聞いたときに『あぁ、これは人身御供なんだな』と思ったんだ。竜騎士本部が君を手放したくない、ないが相手は第二と言えど皇子だから見合う人間を差し出しておこうってね。だから、本当の事を言うと来てくれないと思っていたんだ」
「いや~、申し訳ない」と緊張感が無くなり、皇子と言うよりも面接が終わった就活大学生の様な雰囲気を出しながら椅子へもたれかかった。
自分の居場所を確立するためのバース隊長だったが、ロベリオン第二皇子から見ても別段どうこう言うような事ではなく、そもそも良くやったと言った感じだった。
「あと自分勝手なお願いで申し訳ないのですが、私の下に付けて頂ける仲間は自分で選抜しても良いでしょうか?」
「……我々が選んでは不満か?」
と、俺の申し出にルーディーが咎めるではないが聞いてきた。
「私の役目は戦場に立つことではなく、何か新しい思いつきを実現する事だと自負しています。先ほども言った通り、私には誇れるほど剣の腕が無いので腕の立つ人物をあてられたとしても使いこなすことができません。であれば、私のそばに置くのは私の考えを理解し、それなりに腕の立つ人間が良いと思うのですがどうでしょうか?」
皇子に意見するなど国民どころか、国軍学校である竜騎士育成学校の生徒として褒められたことでは絶対に無いだろう。
だからこそ、俺はロベリオン第二皇子がどこまで俺の勝手を許してくれるのか調べておく必要がある。今までの話しの流れで行けば、この話はそれほど難しい事ではないはずだ。
「…………なるほど。確かに、君の言う通りだ。竜騎士と言えど、君はまだ学生であり候補生だ。幾ら戦場で君の知識が役に立つからと言って、戦場に学生を立たせては私の心証も良くないだろう」
ふむ……、とロベリオン第二皇子は両掌を合わせて、その間に鼻と口を突っ込み黙考した。
どんな事を考えているかまでは分からないが、俺がおかしな人間を連れて来た場合の回避方法でも模索しているんだろう。
何たって賢者ヒポポタマスの弟子だから、俺がロベリオン第二皇子の息のかかった人間を避ける様な事を言った=賢者の弟子が来る可能性があるとか考えているのだろう。
時間にして数十秒。、考える時間としてはかなり短い気がするが、考えても無駄だろうという考えに行きついたのかもしれない。
「分かった。ロベールが率いる人員は君が集めてくれ。ただし、入隊させる際は必ず私に報告するように」
「ありがとうございます。必ず役に立って見せます」
自分の為にもおかしな人間を入れるつもりは無いが、怪しまれないように――謀反の恐れありとか思われないように新しい人間を入れたらしっかりと報告した方がよさそうだ。
「人員について決まった所でアレだが、すでに聞いているだろうがカタン砦へは帝国軍2千が向かっている」
「はい。あの作戦開始と同時に出発したと言う話は学校でも有名ですので」
「あぁ、そうか。ならば話は早いのだが、君にも天駆ける矢の一員として作戦に参加してもらいたいんだ」
ううーん? さっき、学生を戦争に参加させるのは心証によろしくないと聞いた気がするけど……?
「あぁ、勘違いしないでくれ。参加と言っても、天駆ける矢の頭数をそろえるだけで、実際に戦闘には参加をさせるつもりは無いから」
「なるほど、実績作りと言う訳ですね」
「にべもなく言ってしまえば、そういう事だな」
歯に衣を着せぬ物言いだったが、ルーティーはおろかロベリオン第二皇子もそうだと思っているそうで全く気にしなかった。
ただし、俺の隣に座っているアバスだけは不敬に問われないかとドキドキしている顔をしていた。
「分かりました。では、その方向でお願いします」
「しかし、緊急の場合は天駆ける矢の一員として、君にも先頭に立ってもらうかもしれないからそのつもりでいてくれ」
「…………あっ、はい」
緊急の場合だからたぶん無いはずだよね?
