部隊人員
昼休みが終わってしまったアムニットはそのまま学校へ行ってしまった。
俺はそのまま特別休暇なので寮の部屋に戻るわけだが、あの粛清の嵐のせいで気分が悪い。気持ち悪いとかではなく、胸糞悪い方の気持ち悪さだ。
ロベリオン第二皇子は正しい事をやっている。国家の重鎮が守るべき国家を裏切ったのだから処刑されるべきだ。
その後ろに控えている処刑者たちの家族も、復讐と言う観点から見れば仕方のない事かもしれない。
人道的に考えれば犯罪者とその身内は関係ないのだが、分かりやすい敵をつくり処罰しなければ国民に理解が得られず、また分かり易い恐怖の対象が無ければ統率がとれない。
今まで12年間過ごしてきた世界だが、過激すぎてやっぱり怖いな。
「…………」
自室の前にやって来ると、変なオブジェが居た。顔はグロッキーで、昭和時代の廊下に立たされた悪ガキの様に両手に大きな荷物を持っていた。
「何やってんだよアバス……」
「ろっ、ロベール……。早く部屋を開けてくれ」
「おぉ……」
ドラ○エに毛が生えたくらいの簡単な鍵でドアを開けると、荷物を両手いっぱいに持ったアバスがなだれ込むように入ってきた。
そのままベッドまで進むと、両手の荷物を下ろす――と言うか、崩れると言った形容がぴったりな感じで倒れ込んだ。
「おぉ痛ぇ……。腕が痙攣してるな……」
腕をマッサージしながらアバスは呟いた。体格が良いので、あれだけ多くの荷物を持っていても別に大変そうに見えないのは良いことなのか悪い事なのか。
「そんで、この荷物はなんだよ?」
「知らん。俺が部屋に来たら先輩とか同級生に渡された」
「誰?」
「見たことはあるけど話したことは無い人達だったから、俺も詳しくは分からん」
答えられる質問であれば快活に答えるアバスなので、この荷物を持ってきた先輩や同級生とやらは本当に知らないようだ。
「その人たちは何か言ってなかった?」
「よろしくと言っといてくれと言われたけど、何をよろしくかは中の手紙を読んでくれ」
「おう」
適当に荷物を開けて中身を見ると、高級そうな毛皮のコートが入っていた。これから寒い時期に入るので重宝しそうだが、生憎と俺は毛皮のコートは苦手なんだよな。それが柔らかくても毛がワサワサしている感じが苦手だ。
そして、アバスが言っていた手紙を読んだ。
「…………すげぇな」
手紙の送り主は4年生だった。手紙には、ロベリオン第二皇子が創設する新軍に幹部として行く俺の部下にしてくれと言った内容が書かれていた。
他の荷物もプレゼントの品は様々だったが、書かれている内容は全部同じだった。
昨日打診があったと言うのに早すぎだろ……。
「これを持ってきたのはいつごろだ?」
「昼だ。お前がアムニットと出かけている時にロベリオン第二皇子が来られてたんだが、生憎とお前は居なかったのでお帰りになった。その後にプレゼントを持った人たちが殺到してな。今に至るわけだ」
「それで、何でお前が荷物持ちになってんだよ」
アバスの部屋は俺の部屋から二部屋空けた隣だ。仲が良いって事を知っていれば、居ない俺の代わりにプレゼントを預けるのも分かるが、それなら自室に置いておけばいい。
わざわざ俺の部屋の前に立っておく必要はないはずだ。
「先輩から、ロベールが帰ってきたらすぐに渡してくれと言われたんだ」
「別に部屋に置いといて、俺が帰ってきたらその事を言ってくれればいいだろ?」
「その先輩は伯爵家だ」
「なるほど」
騎馬騎士出身のアバスにとって伯爵家となれば恐ろしい相手だろう。その下に位置するミシュベルにだって、初めの頃は唯々諾々と従っていたんだから。まぁ、今もあまり変わらないか。
「初めは20分に一度見に来ていたから、俺も帰るに帰れなかったんだ。そうこうしている内にプレゼントの量は増えて行き、最終的には動けば崩れるほどの山になった」
俺へのプレゼントを受け取る専用の人とでも思ったのか、色々な人がアバスにプレゼントを乗せて行く図がすぐに思い浮かんだ。
アバスもアバスで律儀過ぎる。一年の候補生はそうでも無いが、卒業まであと一年と迫った4年生が授業中にフラフラするはずがない。内申に響くからな。
「それで、その先輩諸氏が言っていた事は本当なのか?」
「ん? あぁ、ロベリオン第二皇子に新軍に誘われたって話しか?」
「あぁ。騎馬騎士本部の大将になると同時に新軍の立ち上げ。傍から見れば騎馬騎士本部の下部組織の様にしか見えない所にお前が行くって言う話だったから、俺にはどうも違和感を感じてな」
アバスが言うのは、騎馬騎士のアイツとカチ合うんじゃないかと言う心配だろう。あとは、感情的な部分の事くらいか。
「建前としては、騎馬騎士本部は関係ない。本気でもう一柱軍を創設するつもりらしいからそこん所は大丈夫だろう。それに、竜騎士の質が下がらないようにバース隊長にも一緒に来てもらえないか打診しておいた」
「おぉ……あれは、本当だったのか」
「あれ?」
「午前中にバース隊長と隊長を慕う竜騎士26名がカショール大将と面会を求めたらしい。初めはカタン砦防衛の竜騎士の位置確認かと思ったが、出てきた全員が紋章を外していたからな」
よっし! やっぱりバース隊長は動いてくれた!
