良案妙案
遅くなりました……。
「士気で腹が膨れるものか」
そう言ったのはやや恰幅の良い竜騎士だった。太っているではない、相撲レスラーの様な全身筋肉的な恰幅の良さだ。
「そんな当たり前のことを話して何になる? 私はもっと根本的な話をしているんだ」
「その根本的と言うのは何なんだ? 竜騎士だけで助けにでも行くのか?」
「そんな事をしては、イガ栗の様になって終わりだ。私が考えるに、先も言ったように砦にはエクルースが詰めている。食料さえなくならなければ、腰の重い騎馬騎士本部が動き出すまで耐えることができるはずだ」
愛竜をイガ栗にした俺が言うのも何だけど、あの矢の嵐に耐えることができたのはヴィリアだからだと思う。
学校に帰ってからクラスメイトのドラゴンを見て回ったが、確かに皮は厚いように思えるがそれでもヴィリアよりも薄いと思った。育成員に聞いても、矢に射られれば怪我をすると言っている。
「どうやって食料を渡す? 荷物を乗せると言っても、人間2~3人分くらいが限界だ。それに、あの生徒の話によれば敵の対応もとても素早い。いちいち降りていては、空を封鎖される危険もある」
「荷物を空から投げ入れれば良い」
「なっ!? 空からだと!?」
なるほど、空中投下か。元居た世界ではありふれた物資の輸送方法だったが、ここに居る全員の反応を見たところ前例は無いようだ。
「空から投げ入れるのは良いが、投げられる物はパン等柔らかい物に限られるのではないのか?」
賛否両論と言うか、想像に難く新し過ぎる方法に他の全員がついていけていないなか、カショール大将はその方法で運べる物を考えていた。
無理だ無理だ、と言わずにできうる事を考える頭を持っているのは、さすが本部を預かる総大将と言ったところだ。
「どこに投下するかにもよります。前にやった時は民家に投下しました。酒樽を8つ投下し、内6つが生き残りました」
「酒樽が6つか……。その時、その民家の住人はどうしていたんだ?」
「家主はすでに逃げていたので特に問題はありませんでした。戦時なので、家の損壊は仕方のないことでしょう」
「なるほどな」
ドワーフ並のアゴ髭を撫でながら、カショール大将は黙想した。
空中投下は悪くない案だが、それに伴う損害が酷い事になりそうだ。そもそも、仕方が無い事とはいえ、家主が可哀想すぎるだろう。
「しかし、物資を投げ入れるのは砦だ。屋根のある場所は兵士の寝床になっているだろうし、万が一負傷者の居る所に投げ入れてみろ、とんでもないことになるぞ」
「ならば、まずは人の居ない所に投げ入れれば良い。前回の物資の投げ入れはエクルースの部隊に対して行った。奴ならすぐに気付いて、投げ入れても良い場所を直ぐに指示するだろう」
すんげぇ行き当たりばったりの作戦だが、ここに居る皆はそれが最善と思い始めたのか「運ぶ物資はどうするか」「編隊はどうするか」「そもそもいつくらいに突入するか」と言った事を話しはじめた。
「ロベール君。君はこの作戦をどう思った?」
完全に蚊帳の外と思っていた俺に、隣に座っていた校長が声をかけてきた。
「あぁ、そうですね。投げ入れは危険だからパラシュートとか付ければいいんじゃないんですか? もしくは物資を入れた箱の周りに骨組みを作り、衝撃をその箱の骨組み全体で受け止める方法が良いと思います」
「うん? パラシュートと言うのが良くわからないが、骨組みと言うのは、骨組みを作って箱を強化すると言う事か?」
「骨組みが頑丈だとぶつかった時の衝撃が箱に伝わってしまうので、骨組みはある程度弱く作ります。その骨組みが地面にぶつかる衝撃を吸収して破壊されるので、その骨組みに囲まれている箱は無事と言う訳です」
衝撃の分散とは、身近な物で説明すると車のボディだろう。あれはボディを柔らかくすることで衝突した時の衝撃を吸収し中の人を守っている。
今言った二つの方法だが、この国の工業力を鑑みるにパラシュートは少し無理があるかも知れない。
絡まりにくい丸型のパラシュートを制作するにも、綺麗に空気を含むように作らないといけないし、何より物資の重みに耐えることができる限界ギリギリの細さのロープも作れないだろう。
そう考えると、必然的に衝撃吸収タイプの骨組みになるだろう。
「カショール大将、発言の許可を願いたい」
校長は手を上げると司会を通り越して、直でカショール大将へ言った。
「あぁ、言ってみてくれ」
やんややんやと話し合う外側で、カショール大将は眉間にシワを寄せながら良い考えはない物かと考えていた。
そこで今まで空気だった竜騎士育成学校の校長が手を挙げたのだから、カショール大将でなくとも期待してしまうというものだ。
先ほどまで煩かった人たちも、「どんな意見がでるのか」と言った様子で校長を見た。
「いや、発言者は私ではない。彼だ」
そう言って校長は隣に座っている俺を手の平で示した。
「ふぇっ!?」
完全に気を抜いていたので、間抜けな空気が口から出てしまった。
ここが騎馬騎士本部であれば咳の音が聞こえる場面だろうが、ここは身内しかしないので特にそんな事はされなかった。
「えぇと……君の名前は……」
「ロベールです。ロベール・シュタイフ・ドゥ・ストライカーです」
俺の名を思い出そうとしているカショール大将に、俺よりも早く校長が名前を教えた。
その悪名高きロベールの名前は、竜騎士のトップ陣営にも広がっているらしく、「ストライカー侯爵家の嫡子か……」「まさか、あれが?」「想像と違うな」と様々な意見が小さく飛び交った。
校長的には学生の俺に発言させる為のナイスアシストのつもりかもしれないが、悪名高きロベールが頭を使った事を言えるのか疑問だ。
あんまり目立つような事を言うと身バレが加速してしまうぞ。
「ではロベール。何か良い案があるらしいが、どんな案だ?」
「えっ、あぁ、はい」
ここまで来てしまっては言わない訳にもいかないので、全員が注目する中、俺は校長に説明した内容をもう少し噛み砕いて話しはじめた。
パラシュートには長方形と丸型があります。
長方形は絡まりやすい代わりに操作性が良く、丸型は綺麗に膨らむ代わりに操作性に劣ります。
またパラシュートと人をつなぐ紐はとても頑丈で、とある工場ではドラッグシュートで出た紐を部品固定用のひもとして使っています。
とある機体のモックアップを固定するのにも使っていたはずです。




