お披露目会
新大将及び幹部たちのお披露目会の会場は、大将が皇族と言う事からか皇城の会食場を使っての物だった。
初めて入るところだったのでどれほど広く豪華なのかとワクワクしたが、今回は人数も少なかったので第四会場と言う小さな会食場だった。
それでも天井には花の絵が所狭しと描き込まれ、壁は虹色に輝く何かがはめ込まれており、調度品には磨かれた大理石の花瓶置きに彩色鮮やかな花瓶が置かれている。そう言った作品なのか、花は入れられていなかった。
「ここへ来て、やっとお前は浮かなくなったな」
気味の悪い服を着たちんちくりんな俺の姿を見て噴き出しそうになっていたバース隊長は、会食場に入るなりそんなことを言った。
確かにこの派手とまでは行かないがそれなりに煌びやか部屋に入れば、俺の気色悪い服装もなりを潜めている気がする。ただし着ている人間はHP削られ続けるけどな。
「とりあえず、話を振られたら服のお礼は必ず言っておけ。第二皇子は新しい物を取り入れるのが好きな方で、周りから余り賛同を得られない為、お前に声をかけて来たんだろう。だから、その服も新しい事を強調して褒めるんだ」
「分かったな?」と再度確認してくるバース隊長に、俺は静かに答えた。
投下作戦を進言してからリッツハークとフィーノが手伝いで俺の周りにいつも居たけど、この様な重要な場に呼ばれるほどの地位ではないらしく、こういった場に明るくない俺の為にバース隊長が説明役として名乗りを上げてくれた。
これはカショール大将も賛同したもので、内容は蛮族並の事をやってきたロベールがヘマをしないように御目付け役としての動きだと思う。
現に俺の服装を見たバース隊長は、執事に持たせていた子供用の服に急いで着替えさせようとしたくらいだからな。
★
会食時の席順で上座にロベリオン皇子が座るのは当たり前として、下座に騎馬騎士本部の副将を座らせたのには驚いた。
竜騎士への配慮と言うには大きすぎる配慮に驚いたが、これだけあからさまと言っては何だが、この様な席順なら竜騎士本部を蔑ろにしないと言ったパフォーマンスとしては十分だろう。
それと共に騎馬騎士本部の幹部達がスパイをやっていた事のバッシング逃れな気がしないでもない。だけど、この動きは新生騎馬騎士本部という存在をアピールするには良いんだろう。
そんでもって俺の席。騎馬騎士本部の副将の隣と思いきや――。
「ロベール君。私の贈り物は気に入っていただけたかな?」
俺のすぐ隣にはロベリオン第二皇子と呼ばれる人物が座っている。二十代前半――大学生くらいの年齢らしいが彫りの深い顔立ちなので、ふけていると言うのには違う大人の雰囲気を出している。クセっ毛の金髪が何とも印象的な好青年だった。
「はい。クラスメイトからも羨ましがられる一品で、恥ずかしながら自慢してしまうほどでした」
「そうか。やはり君は新しい物事に敏感なようだね。私の周りにはそういった事に酷く臆病で、それは悪い事ではないが新しい物も取り入れて行かないと国は前へ進むことができないからな」
クラスメイトから羨ましがられるとは言っても、それはただのおべっか使いの言葉だ。それか皇族からのプレゼントと言う事で中身を見ずに言ったか。この服を本気で良いものだと言える人が居たら、これのどこが良いのか一晩使って聞き出したいくらいだ。ただしグラニエは除く。
適当な事を言っただけだけど、ロベリオン第二皇子は満足そうに頷いて他の人達と話しはじめた。
まっ、そんなもんだろう。俺が皇子の隣に座っているのは、「功労者であれば学生でもこんな事をします」と言うただの見世物としての席順なんだろう。
会食は滞りなく進み、顔合わせから今後の組織と方向性の説明、そして当分の間は裏切り者の粛清に忙しいから、その分の負担を竜騎士本部に回してしまうが申し訳ないと言った話で終わった。
料理は美味かった気がするけど、内容のせいで何とも味気ない物になってしまった。
「ところで、ロベール君は今夜暇かな?」
「はい。特にこれと言った用事はありませんが?」
「そうか。では、今夜は家に来たまへ。君とは深く語り合いたいと思っていたんだ」
「…………うほっ?」
ケツの穴に十円玉を挟んで行った方が良いのだろうか……?