★
「しかし、ロベールは凄いな」
「何がだよ?」
待機室からの帰り道――と言っても、建物から門へ抜ける通りでアバスは感心した様子で言ってきた。
「第二皇子を前にして、全く臆することなく話しているんだからな。俺なんて息をするのも大変だったよ」
「話せば普通の人だよ。緊張すれば相手も話しにくくなるから、適当に肩の力を抜いて話せばいいだけさ」
「皇族相手にそんな事をできるのロベールだけだ」
ふう、と先ほどまでの緊張を思い出してか、アバスは竜騎士育成学校の紋章が入った外套の前部分を大きく開けて外気を取り込んだ。
対して俺はと言うと、帽子に首巻に手袋に外套と季節は初冬と言うのに真冬バリの恰好だ。最近、一気に寒くなった気がする。
「これがますます寒くなる前に決着を付けたい所だろうけど、実際はどうなるだろうな」
「カタン砦自体は皇都よりももっと南になるから、雪が積もったから一旦終わりって事にもならないし、収穫ももう終わっているから農兵から不満が出る事も無いだろうしな」
今回、カタン砦防衛に向かった兵2千の内一千が農民だ。この国でも日本や他の国と同じように農民がアルバイトの様な感じで兵役についている。
大体戦争を終わらせる理由として多いのは勝敗が決した時か、種まき・収穫期と言った本業に支障が出た時が主で、今回の様に収穫が終わってかつ農作物が育たない冬に雪が降らない地方での戦争と言うのは、金が少しでも欲しい農民にとっては格好の働き口なのだ。
だから下手をすれば戦火は拡大し、そうなれば兵や食料の補充が遠い帝国側が不利になるだろう。
「手っ取り早く終わらせる良い方法は無いものか……」
誰に言うでもないアバスの呟きは北風にさらわれ、寒空に消えた。寒い日は鍋にかぎる。生野菜が無くなるまえに、みんなで一度鍋パーティーをするのも良いかもしれない。
「あれっ? ロン君?」
「?」
呼ばれた方を見ると、そこにはクリント幼少訓練場で先輩面をしてくるルティスがいた。
居たと言ってもルティスは騎馬騎士本部が入っている待機室の門で、門兵と何かを話している時に俺を見かけた形となっている。
「知り合いか?」
門兵に別れを告げてこちらへやって来るルティスを見たアバスが俺に聞いてきた。
あの日から忙しくなってしまったので訓練場に行くことができず、ルティスと会う事も無かったのだがよく俺の事を覚えていたもんだ。
ってか、髪の色を変えて服装を変えただけだから見る人が見れば分かるのか。
あの騒動の後でも何かと会う事になったミルクちゃんは俺の正体を知っているが、ルティスは知らないはずだ。
「いや、知らない奴だ」
だから俺は他人のフリをした。説明するのも面倒くさいし、何より今は何かと忙しい時期なのでルティスが面倒事に巻き込まれるのも避けたかった。
「ねぇねぇ、こんな所で何やってるの?」
「悪いが人違いだ」
「え~っ? でも、ロン君でしょ?」
「――」
人違いだと言う俺に対し食い下がろうとするルティスにアバスが口を出そうと前へ出ると、俺へ触れようとしていたルティスの手を掴む手があった。
「この方は、その汚らわしい手で触れて良いような方ではありませんわよ?」
その掴む手の持ち主を見ると、声色は平たんで落ち着いているが、その目は虫かゴミを見るように蔑んだ冷たさを孕んでいた。
背丈はルティスの方が若干高いが、その貴族然とした態度にルティスは怯えたように「ヒッ」と小さな悲鳴を上げて後ずさった。
それと共に俺へ助けを求める様な視線を送ってきたが、あくまで知り合いではない事を貫く為にミシュベルを見た。
「ありがとう、ミシュベル。どうしようかと迷っていたところだ」
「この程度でロベール様のお役に立てるのなら」
口調は堅苦しいが顔はへにょんと垂れ下がっている。凄い残念な顔になっているのが残念だ。
「あっ、あのあの、ごっめんな……さい……あの……」
貴族然としたミシュベルを見たことで俺の服装まで目が行くようになったのか、豪奢ではないが仕立ての良い学校の外套に視線をやったルティスは目を見開き、同時に自分がどんな人間に声をかけてしまったのか理解したことで足が目に見えてガクガクと震えだした。
「もっ、申し訳……んぐっ……ありまぜッん……」
謝るルティスの顔は青を通り越して白くなり、目に溜めた涙はすぐに流れ出した。
嗜虐心をそそるその姿に変態であれば喜ぶだろうけど、ここで平民を苛めて喜ぶのは一人もいない。……ミシュベルは見下すだけで苛める奴じゃないしね。
「構わん。人は誰しも間違う。ところで、そのロンと言う奴は俺に良く似ているのか?」
同一人物なので、ほぼ瓜二つと言っていいが何とルティスは頭を振った。
「よっ、良く見たら、ロン君の方が――かかっ、かっこ悪いし、背も低いし、馬鹿だし……」
同一人物だと言うのに、酷い言われ様だ。早くこの場から離れたいから俺をサゲるのは分かるが、そこまで言わなくてもいいんじゃないのか?
