浸透
帰還後から6時間。作戦に参加した竜騎士の責任者が、出撃前に軍議をした部屋へ再び呼び出された。
そこで聞いた話だが未帰還者は未だに13名居り、待機組の竜騎士を使って捜索しているそうだ。
ここに呼ばれた理由は戦果報告と今後の方針についてだ。
それに合わせて、俺の行った火炎瓶投げ入れについての査問である。
「まずは、前代未聞ともいえる強行作戦を成功してくれてありがたく思う」
深い声で感謝の念を伝えられ、その場に居た竜騎士達は静かに目礼した。
「今作戦について、皇帝陛下からも合理的かつ早急な対応とお褒めの言葉を頂いた。内容を話したところ、この作戦の立案が育成学校の生徒だと知った皇帝陛下は大変お喜びになられ、その生徒にも会ってみたいと申して居られた」
「良くやったぞ、ロベール」とカショール大将が俺を褒めると、周囲の竜騎士達は驚きの声を上げた。
その驚きも俺が褒められるほどの事をしたのか、と言った物ではなく、皇帝陛下が会ってみたいと言った事に対しての驚きの様だ。
良くある社交辞令の一種だろうけど、皇帝陛下が会ってみたいと言うだけでこれほどザワつくなら、かなりの戦意向上効果があるんだろう。
「ありがとうございます。候補生の身なれど、帝国の国力維持に貢献できたことを誇りに思います」
少し優等生ぶり過ぎたかな? と思わなくもないが、これから話すことを考えればこのくらいがちょうどいいかもしれない
「さて、疲れているところ申し訳ないが、今後の我々の行動について話し合っていきたいと思う。未帰還者はまだ居るが、その者達は他の者たちに探させているので気にするなと言うには無理があるが、今は置いといてくれ」
空気が静かに固くなるのを感じた。疲れているとはいえ周囲に気を配れず、落伍してしまった仲間を出してしまったと言う思いがあるのだろう。
「物資は途中落伍の者を外しても90程度は投下できたと聞くが、間違いないな?」
「はい。最後方で仲間が投下するのを見ていましたが、それくらいの数を無事に投下できました」
そう答えたのは、投下部隊で一番後ろを飛んでいたバース隊長だった。
部隊の特性柄長距離を飛ぶことに慣れており、また敵の竜騎士とやりあう事の多い山岳警備隊は技量が高く、即応してきた敵竜騎士に対応できるからだ。
「分かった。これで騎馬騎士が砦へ着くまでの食糧は心配しなくても良いだろう」
と、そこで一旦区切ったカショール大将は静かに息を吐き、そして俺を見た。
「今回はこの戦果報告の他に重大な事実が存在したことを皆に伝えなくてはならない」
フィーノかリッツハークかは分からないが、そこら辺から話が漏れたのか俺への周囲からの視線が強くなった。
しかし、それで怯むわけにはいかない。俺は何も間違ってことをしていない。そんな態度を取らなければいけないのだ。
「物資投下をした後は即時撤退をする、という命令が下っていたにも関わらずロベール、君は敵陣へ攻撃した。相違ないな?」
「はい。その通りです」
この話については、リッツハーク経由でカショール大将へ話が行っている。
そしてすぐに俺が呼び出され、幹部たちの前で証言させられたのだ。だからカショール大将としては再確認と共に、他の竜騎士への説明も含まれているのだろう。
「その時の事を説明してもらえないか?」
「はい。分かりました」
カショール大将に促され、作り上げた出撃前に行われた会話を説明した。
最終確認として騎馬騎士本部へ呼び出され、そこで出発時間が早まったこと、休憩する村がテルムット村からカムテー村に突如変更となったこと、特務として敵の頭上から何らかの攻撃をして大打撃をあたえること。それらをかいつまんで説明した。
分かりやすく説明したのと、またここに居る竜騎士で一番幼く、そして軍事的立場の低い俺が狙われた事への気の毒そうな顔をする竜騎士が出てきた。
他の竜騎士からしてみれば血気盛んな若者が「国の為」と言う甘い言葉に誘われ、褒められる行為ではない事をやらされたと見えている事だろう。
「こういう事だ。私は彼からこの事を聞き、すぐさま騎馬騎士本部へ輜重隊会計科の人間に出頭するように要請を出した」
「入ってきてくれ」と声をかけ、出入口のそばに立っていた竜騎士がドアを開けると男と女の二人組が入ってきた。
男は特に何も思っていないと言った様子で立っているが、女の方は部屋に居る竜騎士全員に見られて居心地が悪そうに居ずまいを正した。
「今回の作戦で、我々竜騎士と歩調を合せる為にあてがわれた輜重隊会計科の責任者だ」
「えっ?」
見たことの無い人――いや、ジェナスと一緒に騎馬騎士本部に行った時に見た気がしたが、それ以降見なかった人が輜重隊会計科の責任者として登場したため、俺は素っ頓狂な声を出してしまった。
「どうした?」
「いえ、私が話した輜重隊会計科の人間と違うようなので……」
あれは下っ端だったのだろうか、と思ったがカショール大将が眉をひそめて輜重隊会計科責任者を見ると、男の方が話を始めた。
「今回の物資投下作戦について、騎馬騎士本部と竜騎士本部のパイプ役は私に一任されておりました。隣に居る者は私の補佐をやっていた人間ですが、私とこの者の二人以外には関わらせていません」
まさかまさかの……。
「じゃあ、あれは誰だったんですか?」
俺が話していた奴が間者だったとは。
ほかの人間に指示ができる地位までスパイが紛れ込んでいる始末。
主人公としては、出立前に話した輜重隊会計科の人間に罪を擦り付けるわけにはいかないので作り上げた人物を報告しようとしたけど、どうやらその必要もなさそうですw
11月2日 誤字修正しました。
6月30日 ラフィスをフィーノに改名しました。