★
さすがにアフターまで気色悪い服を着る気は無いので、バース隊長から内着だけを借りてロベリオン第二皇子に指定された屋敷へ向かった。
竜騎士育成学校の寮から皇城と同じように、ここへもグラニエが操車する馬車で連れてきてもらった。
新しい物好きと言うのは本当らしく、調度品が新進気鋭のデザイナー(笑)がデザインしたような物で溢れていた。
しかし、その中でも数品だが光る物を見つけた。クラインの壺みたいな形の壺で、鮮やかな朱で染め上げられているのが良い。
「何か気に入った物があったのかい?」
俺が調度品を適当に見ていると、会食時の畏まった格好とは違うゆったりとした服に着替えたロベリオン第二皇子が部屋に入ってきた。
その後ろにもう一人着いていて、そっちは会食時には居ない人間だった。
「目に鮮やかな物から考えさせられる物まで多くあり、その一つ一つを手に取って眺めてみたいと思える作品がたくさんある事に大変驚きました」
もちろん枕詞に、サイケデリックや意味が分からんと言った言葉が付くけどな。
美術品と呼べる物を最後に見たのは、高校生の時のデートくらいの俺のコメントにロベリオン第二皇子は気を悪くした風も無く座るように勧めてきた。
「食後のデザートも用意したんだ」
「入れ」とロベリオン第二皇子がドアに向かって声をかけると、音も無くメイド達が入室してきた。その手にはお茶のセットと、別の皿には細長い砂糖をまぶしたお菓子があった。
メイド達はそれらを置くと、すぐに部屋から出て行ってしまった。
「これも最近、皇都で発明された新しいお菓子だ。良かったら君の感想を聞かせてほしい」
砂糖はとても高級品だ。そんな高級品を惜しげもなくまぶすのは、さすが皇族と言ったところだろう。
奴隷の時は甘い物を食べる事は出来なかったし、ロベールに成り代わってからも砂糖は高すぎてなかなか手が出せなかった。ここは人のお金だから遠慮なく食べよう。
「(チュロスか……?)」
見た感じはチュロスだ。しかし、星形ではなく丸口で絞り出したような円筒形で、砂糖をまぶしていなかったらエクレアの様にも見える。
「あぐ……」
白砂糖の様な刺すような甘みのない、キビ砂糖の優しい甘みが口いっぱいに広がった。
そして噛むと、パキリと軽快な音がした。
「麩菓子だこえぇぇぇ!?」
一瞬にして口内の水分が持って行かれた。予想外のお菓子に驚きと、水分が持って行かれたせいで口の中に麩菓子が張り付く苦しみがいっぺんに来た。
咳き込みながらメイドの淹れてくれた紅茶で口を潤し、頬張った麩菓子を一気に流し込む。気分は池の鯉のような感じだ。
「これは、パンの生地を水で洗い残った物を焼いた全く新しいお菓子なんだよ。驚いたかい?」
俺の麩菓子と言えば、黒糖が塗られていて8本くらいセットになった物で、こういったチュロス型の麩は鯉の餌でしか見たことが無かった。
そもそもこんな食材ロスの多い物を食い物として出してきたことに驚きだった。さすが皇族と言ったところだろうか。
「えっ、えぇ……。不思議な触感と砂糖の多さにとても驚きました」
初めの「麩菓子」発言について言及されなかったので良かった。あとでこんなお菓子を考案した人に会えないだろうか?
「これはできてから私と隣に居るルーディー以外食べた者は居ないんだ」
と、そこで初めてロベリオン第二皇子の隣に居る人間の名前が出た。彼を紹介するためにこの麩菓子をあてにした気がしないでもない。
「初めまして。ルーディー・プランク・ドゥ・マクシーマと申します。貴方のご活躍は騎馬部隊の方でも聞いていますよ」
「これはご丁寧に。私の名前はロベール・シュタイフ・ドゥ・ストライカーと申します。現在竜騎士育成学校の一年をしています」
俺の自己紹介を終えた所で何か問題があったのか、ロベリオン第二皇子とルーディーは目配らせをして頷き合った。
そしてロベリオン第二皇子は俺にこういった。
「君がロベールと言うのは知っている。しかし、君はどこのロベールだ?」
「ッ!?」
心臓が早鐘を打つように動く。
ロベリオン第二皇子に続くようにルーディーも口を開いた。
「私はストライカー侯爵家の第一子であるロベールと面識がある。私は今21歳で出会ったのが6年前。ロベールが7歳の時だから容姿が変わっていてもおかしくないが、君の容姿は私の記憶にあるロベールと成長と言うには異なり過ぎている」
どうする……?
そう考える頭は早鐘を打つ心臓とは違い、極端と言って良いほど冷静に今の状況を整理しようとしている。
まぁ、そうだよな。髪の色が違うのは染めていると言えば何とでもなるが、顔つきはどう見てもアジア人に毛が生えたような顔だ。ギリハーフと言っていい程度の顔つきである。どう取り繕おうとも顔つきが周りの奴らと違うし、そもそも今までなぜ突っ込まれなかったのかが不思議なくらいだ。
ヴィリアには会食がある事しか言っていない。ここでヴィリアの名を叫べば来てくれるだろうか……?
いや来る。絶対に、だ。ただし、ヴィリアがここへ来るまで俺が生き残っているかが問題だが。
逃走方法を考えている俺にロベリオン第二皇子は、その場に似つかわしくない笑みを浮かべた。
黒糖麩菓子って、なんかふとした拍子に食べたくなりますよね。なりません?
この時代や世界では、麩菓子は高級菓子と言っても差支えない気がします。
できたパン生地を水洗いしてグルテンだけを取り出すんですよ?
そのまま食べれば量も多いと言うのに、わざわざ水洗いをするなんて最初に考えた人はすごいですね。
11月12日 誤字・脱字を修正しました。
1月17日 ラフィス→フィーノに変更しました。




