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竜騎士から始める国造り  作者: いぬのふぐり
西方領域攻防編
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偽りの証言

「カハッ……ごえ……」


 嘔吐しそうな声を上げているのはヴィリアだ。ここまで消耗したところを見たのは初めてかもしれない。


 あのあと12騎の敵竜騎士(ドラグーン)と戦闘し、4騎を墜落させ6騎に怪我をさせて撤退に追いやり、2騎――と言うか、2頭を連れて帰ってくると言う大戦果を納めた。

 さすがに長距離を飛んだあとの12騎との戦闘は堪えたようだ。


「大丈夫か? 少し休んだ方が良いんじゃないのか?」

「あぁ、大丈夫だ……。それに、学校が見えている――目と鼻の先だと言うのに、こんな所で降りてしまってはいい笑いものだ」


 誰に笑われるのだろうか、とも思ったが、後ろを見ると敵の竜騎士(ドラグーン)から攫ってきたドラゴンが居た。笑われると言ったらあいつらの事かもしれない。


 そしてそのドラゴン達よりも上空には、俺達を監視するようにフィーノが飛んでいる。

フィーノは2騎を退けただけだが、消耗した体で2騎は良い戦果だろう。

 あとは、ちゃんと話を聞いてくれるかが問題だ……。



「ワレェ! 自分が何したかわかっとんのかぁ!!」

「ぐくっ……」


 竜騎場に降りてすぐに駆け寄ってきたフィーノに胸倉をつかまれた。

 身長差があり、さらに俺自身が軽いのでほとんど足が浮いた状態になってしまい、服の襟が首に食い込み頸動脈を締め始めている。


「だんまりか、クソボケあぁ!?」


 苦しさに声が出ない俺を見て、それがただの黙秘だと勘違いしたフィーノは激情のまま腕を振り上げたが、俺の危機に反応したヴィリアにつかまれ逆に締め上げられ始めた。


 唸り声を出しながら牙を剥きだしにし、ギリギリとゆっくり力を込めて行くヴィリア。

 身動きが取れず声どころか息もできないのか、フィーノは苦しそうに口角から泡を吹き始めた。


「いい、ヴィリア。大丈夫だから」

「――――」

「頼むから離してくれ。お前と離れるわけにはいかないんだ」

「――――チッ……」


 唸り声ではなく舌打ちをすると掴んでいたフィーノを投げ捨てた。フィーノはヨタヨタと数歩後ろへ下がると、そのまま力なく尻餅をついた。


「あぁ、それでいいぞ、ロベールのドラゴン」


 と、ヴィリアにも負けず劣らず低いうなり声のような声を出しながら近づいてきた竜騎士(ドラグーン)が手に持った鞘に納められた剣を振り上げると、そのままフィーノの顔面に叩きこんだ。


「がぁぁぁぁ!!!!」


 悲痛な叫び声を上げながら、顔面を強打されたフィーノは手で顔を覆いながら地面を転がった。


「何をしたのか分かっているか、はテメェの方だフィーノ! 何、理由も聞かずに殴ろうとしてんだ!」


 リッツハークは、(なめ)した革を三重(さんじゅう)にして強化された軍用靴のつま先で、顔面の激痛に耐えているフィーノの腹を蹴りあげた。


「カショール大将も、お前の失態の前に話を聞いてくださっただろう! 大将ができて、何で下っ端ができないんだよ! テメェはそんなに偉いのか!!」


 ドスッドスッ、と大の大人が浮き上るくらい強く蹴り上げたリッツハークは、荒く息を吐きながら俺に向き直った。

寝不足と疲労からか、普段よりもテンションが高く性格が苛烈になっているような気がする。

その前に、動かなくなったフィーノが心配になる。


あの馬鹿(フィーノ)がすまなかった。とりあえず動けなくしておいたから、あとで煮るなり焼くなり好きにしてくれ」

「あっ、ありがとうございます……。ですが、フィーノ氏の言い(ぶん)()かるのでそこまでする気はありません」

「何をやったんだ?」


 フィーノはムカついたからと言う身勝手な理由で人を殴る様な奴ではないとリッツハークは分かっていた。

 だからこそ、フィーノをここまで激怒させた理由が気になった。

だからこそ、理由を聞かずに殴りつけようとしたフィーノが許せなかった。


「敵陣へ火炎瓶を投げ入れました」

「火炎瓶?」

「アルコール……いや、この場合は油と言った方が分かりやすいですね。その油を詰めた壺を敵陣に放り込み、そして火を点けました」


 瞬間、少し――ほんの少しだけリッツハークの顔が険しくなった。


「無抵抗な相手を焼き殺した、と言う事か?」

(みな)、戦闘準備をしていた兵士です。あの場に無抵抗な者など誰一人おらず、(みな)(みな)攻めてきた我々()を打ち倒そうとしていました」


 竜騎士(ドラグーン)は一騎打ちが華と良く言われる。泥沼化した戦場で動きを作るために、騎馬騎士の一騎打ち以外の――数が少ないからこそその国の国力ともいえる竜騎士(ドラグーン)は泥沼打開の言わば安全装置(セーフティ)の様な存在だ。

 だからこそ、空の上からこちらへの攻撃手段がない輜重隊やテント内に居る兵士に対しての攻撃を嫌うのだろう。



 それがどうした。馬鹿か。



 スパイが入られまくっている状況で、そんな悠長な事を言って言っていられる場合じゃないだろう。

 物資を投げ入れても、それを防ぐ力が無ければ同じことだ。そうであれば、少しでも敵の勢力を削ぐことに尽力しなければならない。


「――それは、誰からの命令だ……?」


 来た――。少し険しい顔には変わりないが、それでもちゃんと話を聞いてくれるようだ。

 これで、俺も安心して名前を言えると言うもんだ。


「出撃前に、口外するなと騎馬騎士本部(・・・・・・)から特務として言われました」


 今度こそ、リッツハークの顔が険しくなり、俺はその顔を見ながら内心ほくそ笑んだ。


 存在しない特務を、騎馬騎士本部からの命令と言う主人公!

 今回の作戦内容が筒抜けだと想定して、直前に投下作戦のタイムスケジュールを変更し自分たちの身を守りつつ、騎馬騎士にいるであろうスパイのせいにする。

 しかし、これを言った場合、一番被害をこうむりそうなのは最後に命令の確認をしたあの輜重隊会計課の人と言う……。


10月31日 フィーノが主人公を殴るのを未遂に書き直しました。

11月1日 脱字修正しました。

6月6日 ラフィスをフィーノに変更しました。

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