これで、俺が組み込まれる竜騎士部隊が、騎馬騎士本部が所有している良くわからん竜騎士とは別な物になってくれるだろう。
「おい、全員が紋章を外したんだぞ? お前、そんなことまでさせたのか?」
「えっ? 紋章って何?」
「おい、知らないとかちゃんと授業受けてたのかよ……」
知らないといけない事の様だ。しかし、紋章何て俺の飛行服には付いていないし、勲章とかそう言った分類のものなのだろうか?
「勲章みたいな物か?」
その言葉に、アバスはとても残念そうな顔で俺の事を見たあと溜め息を吐いた。
「勲章は個人の功績に対して皇帝陛下より授与される物で、紋章とは個人や部隊が存在しても良いと言う皇帝陛下からの許可証の様な物だ。それを外すって事は、無い者として扱われるって事だ」
「って事は、その紋章を外したバース隊長とその他の人達は……?」
「今までの勲功全てを投げ捨てて、今は新米竜騎士よりも下に位置する補欠の様な扱いになった。どこかの竜騎士部隊に編入したとしても、また一からの積み直しだ」
それを聞いた瞬間、全身の毛穴が開き気持ちのドロリとした悪い汗が噴き出したのを感じだ。
一緒に来てくれれば儲けものだ。騎馬騎士本部に存在するおかしな竜騎士を押し付けられないようにするためのバース隊長だったが、そんな風に軽く考えられなくなってきた。
もちろん、バース隊長にも考えがあっての事だろうが、新生軍天駆ける矢できちんとした役職に就けるようにロベリオン第二皇子にかけあっておかないといけない。
「それで、他には誰を連れて行くんだ?」
「誰?」
「ほら、他にも色々と居るんじゃないのか?」
他にって……いやいや、そんな人は居ないぞ……?
「いや、別に……ハッ!?」
目の前のアバスが、アルカイックスマイルを浮かべながら俺を見ている。
これは、俺も一緒に天駆ける矢に行くぞと言う顔なのか!?
「あっ、あ~っと……アバスも何か役職が要る……とか?」
「そんな些細なもん要らん!」
「えーーー!?」
その些細な物を得ようと、俺やアバスの先輩方はこうして覚えを良くしようとプレゼントを持ってきているのに、それを些細と言いますか!
それとも、騎士貴族の4男は武功を重んじ、役職よりも新生軍で成り上がりを考えているのだろうか?
「俺はロベールと短くない付き合いをしていると思ったが、そんな事は無かったのかもしれないな」
「そうは言っても、実質こうやって話すようになったのは最近だよな?」
「だからと言って、俺が役職目当てにお前と付き合っていると思われるのが心外と言っているんだ」
「じゃあ、何なんだよ?」
「役職は要らないから、お前が行くであろう部隊の一員にしてくれ。必ず役に立つ」
「おっ、おう」
受けた恩は必ず返す男アバスってか?
正直な話、マシューと同じことをやっただけでここまでしてくれるとは思わなかった。蒔いた種が芽を出した瞬間と言えるが、彼に関してはそう評すのは違う気がするな。
「学生がどういった扱いになるか分からんけど、ロベリオン第二皇子にはかけあっておく」
「あぁ、今はそれでいい。お前の仕事の邪魔になりたくないから、無理はしなくていいからな」
「あぁ、別にそこまで無理するつもりはないさ」
社畜はもう勘弁だ。無理して体壊すなんて下の下策だからな。
「ちなみに、アムニットもお前の部隊に入りたがっていたぞ」
「マジか」
見世物広場ではそんなことおくびも見せなかったが、アバスの話によればどうやらアムニットもそうらしい。
さて、ロベリオン第二皇子に話を通しておかないとな。
冬が来る前に、カタン砦をどうにかしなければいけないし。
こういった話って、絶対にどこかから漏れるんですよね。
今回は、貴族の次男とか三男がプレゼントを持って主人公に「仲間に入れてくれ」と言いに来ました。
それは、役職をもらえれば親の扶養から外れてもなんとかなるからで、アバスの場合はただの兵士でもOKだから、俺も連れて行けと言っています。重い人ですw
次回更新は来週になります。一週間ほど空きますが、理由は活動報告をお読みください。
12月11日 誤字修正しました。




