準統治領4
そのまま数枚確認していると、ある主要産業が目に留まった。
「主要産業、硫黄採取?」
ふと、羊皮紙に書かれている文面をつぶやくと、教師が補足説明を始めた。
「そちらは、旧帝国首都があったところです。山のもっと向こうにあり、岩の隙間から湯気と毒ガスが出ている地域です。首都が移動してからは、移動の悪さがあり余り交流自体が少なくなっている土地ですね」
山で、湯気と毒ガスって、まんま温泉地じゃないですか!
温泉の湧いている地方出身の俺にとって、その土地は本気で過ごしやすそうだ。しかも、外と交流があまりないってのも魅力的だよね。
「ここは、ドラゴンでどのくらいの距離がありますか?」
「そうですね。ロベール様のドラゴンはかなり速度が出るので、三時間と言った所でしょうか? ですが、申しました通り交流が少なく遠いので、ロベール様の様な高貴な方には、あまりお勧めしない泥臭いところですよ?」
「いや、ここが良い。他に、この土地に行きたい奴は居るか?」
教師がやんわりと止めるように言ってきたけど、温泉があるなら行くしかないじゃないか。
みんなに確認をとっても、みんな目を背けるだけだ。これって、俺が行っても良いってことだよね?
「お待ち下さい、ロベール様」
チッ、温泉地を狙っている奴が俺以外にも居たようだ。
声の主は、クルクルパー――じゃなくてクルクルヘアーのミシュベルだ。何を勘違いしてか、俺の周りをうろちょろしている金魚の糞状態の女だ。
「先生の言う通り、そこには劇場もなくまた有名店もないドがつく田舎ですよ。ロベール様が行けば華やかになること間違いなしですが、それと同時にロベール様が土臭くなってしまう可能性もあります。そういった役は、他の者に任せておけばいいのです。例えば――」
そう言ってミシュベルが睨みつけたのは、騎馬騎士の息子のアバスだ。
軍属の中では高い地位に居る彼の父親だが、今ここに居るメンバーの中ではかなり見劣りしてしまう。
彼もそのことが分かっているので、ミシュベルの挑発的な視線に特に何も言わなかった。
「そこに居る、アバスさんなんて良いと……。彼は将来的にはお父上の跡を継ぎ、辺境戦専門の竜騎士になるそうですから、ド田舎の方が性に合っていますわよね?」
うんともすんともいわず、アバスは俺が「行け」と言うのを待っていた。
男爵の娘、それも次女に言われるくらいなら、侯爵家の長男に言われた方がまだ溜飲が降りるのだろう。
「アバスはこの町にいきたいのか??」
「俺に拒否権はないです」
「なら諦めろ。俺が行きたいんだ」
「なっ!?」
その場にいた、全ての人間の顔が驚愕に染まった。まさか侯爵家の我が儘坊主が、そんな辺境というか魔境みたいな所に行くとは思わなかったのだろう。
「おっ、お待ちくださいロベール様。優しいロベール様の事ですから無理をなさっているのでしょうけど、貴方様はそのような事をしなくても良いんです。こいつを行かせておけばいいんです」
なおも突っかかってくるミシュベルを、俺は睨みつけた。
「ひっ!?」
「言いたいことは、それだけか?」
「あっ、あの、私はロベール様を思って……」
「俺の事を考えている割には、思慮が全く足りていないな。それ以上、口を開けば親父経由で学校と男爵に抗議が飛ぶぞ?」
ストライカー侯爵は、この国の前の大戦で活躍したため、皇帝の信頼が厚く国家選定議会にも呼ばれる大貴族と言うのが、俺が知りえたストライカー侯爵家だ。
その内容とは裏腹に、圧政を行い常に高い税をかけていると言う悪い噂もよく聞こえるけど、その話はべつの時にでも。
そんな貴族から抗議が行けば、学校はその生徒を退学にしなければいけないし、また男爵に至っては爵位を下げられることは無くても、周辺貴族との交流が一気に無くなり物資の輸出入が滞る可能性がある。
実質、ゆっくり死んで行ってね状態だ。
だから、俺に気に入られようと、何かと口を挟んでくるミシュベルだが、今回の事は裏目にでたうえ、何がいけなかったのか分からないのか青い顔で周囲に視線で問いかけている。
問われている方は関わりたくないので、全員が下を向いている。
「まだ……何か意見があるか?」
ミシュベルから始まり、この部屋を一周するように集まった学生たちを見ると、特に意見は無いのかみんな黙った。
ただ一人だけ、カタカタと震えている人間だけを除いて。
やっと、ロベールの毒牙にかかる町が決定しました。
次から章が変わりますが、町に行くまで時間がかかります。
3月2日 文章を一部編集しました。