と、思っていたけど、次の言葉で保身では無い事が分かった。
「だから、あの……ロン君は関係ないから――私が悪いだけだから……その……あの……」
俺がロンと言う人物と間違えられたので、怒りの矛先がルティスの知っているロンへ向かないために間違えた自分だけが悪いと言い張るルティス。
う~ん……、俺の知っているルティスと違う気がする
「ほう? 俺と似ているくせに馬鹿なのか? けしからんな。ちょっとそいつに会ってみるか」
「ダッ、ダメ!」
歩き出そうとした俺に発した、ルティスの叫びにも似た制止の声に驚いて躓いてしまった。
「悪いの私です! ロン君は関係ないから、罰は私にお願いします」
ガチガチと歯の根の噛み合わない口で何とか声を発し、両手の甲を差し出してきた。
俺が奴隷として過ごしていた田舎の方は、何か失敗すると拳が飛んできたがこういった町の方では何か失敗すると手の甲を叩かれる。酷い時は鞭などを使うのだが、ルティスも例にもれず手の甲を差し出してきたのはそういう教育のためだろう。
「すまん、すまん。冗談だ。俺は間違えられたことを本当に気にしていないから、お前ももう気にするな」
って、貴族に言われも平民のルティスは心休まらないと思うけどな。とりあえずミシュベルが、どこから出したのか鞭を持っていたのですぐに止めた。
「ところで、お前は何しに騎馬騎士本部に来たんだ?」
「あっ――あの、お兄ちゃんが……いつ帰ってくるのか聞きたくて……」
まだ俺との会話に慣れないみたいで、ところどころつっかえつっかえであるがここへ来た理由を話した。
ルティスの兄は撤退作戦の時に武功を上げて百人隊長になったと言う猛者だ。そんな奴だから、カタン砦の防衛任務に狩り出されているのだろう。
「部隊はこの間、出たばかりだから当分は戻って来れないだろう」
「ううん――ちっ、違います。お兄ちゃんは出て行くときに『砦を守る』って言っていたから……」
カタン砦に従事している兵士か……。あそこの砦は結構損耗率が高そうだから、ルティスの兄と言えども危ないかもしれない……。
「お前の兄貴は、何と言う名前だ?」
「エクルースって言う名前です」
カタン砦だけではなく、この間の投下作戦でもよく聞いた名前だ。あの砦の大将を務めていた兵士が、まさかのルティスの兄だとは思わなかった。
「お仕事だって言うのは分かってるけど、冬になっても一緒に行った人たちも戻ってこないし、町はこんな事になっちゃうし……凄く心配で……」
貴族に対しての恐怖ではなく、身内を心配しての涙声になってしまったルティス。しかし、今から数日前の話になってしまうが、安心させるためにエクルースの話でもしてやろうか。
「あぁ、お前の兄がエクルースか」
「お兄ちゃんのこと知ってるの!?」
「ついこの間、話したばかりだからな。心配要らない。元気でやってたよ」
そうは言われても、エクルースは戦場に居るのだから身内としては口先だけの励ましにしか聞こえないだろう。
それでも多少は心が軽くなったのか、ルティスの声が涙声よりもやや軽くなった。
「あの、お兄ちゃんはいつころ帰って来れそうですか……?」
「それは、俺にも分からんな。でも、お前の兄が居る砦を守るために皇帝陛下は兵を送った。脅威がなくなれば兵の入れ替えで、近いうちにお前の兄も戻ってくるだろう」
盛大ではないが出兵するのを市民も見ている。だから俺の言った事は嘘ではない。
ただそれがどれだけかかるのか分からないだけだ。
「そっか。そうだよね。お兄ちゃんも頑張っているんだから、私も頑張らないと」
自らを奮起させるように腕に力を入れると、ルティスは「お兄ちゃんの事を教えてくださり、ありがとうございます」とお礼を言って元気よく去って行った。
最後の最後で笑顔になってくれてよかったよ。ところで――。
「なぁ、アバスよ」
「ん? 何だ?」
「カタン砦を取り囲んでいる敵兵を一掃したら、恰好良いとは思わんかね?」
「何する気だよ?」
作戦に参加する際、ロベリオン第二皇子が言ったように天駆ける矢の頭数揃えで高みの見物を決め込もうと思っていたがちょっと予定変更しようと思う。
「戦争の基本は、相手の兵を削り切るか、その兵を操る大元を倒せば良いんだろ? 簡単じゃないか」
「どこをどう見れば、それが簡単になるんだ……?」
何を言っているんだ、と言いたげな顔でこちらを見るアバスを余所に、俺の意識はすでに今後の作戦の概要を考えていた。
まずは参加してくれる奴らを急いで探さないとな。
作戦に参加しなくてもいいと言われたのに、やっぱ参加しようかな~(チラッチラッ
な主人公。
数がものを言うこの世界で、電撃作戦とはいったいなんなのか……。
魔法で雷を撃つのも良いかもしれないw
12月2日 誤字修正しました。
12月11日 誤字修正しました。
1月27日 電撃戦を書き換えました。本当に電撃戦とはなんだったのか……。




