作戦開始!
夕暮れが過ぎてすでに辺りは暗くなり始めている。
初めに騎馬騎士本部から指示をされた休憩する村はテルムット村だったが、今いるのは俺が直前に変えたカムテーと言う村だ。
テルムット村と比べれば小さな村だが、その分統率しやすく自分達竜騎士以外の余所者が入ってくれば直ぐに分かる。
今から4時間前に行われた軍議では、まずは日が落ちる前にこのカムテー村へと飛ぶ。そして、日が落ちるまで休息を取る。
日が落ちてから再び飛び立ち、夜が明ける前にカタン砦へ物資を投下し、敵がこちらの動きに気付いて対応を始める前に逃げると言った物だ。
口で言うには容易い事だが、荷物を限界まで積んだ状態での長距離飛行は前線をはっている竜騎士であっても過去に訓練の一つとしてやっただけだそうだ。
通達事項として今作戦に参加する竜騎士には、物資の輸送よりも自らの命を守ることを優先し、物資のせいで墜落する可能性がある場合は迷わず物資を投棄せよと厳命されている。
物資の数が少なくなるのは困るが、ドラゴン一頭に付き200キロ近くの物資が取り付けられており、一番体格の良いヴィリアに至っては倍の400キロを取り付けている。無事であればまた来られるからだ。
そしてこの重さは安全予測値ではなく、実地によって昔から決められている大体の安全積載量で、ヴィリアは自己申告による物だ。
ただそうは言ってもこの村を飛び立てば、カタン砦へ物資を投下して敵が来ない安全圏まで一度も降りる事は無い行程なので、皆の顔は緊張で強張っていた。
「日が落ちたが、そろそろ出発するか?」
空はまだ夕暮れ色に染まっているが、総指揮をとっているキース隊長が飛行開始の確認を取りに来た。
これは、俺が投下方法を思いついたからや騎馬騎士本部と竜騎士本部の伝令役をしていたからではなく、この場に居る竜騎士――俺は候補生だけど――の中で最年少なので、俺の体力の消耗具合について聞いているのだろう。
「そうですね。この村に到着するのはもう少し時間がかかると思っていたので、皆さんの休息も十分取れていると思います」
「馬鹿を言うな。この中で体力が少ないのはお前だ、お前。作戦内容の為に合わせるつもりは無いが、途中で滑落してもらっても困るから無理をするなと言っているんだ」
「私の愛竜はとても頭がよく、そして体力もあります。これだけの荷物を積んだ状態で、ここからカタン砦へ行って帰ってくるくらい全く問題は無く、また私は安全帯を付けているので最悪滑落することはありません」
プラプラと安全帯を見せると、キース隊長はあからさまに眉を寄せた。
やはり熟練の竜騎士には、安全帯は余りお気に召さないようだ。
「ならば、直ぐに飛び立つが良いな?」
「はい。望むところです」
「うむ」
安全帯はお気に召さないようだが、俺の迷いなき返事には好感を持ってくれたようで、キース隊長は満足そうにうなずいた。
俺の元を去ったキース隊長は他の竜騎士に声をかけ、外していた投下物資を再びドラゴンへ取り付けるように命令を出している。
だが、その命令は竜騎士に向けられた物ではなく、竜騎士に少しの体力を減らすことの無いようにと集められた村人に対してだった。
キース隊長を含め、俺以外の竜騎士は知らない事だが、イスカンダル商会経由で食料の配給をこの村で行う約束をしているので、それを滞りなく貰う為に村人も必死になって働いている。この分なら30分もかからずに出発できるだろう。
★
「――い、お――――ル」
びゅうびゅうと風が吹き付ける中、呼ばれたような気がして薄ボンヤリと意識が覚醒を始めた。
「おい、起きろロベール」
「ふぐ!?」
「もうすぐカタン砦だ。周りも慌ただしくなり始めたぞ」
「そっか。ありがとう」
荷物を背もたれにして寝ていたので肩と尻が凝ってしまったが、竜騎士本部から支給された高級防寒服が思いのほか性能が良くヌクヌクとしておりガン寝してしまったようだ。
「寝ていた俺が言うのも何だけど、ヴィリアは大丈夫か?」
周りの竜騎士の動向に目を配らせながらヴィリアの首筋を撫でながら話しかけると、ヴィリアはくすぐったそうに鼻を鳴らした。
「ふん。私は人間と違って三週間寝ずに過ごせるし、一週間と少しは何も食わなくても大丈夫だ。荷物が増えたくらいで長距離を飛ぶなど、私にとっては造作もないことよ」
今明かされる知られざるヴィリアの真実。そんなに高性能だったのか!?
「それより、お仲間が9人ほどはぐれたぞ」
「マジか」
「大マジだ」
辺りを見渡すが、月明かりがあるとは言っても夜明け前の一番暗い時間帯だ。人間の視力では遠くまで見る事は出来ないし、例え見れたとしても数える事はかなり大変だろう。
「やっぱり無理があったかな……」
とは言うものの、敵に悟られないように高度は余裕を持って2000メートルくらいを飛んでいる。気温は零下になるかならないかと言った温度で、なおかつ俺はヴィリアが発熱しているので温かいが、発熱機能の無い普通のドラゴンで脱落者が9名と言うのは、数値としてはかなり優秀だろう。
これで残りは91頭だ。積んでいる荷の重さは200キロであっても、それは外殻も含めての重量なので中身を鑑みれば心もとなさ過ぎる。
「まあその半分以上が下降ではなくておかしな方向へ向かっていたから、上に乗っている奴が寝たか仲間を見失っての迷子だろうがな」
なんたる失態! 俺も同じ状態だったから人の事は言えないけどさ。やっぱりクルーズヴィリアコントロールは最高だね。
そんな事を話し合っていると、前方からチカッチカッと明るい光が後ろへ向けて放たれた。
「下降の合図だ。作戦が始まるぞ」
「あぁ、分かった」
「再度確認するが、もし敵竜騎士が上がってきたとしても物資の投下を最優先とし、敵竜騎士への対応は攻撃目標撃破後とする。いいな?」
「安心しろ。お前のやりやすいように動いてやるよ」
「頼んだ」
一番直近を飛んでいた竜騎士が下降を始めた。ヴィリアもそれに続いて下降を始めた。
物資不足の為か、2000メートル上空では分からないほど小さな篝火がそこらに焚かれいる。そんなカタン砦へ北側から進入を開始した。
カタン砦へ物資投げ入れ作戦が始まりました。
今作戦の目的は物資の投下であり、それが終わり次第敵が対応を始める前に撤退となっています。
ならば、主人公の目標とはいったいなんなのだろうか……うごごごご




