準統治領からの使者
管理領地は決まった。みんな、それぞれの管理領地から使者が来て、それぞれの管理地へ出て行った。
この使者と言うのは古くからの慣習だそうで、まずは管理領地の人間がそこを管理する予定の竜騎士候補生に挨拶に来るのだ。
これには、挨拶の他にも町の受け入れ準備が整ったと言う意味合いも含んでいる。
出立した日から数日か長くて一ヶ月は、その管理領地で過ごしどのように運営されているのかレポートにまとめなければいけない。
そのレポートには助手を使っても良いらしいけど、残念なことにそんな伝手が無いので一人でやるしかなさそうだ。
ただ、ミシュベルが名誉挽回とばかりに、見た目からして凄い優秀そうな人を紹介してくれたけど、勘が良さそうだったので断った。
代わりにアムニットを連れて行こうか迷ったけど、彼女は管理領地へ行く人間ではなく通常授業があるのでダメだった。言えば、二つ返事で着いてくると思うけど、さすがにクラスメイトにそこまでやらせるのは酷だ。
だから、管理領地へは俺一人で向かう事になっている。そんな俺は、サロンで旅立つクラスメイトを眺めながら、アムニットが淹れてくれるお茶を飲んでいる。
なぜ俺が、皆が出て行くのを見守っているかと言うと、俺の所へ町からの使者が来ないのだ。
教師に確認すると、脂汗を気色悪いほど流しながら、「今までその領地を選ぶ人間が居なかったため、今年も居ないだろうと、その町は何も用意していなかったみたいです」と教えてくれた。
もう俺は、意外性の男と言う謳い文句で生きていくしかないようだ。
俺を除く最後の生徒が出立してから3日が過ぎ、さすがに痺れを切らしてヴィリアに乗って迎えに行こうかどうか検討し始めると、やっと町からの使者が来た。
「侯爵様、申し訳ございません!」
そして、この土下座である。それに、侯爵はロベールの父親だし。
サロンでアムニットが入れてくれた紅茶を飲んでいると、教師に連れられた俺よりやや年上の女の子がやってくるなり全力で土下座したのだ。
「侯爵様をお待たせするなど言語道断! 私への罰はいか様にも受けさせていただきます! ですが、どうか、どうか町の人は関係ないので、罰は私だけにお願いします!」
静かなサロン内で、哀れに思えるほど震える使者に、もう怒ると言う気も失せる。それに、女の子なのであまり責めるのも酷と言う物だろう。
そもそも、管理領地である町からここまで馬車で4日の距離があり、初めに学校から管理領地に決まったと言う手紙が行くのにも時間がかかっているので、これでも早い方なのかもしれない。
|目の上のタンコブ的な人間が管理領地に行けば学校生活も楽になるはずなのに、その人間がなかなか出発しないので、日を追うごとにクラスメイトの視線が厳しくなっている気がする。
いや、実際はそんな事は無いのかもだけど、早く出て行ってくれオーラが強い気がする。
もうそろそろ、俺は泣いても良いのかもしれない。泣く時はアムニットの胸に包まれて泣いてやる。
「こんな所で寝そべっていると、他の人の迷惑になるから辞めてくれ」
「もっ、申し訳ございません!」
顔を上げる彼女の顔は、可哀想になるほど真っ青になっており、ここに来るまでどれほど思い悩んでいたのか憔悴しきっている。
しかし、顔は田舎臭いところがあっても、なかなか整っており、服装も地味ではあるが頑張っておめかししてきました、と言う所に好感が持てた。
「え~と、俺の名前はロベールだ。君の名前は?」
「ふぁっ、ファナと言います。ロベッ、ロベール様が来て下さる、マシューの町長の娘です」
「じゃぁ、ファナ。そんなに怯えなくても良い。君が来た町は遠いと分かっているからな。それに、ほら、アムニットのお蔭で暇をしていない」
呼ばれたアムニットが微笑むと、ファナの緊張が少しだけだがほぐれたように見えた。
実際のところ、ここ最近はなかなか使者が来ないせいでイライラしていたのも事実だが、こんな風に怯えている人間に対して追い込みをかけるほど、俺は腐ってはいない。
それに、アムニットが何かと気をかけてくれたのも事実なので、アムニットの株を上げておくのも良いだろう。
「ありがとうございます、ありがとうございます」
俺とアムニットに礼を言うファナ。
「今日はもう出ることができないから、明日の午前中に行こう。宿は決まっているか?」
「はっ、はい。御者に頼み、宿を用意してもらっています」
「わかった。では、明日、また会おう」
ファナは深くお辞儀すると、教師に連れられてサロンを出て行った。
明日から、待ち望んだ管理領地だ。管理領地に言ったら、まずは温泉に入ろうか。
章は変わりましたが、改革が始まるのはもう少し先です。
7月3日 文章を修正しました。